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猫になった私は嫌いですか  作者: 垢音
他国交流篇
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第39話:可愛いは正義

ーラーファルの部下視点ー

  


 ラーファル様からディーテッド国の要請で国を出ると言われ既に3日。そろそろ国に着いている頃かな、と休憩場所でふと思った。




「フナァー」  

「ミャー、ミャー」  

「ミャ、ミャ」 




 レント王子が猫を飼っているのは前から知っていた。が、それが7匹とまではと驚いていたが、兄が言って嬉しそうに伝えて来たのを思い出す。

 その猫達に囲まれ甘い声を出して甘えられている人物がいる。

 

 薄いピンク色の髪が印象的な女性。濃い紫色の瞳は宝石のような輝きがあり、見る者を惹きつける不思議な魅力がある第2王妃のウィルス様。王妃とはいえ、正式に結婚はまだしていないが第2王子のレントからの溺愛ぶりは既に城では周知の事。

 遅かれ早かれ、そう呼ばれるのだからと既に定着した呼び方だ。


 今日の彼女は髪と同じ色のドレスを身に纏い、国王から貰ったと言うチョーカーを付けているだけで他の装飾品はない。猫の世話をする為に必要最低限の物は身に付けないらしい。




「落ち着いて、大丈夫だからね…。うきゃ!!」




 体に纏わり付かれ、バランスを崩し倒れそうになる所を咄嗟に助けた。とはいえ、ずっと見ていたのはワザとだが。




「平気ですか」

「は、はい。ありが、うきゅう」

「ミャア、ミャア」




 お礼を言い切る前に子猫がウィルス様をペチペチと叩かれている。既に見慣れている光景だからか、俺以外にも来ている師団の者や騎士達には微笑まれている。


 止める者が居ない中、ウィルス様は今日も猫達に甘えられている。むっとした表情の後、頬を叩く子猫を頭に乗せそのまま俺に振り向いた。




「助けていただきありがとうございます。この子達、暴れん坊で……迷惑掛けていませんか?」




 首を傾げながら聞いてきたウィルス様。

 自覚がないのだろう。俺はニコリと笑みを浮かべるが、ウィルス様の仕草で倒れる者が多くなった。今も──。




「おい。何があった!?」

「っ、ダメだ……可愛すぎ、て……」

「直視、出来ない……」

「尊い……」

「無自覚で男を落とすとは……」

「マジで地面に倒れてるけど、良いのか? 運ぶか、ここに居るか?」

「「「運んでくれ。色々、辛い……」」」

「頑張って慣れろ。癒やされるのは分かるがな」

「「「頑張ります」」」


「……?」

「フミャア?」




 彼女は単に聞いてきただけだ。

 子猫を頭に乗せ、首を傾げながら振り向いた。それだけで、休憩していた騎士や師団の人達の何人かは必ず倒れる。


 仕事に厳しいラーファル様が、居ないのも原因かも知れない。しかし、確実にウィルス様のファンは増えていく。彼女の知らない内に、ひっそりと。王子である2人にバレているだろうが、なんせ本人に自覚がない。


 

 王族の魅力なのか、猫好きだからこんな事が起きているかは分からないが。今日もウィルス様は知らず知らずの内に男達を落としていく。




「あの、大丈夫ですか? なんだが、後ろで運ばれていく人がいたんたんですが」

「平気です。ウィルス様は気にしたらダメです」

「は、はぁ……」




これで追って行ったら、男達にさらなるダメージが来る。

 阻止する為に俺は彼女を呼び止め、そして誘った。

 ──これから、おやつタイムにしませんか? と。



 

「……い、いえ。大丈夫です。それに今日は」

「限定スイーツ、今日までですよ」

「っ……」




 誘った時に一瞬で目を輝かせたのを見逃さなかった。同時に纏う空気が一気に華やかになった。が、すぐに心のシャッターをするように断ろうとした。

 

 ”限定スイーツ”と言う言葉にピクリと反応し、苦しそうに悩んでいるのが分かる。視線を彷徨わせ、どうしようかと悩む彼女にもう一押しする。




「今度、王子と来たらきっと褒めてくれますよ。下見に行きません?」

「レントが……褒めて、くれる……」




 下見か、とブツブツと言っているから(行けるな)と密かに笑みを浮かべる。数秒後、「ぜひ、お願いします!!!」と手を握るウィルス様。




「レントの為に行きます!! あと味見もかねて」

「では行きましょうか」

「はい!!」




 ルンルン気分の彼女を見てニヤリとなる。

 ウィルス様、分かりやすいです。レント王子の為と言いながら、限定スイーツを食べる為にと嘘を言った。……ふふふ、素直過ぎて変な笑いが起きそうだ。


 連れ出す俺に、殺気にも似た視線を晒すのは騎士達だ。師団の方は羨ましいといった感じで、俺とウィルス様を見る。


 悔しかったら、ひっそりと見てないで誘え。食べ物で釣れば一発だから。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 第2王都でウィルス様と並んで入ったお店は貴族令嬢も、並んでも食べたいと人気のお店。2階建ての大きな店構えであり、2階に入るには店の者に公爵家である証を見せる。

 俺の場合は、家の者だと言うエンブレムを見せれば良いだけだ。実際に来た事があるからか、顔も覚えられている為に即座に動いてくれた。 

 2階の個室に案内され、ウィルス様と席につく。彼女はメニューを何度も見ては閉じるを繰り返している。余程、気に入った物があったのかな。





「……他にも食べてます?」

「えっ!? あ、いいえ、その………」

「無理は体に毒ですよ」

「…………」




 石のように固まったウィルス様。あぁ、そう言えば言っていなかったか。俺は貴方の事情を全て知っているのだと。だから、隠すのは無駄だと……。飼い猫のカルラと呼ばれる猫の分も食べている為に、令嬢が食べる量としては遥かに多い。


 恥ずかしいのだろうなと思い暫く観察をする。決まるまで先に紅茶を2つ頼んでおいて良かった。




「き、決まりました」




 そう言って頼んだのは限定スイーツのプリンパフェとイチゴのショートケーキだ。俺が頼んだのはプリンだ。そして、目を輝かせてそのパフェを見ており食べる気配がない。




「どうしたの、食べないの?」

「っ。す、すみません」

「………」




 パフェ用の長いスプーンを持ち、プリンをユラユラと揺らして楽しんでいる。飾り付けられているイチゴやバナナをじっと見て、一口食べた途端に幸せそうな表情をする。


 モグモグとゆっくりではあるけれど、楽しんでいるのでお気に召したのだと分かる。紅茶も飲みほっと一息をつき、パフェの続きを楽しむ。終始、幸せそうな表情のままケーキもパフェも食べて大満足の様子。




「ふふっ、気に入って貰えて良かったよ。美味しかった?」

「はい。ほっぺが落ちるかと思う程に美味しくて………はわぁ、幸せです」




 それで幸せならレントが少し可哀想だけどね……。っと、本人の前で言うには危険すぎるな。




「んふふっ♪」




 今も頭の中ではパフェとケーキの味を思い出しているのか、嬉しそうに顔を緩ませている。その表情を見ただけでも誘った価値はあったなと思い、翌日彼女が驚く表情を楽しみにして城へと送り届けた。


 その日の夜、屋敷の自室で今日の出来事を思い出し嬉しそうにする俺。そこにノックもなしに入り込んできた人物がいる。兄だ……。




「どういうつもりだ、スティング!!!」




 黒髪の体格のいい兄。その表情は怒りに満ちており、既にバレている事に内心で早いなと思いながらも「何です?」ととぼけて聞く。




「っ、何故、ウィルス様と王都に出かけたんだ!!! あの後、レントとナークを宥めるのに大変だったんだぞ」

「良いじゃないですか。元々、城に籠っているんですから気分転換です」

「食べ物で釣っておいてよくそんな事を言えるな」

「ウィルス様がよく食べて尚且つ、幸せそうにしているのは周知では? 料理長もいつも感激しているって話ですよ」

「っ、それは……」




 今日でも思った事だが、彼女は綺麗に残さずに食べている。城で出される料理も全て綺麗に残さずに食べている事から、働いている料理長からは「嫌いなものってないんだな」と感激している位だ。

 作る側も嬉しいのだろう。様々な料理や盛り付けをし、ウィルス様を喜ばせているのが日課になっている。……毎回、レントと食べさせ合っていると言うのは伏せているけどね。




「あんな幸せそうに食べるんだから、レント王子は幸せ者ですよ。少し位分けて貰っても良いと思いません?」

「そんなことしなくても明日、ウィルス様に紹介されるのに……」

「それは護衛としての俺ですよね。いやー、明日驚く顔が楽しみだなぁ」

「レントに斬られても知らないぞ」

「頑張って防ぎますよ」




 溜め息を吐く兄はそのまま疲れたように部屋を出て行く。さて、今日は早めに寝て急いで執務室に行かないと……。


 翌日、レントの執務室に向かえばウィルス様はクレール様の後ろで震えておりレントが笑顔で迎え入れた。昨日の件も含めて俺を叱りたいらしい。ジークは目で「頑張れ」と一応応援してくれている。兄は………うん、無視を決め込まれた。




「やぁ、スティング。昨日はウィルスと楽しく過ごしたようだね」

「ダメですか?」

「………」




 キッと睨まれる。ダメだと言う事か。……ウィルス様がビクリと震えていますが良いんですかね。ウルウルした目でレントを見ているし、まだ俺には気付いていないな。




「あれ……」

「どうも」




 そこでやっと俺に気付き、キョトンとなる。うん、その表情も可愛いね。俺が呼ばれた理由も分からない様だから、紹介しようと思う。




「昨日ぶりです、ウィルス様。俺はバラカンスの弟、スティングと言います。魔法師団に身を置き、ラーファル様から貴方の護衛を務める様にと言われました」

「え………ええええぇぇぇぇ!!!!!!」

「ちなみに昨日の事は、諜報員には全て見られているので。……皆様、ウィルス様の事を可愛いと言っていましたよ」

「っ………!!!」



 途端に真っ赤になるウィルス様。うん、小動物を飼う人の気持ちが分かった気がする。これは……手放せないな。




「レント。毎日、可愛らしい婚約者と居て幸せ者ですね」

「羨ましいからって勝手に連れ出さないでよ」




 その後、ウィルス様から「バラカンスさんの弟って……うぅ、恥ずかしい!!」とクレール様の後ろからショックを受けている様子。

 ふふふっ、今日も観察して楽しんでおきますね♪ また、2人だけでスイーツ食べましょう?


 無論、レントに怒られるまでがセットで行きますとも。

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