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猫になった私は嫌いですか  作者: 垢音
王子と彼女との出会い篇
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第36話:密かな変化、気付かれた気持ち


「う、うぅん………」




 頭が少しだけガンガンとなるが、昨日よりは体が軽いと気付く。ユラユラとした意識で誰かに手を握られているのだと気付く。まだ覚醒していない頭でも起きなければ、と言う気持ちが先にある。


 昨日、ラークさんに色々と薬草を煎じたお茶を頂いた。何故か、ラーファルさんが意気揚々とその薬草を必要以上に入れていた気がする。……ラークさんの表情が凄く悲しそうにしていた。


 だって言うのに、私ときたら……貴重な薬草よりも果物を食べている方が落ち着くとは。ラークさんが悲しそうに「そう、ですよね……えぇ。そうでしょうね」と傷付いた表情をしていたのを忘れない。


 ごめんなさい………。私だって驚いているんです。


 でも、昔からなんですよ。熱を出した時も、病気をした時も、私はどんな貴重な薬であろうと、霊薬であろうと、それよりも果物とかの食べ物の方が治りが早いんです。


 はい、なんでか……そうなんです。

 だから、今日は起き上がってラークさんにお礼を言おうとして握られている手を目で追っていき驚いた。

 



「レ、ント……?」




 サラサラとした銀髪のあどけない寝顔の、婚約者。


 そう言えば、寝顔を見た事がないと思いじっと見てしまう。整えられた顔、綺麗な鼻筋、仕事終わりに来たんだろかといつもの黒い上下のきっちりとした服。

 

 


「………。」




 ノソノソと起き上がり、なんとかレントの上着を脱ぎ1人掛けソファーに掛ける。名前を呼ぶが、彼はスヤスヤと寝ているのか起きる気配がない。




「レント……。レント、起きな、きゃっ…!?」

「あと、ちょっと……。」




 いつの間にかベッドに潜り込み、そのまま私ごと抱き締められる。抱き枕のようにぎゅっとしながらも、器用に力加減をしているのか全然痛くない。




「……ウィ、ルス……」

「!!!」




 み、耳に、レントの声が……。

 うぅ、後ろからだから完全に動けない。試しにシタバタしてもピクリともレントは起きないし、さらに抱き締める力が強まった。


 お、起きてないん、だよね……?




「レント。ねぇ、レントってば」

「ん、んぅ……?」




 トロンとした目で私を見るレント。

 瞬きをしてから「平気?」と心配した様子でみるが、昨日たくさん寝たから平気だと言えば微笑まれた。




ーそう。なら良かった……ー


「!?」




 何だろう……。今、レントが微笑んでくれたのと同時に聞こえてきた彼の声。でも、見つめ返してもいつものように微笑んでいるだけだ。




「どうしたの?」

「え、ううん。……なんでもない」




 うん、別に変わった様子はない。私の耳がおかしくなったとも、頭がおかしくなった訳じゃない。うん、全然平気だ。




「ふふっ、どうしたの。変な顔だよ」




 そう言いながら、プニプニと私の顔を感触を楽しむように触ってくる。ダメだ、なんか心地いいとか思っている。ダメダメ……レントに飲まれたら全部丸め込まれる。




「べ、別に……。ねぇ、レント。ずっとついていてくれたの?」

「当たり前でしょ?」


ー可愛いウィルスの為だもの。それでなくても、熱を出したって聞いて心配したのにー


「………っ!?」

「ウィルス?」




 だ、ダメだ!!!……何で、何でなの!?

 急にレントの声が、私の頭の中に響いてくる。……え、これ今レントが思った事で良いの? だ、だとしても何で急に……。




「平気?」




 ぴとっとレントの手が私の額に乗せられる。熱は引いたずなのに、また熱くなっていく。うぅ、何で……何でなの。




「んー。熱はないよね……あれ、顔が赤いよ。平気?」

「ぴうっ」

「…………ぷっ」




 お、思わず変な声が出ちゃった。レントも不思議そうにした後で凄い大笑いをした。恥ずかしくて向きを変えれていれば、再び向き直される。これを続けられて既に5分くらいだろうか……。


 逃げたいのに元々狭いし、レントがなんかいつにも増して甘い。




「ねぇ、ウィルス。もう降参しなよ」

「……うぅ。レ、レント……仕事、どうしたの」

「…………」




 途端にピタリと動きが固まる。じっと見つめれば、レントにしては珍しく顔を逸らし「ごめん、ウィルスが心配で……」と謝って来た。もしかして、と思って聞いてみれば私が熱を出したと言う事でレントは執務を放棄して来たと言う。




「ダメじゃない……」

「ダメって」




 困ったように見つめられ「心配したんだから」と抱きしめて来る。

 いやいやいや、それで解決できないからね。誤魔化せられないからね?




「あ、ウィルス。熱も大丈夫そうだし、私もこのまま寝っちゃってお風呂入ってないからさ。一緒に入らない?」




 なんか、とんでもない事を言っていますが……。気のせい、だよね?

 何を言い出すんだ、この婚約者は。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「気持ち良かったらちゃんと教えてね、カルラ」

「フニャ~ン♪」




 ふう、ごめんカルラ。犠牲は無駄にはしな……じゃない。代わって貰ったのに何を言っているんだか。




「ニャウニャウ」

「ん? 私は平気だよ。先に洗ったからね」




 スリスリしてくるカルラに頭を撫でながら答えるレント。

 お風呂に入ろうなどと簡単に言うからそれは断固拒否した。でも、諦めてくれないし……ファーナムは何故か準備が出来ていると言う。


 え、この2人なんでそんな事まで分かるの? って、私の方が不思議に思った。タオルとか寝巻を用意している辺り了承済みで尚且つ、ファーナムは「終わりましたらまた」と言って普通に出て行くし……。



 えーーー、と思いながらチラッとレントを見ると既に上半身が見えており急いでカルラに代わって速攻でお風呂に入った。広すぎる解放的な空間、とにかく隅で大人しくする。



 よし、どうやって抜け出すかと考えるもうーんと唸っている間にレントは入って来ていた。既に体を洗い終え、カルラを探していたと言う。




「私は洗ったから今度はカルラの番だよ」




 そう言われ、カルラは抵抗なく寄ってきて今に至る。

 体を洗って貰い機嫌が良いのか「ニャウ~~」と楽しそうに鳴いている。


 幼い頃からいるからお風呂はそれなりに好きなカルラ。ちょっとレントのテンションが低いのが気になる、けどね。




「カルラ。ウィルスに代われる?」

「ニャー!!」




 そうそう、はい!!じゃないよねぇ。


 え、ちょっ、ちょっちょっと待って!? カルラ、何を言っているの!!!




「流石、話がよく分かっているね。そう思わない、ウィルス」

「あ、うあ………」



 なんてこと、だ。

 カルラ? 何故、機嫌良く答えて普通に代わるんだ。あ、そうか。体洗って貰って、嬉しいのか……。ううっ、失敗したぁーー。




「ウィルス?」

「ふ、ふぇ!!!」




 私には既にタオルがあった。カルラに急に代わったのに、だ。レントは元々、こうなるように仕組んだのだと思う。

 カルラ……分かってたの? なんだが、「ニャーン♪」と機嫌の良い鳴き声をしていると思った。




「髪、洗っていい?」

「っ。……そ、それ、目的でしょ?」


ーま、まぁ……ラーグレスには洗って貰ったから良いかなー


「ウィルス?」

「ぴゃい!?」



 な、何で!? レントの声が不機嫌になるの!!




「な、なななな、何……?」

「……ラーグレスがお世話係していた、と言うけど……お風呂とか入ったの?」




 コクリ、と頷いたら寒気がした。お、おかしい……暖かい空間の筈なのに、何で冷えていくの!? 




「レ、レント……」

「ん? なぁーに?」




 語尾を可愛く伸ばしてもダメだ。目が、目が笑っていない。物凄いブリザートが風呂だと言うのに寒く感じる。現に私がガタガタと体を震わしているのだ。お願い、気付いて……!!!




「………」




 じっ、と見つめて来るレントは何を思ったのは急に私の身体を持ち上げる。「えっ!?」と驚く間は与えてくれたけど、次に来た温かさに思わずほっとした。


 成程、広い浴槽に入れてくれたんだ。………離れようとしても、ぐっと引き寄せられてしまう。え、このまま?




「……ごめん。ラーグレスに嫉妬した」

「へっ……」




 いきなりそんな事を言うから思わず変な声が出てしまった。嫉妬? 何で?

キョトンとした私にレントは「気にしないで」と言いつつ、優しく頭を撫で髪をすくう。




「……ホント、髪が綺麗だよね。洗うの大変じゃない?」

「い、いつも女官の人達に洗って貰うから……。ね、ねぇ、そんなに珍しいの、私の髪の色。女官の人達も褒めながら洗ってくれるし、珍しいって……」

「そうだね。一応、王族の髪と瞳はその国で採れる宝石の色を元にして生まれるからかな……」




 レントの話ではリグート国はエメラルドが豊富に取れるし、宝飾品も一級品。加えて国王であるギース様の瞳は水色だけど、魔法を扱う時にエメラルド色になる事。風の魔法=緑系統の瞳、もくは髪の色が出ると言われている。


 隣国のディルランド国でも、デートル様とエリンス殿下の瞳の色が赤系統の色でありガーネットが有名だ。国で採れる宝石の原石に関する色=王族の証と言っても過言ではないのだとか。




「……まぁ、国で採れる宝石に色が王族である私達の証のようなものだからね。他国に外交に行く時には、自国の印としてアクセサリーとかに宝石を組み込む位にここでは常識だしね」

「私の国は……えっと、確かアクアマリンが採れるって言ってた。だから、バルム国は青系の髪の色の人とか多い、かな。あと水と風の魔法を扱う人が多かったよ。だから、お母様と私だけはピンクの色なんだけど私は何故かお母様よりは色が薄いんだよね。何か、理由でもあるのかな……?」

「アクアマリンか……。ふふっ、緑と青の様な色だからリグート国と友好を結ぶのは良いと考えたんだろうね。お陰で私はウィルスに会えた訳だし」

「も、もうっ……すぐそんな事を言う」




 プイっ、と顔を逸らすと何故か小さく笑われた。むっ、レントは何かと私と会えたのが奇跡だの、運命だのと言って来る。……ま、まぁ、そこは否定しない。

 幸運、と言うのは大げさなのかも知れないけど。

 あの時、レントが視察としてバルム国に訪れなかったらどうなっていたのだろうかと時々思う。そうなったら、私はお父様の言う様にラーグレスと結婚していたのだろうか?


 ………想像、出来ないな。彼はお兄ちゃんの様な存在だし、幼い頃からお世話係もしていたからお風呂にも入った事だってある。そう。だから私はあの時、ラーグレスと入れて良かったのだと思う。幼い時に戻れたと言っていたラーグレスの言葉にも、納得できる。

 必要以上にくっついてしまったのかと、ちょっとだけ反省はした。


 でも、ラーグレスとレントだと……こう、なんて言うのか……レントの方が緊張する。やっぱり婚約者だからよね。




「ウィルス。ラーグレスと最近、お風呂にでも入ったの?」

「ぴゃう!?」




 首を振っても再び目が笑っていないのに、器用に笑顔なレント。え、口に出していないのに何でそんな事まで……。




「ま、待って!!! な、何でレントはさっきから私の言う事が分かるの!? 今朝だって」

「今朝って、何のこと?」

「っ、何でもない!!!」


ーレントの声が聞こえたとか、そんなんじゃない!!!ー


「へぇ………ウィルス。何を思ったの?」




 何を思ったのか、レントは私を浴槽の縁に乗せた。ヒヤリとした冷たさに、火照った体には良いのだが別の意味でまた熱くなる。慌ててタオルで前を必死で隠すとその間にレントは腰に巻いたタオルで座り――いきなり引き寄せた。




「!?」

「ねぇ、ウィルス……何を思ってくれたの? 気になるなぁ」




 うぅ、耳元にレントの吐息が……!!! 

 待って、待って頭がショートするよ。色んな事が慌て過ぎてて、自分じゃ処理しきれないよ……。




「う、あ……そ、そんなの、わかんないよぉ………」


ー心臓に悪いのは確か!!!ー


「酷いなぁ……ウィルスは私とお風呂に入るの、嫌なの? 心臓に悪いだなんて、酷い事を思うんだね」

「っ、うえ………」




 思わず口に手を当てた。でも、やっぱり口には出していない。でも、レントには全部バレている。え、え、と混乱する私は思わず心の中で訴えた。


 心の中で思った事が、分かるのかと。


 彼は意地悪が成功したような顔をしていた。ニヤリと口角を上げ綺麗な瞳の、透明感のあるエメラルド色に体が囚われたように動けなくなる。でも、しっかりと彼の声は届き――それがまた心地いいのも事実だった。




「なーんだ。ウィルスにも分かるようになっちゃったんだ……。残念、もう少し楽しんでいようと思ったのに」





 さらに私の体温が熱くなったのは言うまでもない。グルグルと今の言葉が頭の中に流れ、微笑んでいるレントを最後に私の意識は暗転へと誘われた。



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