表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫になった私は嫌いですか  作者: 垢音
王子と彼女との出会い篇
27/256

第25話:2日目の夜会

ーラーグレス視点ー



 えぇ、分かっていまうしたとも。貴方はそう言う人、だと。

 思わずギロリと睨んでしまうのは仕方ない。そう……仕方ないんだ。




「な、来といて良かったろ?」




 そう言って来たのは拾ってくれたエリンス殿下。えぇ、付いてきて良かったです。やり方が酷いんですよ、やり方が!!!




「悪いね、ラーグレスさん。私も昨日、初めて知ったんだ。貴方とウィルスが同じ国の者だと」

「えっ!!! レントは知ってたの!?」

「……ごめんね」




 銀髪のウィルス姫と同い年で王妃様であるレーベ様から、ずっと聞かされていた婚約者。姫は怒ったのか、俺の後ろに隠れ「酷い、意地悪……」とそっぽを向いてしまった。


 それにショックを受けたのか、レント王子は石のように固まってしまった様子だ。


 たが、俺も言いたい。


 姫様とカルラは俺のミスだとして、だ。

 何故、エリンス殿下とレント王子まで知られているんだ。

 会話が筒抜けになるように仕込んだ、と殿下は笑顔で言い切った。そうか。……俺、とんでもない事を言ったと遠い目をする。


 姫様の婚約者として、王に推されていたとか。

 失敗した話とか……よりにもよって姫様本人に言ってたと言う事実。



 なんだ、この公開処刑……。




「あー、まぁ、あれだな。悪い、あんまり話さないからこうでもしないと……な?」




 何が「な?」ですか。

 暴露しなくていい事まで言った俺の気持ちも返してくれ。




「魔獣……久々に聞いた」

「うおっ!?」




 ビックリした。真横から声が聞こえて驚いていると、姫様が「ナーク君」と現れた少年の名を呼ぶ。彼は無表情だったのに、名前を呼ばれた途端に嬉しそうに「なーに、主」と姫様の前に跪く。




「……何処に居たの?」

「カルラが王子の執務室出て行ってからずっと追ってた。悪いとは思ったけど、会話も全部聞いてた。主の傍に居るのはボクの役目」




 そう報告した後に「ごめんなさい……」とシュンと分かりやすく落ち込んだ。それと同時に分かりやすく姫から離れていく。殿下が「魔獣を知ってるのか」と、ナークとやらに質問をする。




「ボク達、トルド族でも魔獣については幼い頃から聞かされてきた。何度か目撃したし、実際殺した」




 殺した、と言う言葉に姫様が一瞬だけ暗い表情をする。殿下の方は「レント、いつの間に契約交わしたんだ?」と珍しがっていた。




「レント?……おーい。おーい」

「ダメ。さっきから王子、返事してくれない」




 チラッと王子の様子を見てみる。

 彼は微動だにしないまま立っていた。ただ、目が悲しそうに伏せられている。もしや、姫様の「嫌い」と言う言葉にショックを受けたのかと思いつつ、後ろにピタリとくっついている姫様に耳打ちをする。 


 ──王子と仲直りした方が良いのでは、と。




「……だ、騙したもん」

「俺も騙されましたから。……レント王子、寂しがってますよ」

「うっ……」




 ひょこりと顔を覗かせた姫様。レント王子の事を見ている、と分かったのだろう。分かりやすく顔を綻ばせた後ですぐにシュンとなり何故かナークが王子と姫様を交互に見て静かに様子を見る姿勢になる。




「レント。……もう、しない?」

「うん。うん、うん!!! ウィルスの事、騙さないよ。でもサプライズしたい時は騙しても良い?」

「……まぁ。そう、だね……うん。サプライズとか特別な日以外は騙しちゃ嫌だよ」



 いい? 念を押すように言えばレント王子は、物凄い勢いで首を縦に振った後で姫様に抱き付いた。




「きゃっ……」




 俺はベッドを椅子代わりに座っており、姫様はその後ろにこそっと隠れていた。勢いが凄いから倒れたら、このまま壁に当たる筈だ。

 レント王子は咄嗟に姫様の頭に手を置き、自分の方へと引き寄せた。その勢いが凄くてベッドからずり落ちてしまった。




「ごめん。嬉しいから、つい……。ウィルス、怪我はない?」

「う、うん。大丈夫……レントが守ってくれたから」



 

尻もちをついて痛いはずだろうに、王子に気にした様子はない。エリンス殿下が「おい、俺等は空気か? 空気なのか?」と言っている横でナークが頷いた。


 ……そうか。俺も含めて空気になれって事か。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



ーエリンス視点ー




 あー、はいはい。ごちそうさま、ごちそうさま。

 レントの奴はウィルス姫とちょっと話しただけで、テンションが上がりに上がりまくる。何気に俺がふった質問にも答えてきた。




「ナークの主はウィルスだよ」




 おい。聞こえてたんならさっさと答えろよ。普通に無視すんな……。そう思ってたらレントからキツく睨まれた。




「君だって隠し事してたじゃないか。……バルム国の生き残りを保護してたなんて」

「あー……いや、扱いに困るだろ? そっちだってウィルス姫の事。匿った訳だし」

「………」




 無言だな、肯定と受け取るぞ。良いな? 良いんだな?




「はぁ。悪かった……なら、今頃は王にも知らされてるか」

「俺の父が言ってるからなぁ。あ、今日はウィルス姫と躍るからな」

「………」




 おい。ダメなのか? ダメなのか!? 

 睨むなよ、兄弟揃って怖いんだから自覚しろよ!!!




「なに話してるの?」




 あーもう!!!

 だから気配なく普通に現れないでくれませんかね、バーナン王子!!!




「わりーがオレも聞いてる。主に報告するのが義務だしな」

「うおっ!!」




 な、なんだ!! 姿は見えないのに声だけ聞こえてるぞ。

 くっ、クスクス笑って面白そうに……。




「リベリーだ。さっきの愛想ないガキと同じトルド族の者だ」




 バーナン王子に通された部屋には既に先客がいた。レントの側近のジークとバラカンス。あれ、バーナン王子の婚約者もいる。


 え、緑を基調とした騎士服着てる……。

 どういう、事!?




「昨日ぶりですね。エリンス殿下」




 ニコッとされて思わずビビった。

 あれだ。ドレスの時とは違い色香って言うか、その、あれだ……。俺にとっては心臓に悪い。そんな笑顔だ。




「……殿下。あまりジロジロと見ないでくれません?」

「っ、悪い」




 だから怖いんだよ。レントは未だに絶対零度で睨むし、続けてバーナン王子にもやられるし。……なに、俺は夜会が始まるまでずっとこのままでいるのか?


 生きた心地しない……逃げたい。




「こーら。弟君みたいになってるぞ」




 ポカッ、とバーナン王子を叩くのは黒髪の男性。ナークって奴と同じように大きい布をマントみたいにして使っている。青い目が印象的な雰囲気が、軽めで話しやすそうな人だと思った。




「よっ、何かあったら頼れ。少なくとも主のバーナンは止めといてやる」




 あ、昨日言ってた親友ってこの人の事かと納得した。俺は思わず彼の手を握り「ぜひ!!!」と全力で肯定しまくった。




「あぁ、苦労するもんな。……こら、2人して睨むな。アンタ等、怖がらせてる自覚持てっての」



 

 そうです、もっと言ってくれ。側近は止めないし、俺を生け贄に捧げるようにほっとく。そんなこんなで、恐怖の中で互いの持てる情報を出し合った。



 そこから数時間後、その日の夜。

 2日目の夜会は、昨日よりも派手に豪華になったダンスホール。ダンスをする為のスペースには、この国の王であるギース国王と俺の父であり国王のアクリア王が高らかに周りにいる貴族達にそれはもう聞こえる様に宣言を下した。




「両国の絆をもっと深める為にこのような夜会をありがたく思う。まさか、バーナン王子とレント王子に思い人が居るとは知らなかったぞ。ガハハハハ!!!」




 嘘言うな。俺がレントと密に連絡を取り合っているの知ってて、そっちだって色々とやってた癖に。




「お互い安泰だな。王子の愛情が深いし、ただ1人を愛するとは。なんとまぁ良い事か。よし、あとは結婚式をいつにするかだな!!!」




 無論、俺を呼べよと分かりやすく言った俺の父。イーグレットは微笑みを深くし「なら私達も早くしないとね」とか言って来た。

 んでもって、これでウィルスとクレールの事を認めたと言う証も同時に成された訳だ。こんだけ大きな声で言ってて、周りも無視は出来ない。


 昨日よりも多くの貴族達がいるのがいい証拠だし、そこは自国の王の絶対に2人以外は認めんと言った自己主張とも取れるが……。


 夜会が終わった後で、王子の婚約者候補にと名を上げていた連中は、そうそうに切り上げて自身の娘に告げるだろう。なんせ、愛妾は作らないと他国の王が先に言ってきたんだ。


 本当ならギース国王が言おうとしたのだろう。

 勢いのまま言った俺の父を、ギロリと睨みワナワナと体を震わして恨めしそうにしている。


 そう思いながら、俺の元に近寄って来る薄いピンク色の髪の女性。今日はこの国の色と評されるエメラルド色のドレスを着ていた。昨日はストレートに髪を伸ばしていたが、今日はイーグレットと同じ髪を1つ結びにしている。


 胸元にもドレスの裾の部分にも同色の薔薇があしらわれ、傍から見たらウェディングドレスのようなデザイン。何と言うか……レント以外に彼女を大事にしているような節が見せる。


 待て……レント、お前そんなに独占強かったか?




「お、おかしい……ですか?」




 俺がじっと彼女の事を見ていたからだろう。ウィルス姫はキョトンとしながら聞いて来た。瞬間、レントからギロリと睨まれた。




「いや……昨日よりも美しいよ。思わず見惚れてしまった」

「ふふっ……」

「ありがとうございます。ファーナムが気合を入れてたので私も頑張らないといけないなって」





 イーグレット、隣で普通に笑うな。

 別にレントからの睨みでビビったとか、あとの仕返しが怖いとかそんなんじゃないんだ。そう、そんな事など一切ない。


 んでもって、やっぱりそのファーナムと言う人の所為か。だから、このドレスとか仕上げ方での気合の入り様が異様だ。……そんなに自慢したいのか、そんなに自己主張してレントには彼女以外の入る用地はないと、そんだけ言いたいのか。

 



「昨日のドレスも似合っていますが、今日のも可愛いですよ。姫様」

「うん。ラーグレスもカッコいい!!」

「ありがとうございます、姫様」




 ハッと息を飲むイーグレット。そらそうだろうよ、ラーグレスのこんなハキハキと答え生き生きとしたのなんか初めてだ。


 俺はさっき見たから別に驚かないが……。 

 流石と言うか騎士だからか、キッチリした服がよく似合うし体格が良いなからな。本人は知らないだろうけど、宰相の養子として引き取った後から密かに人気があるんだ。


 影があると言う理由で令嬢達からは密かなファンがいる……今のラーグレスはウィルス姫と再会した事で既に前向きになり、前のような暗さなど感じさせない。国に戻ったら明るくなったと言う理由から、縁談の話がいつもの倍になり大変そうだ。




「ラーグレスもエリンス殿下も、国の色のガーネット色の正装だものね。分かってたけど、赤と緑って結構目立つね」

「でも、派手にない様に色は薄くしてあります。……姫、あとで一曲踊っても?」

「はい。私も楽しみにしていたの。……でも、ダンス踊れるの?」

「それ等も含めて、姫様にお見せします。リードはお任せを」

「「………」」




 そうだな、父もイーグレットも驚きのあまり絶句だ。ここに宰相であり、義父でもあるラーガに見せたらどんな顔をするのか楽しみだったが……。

 くそっ、こんな機会を見逃すとはタイミングの悪い奴め。




「では。早速一曲、よろしいですか?」

「はい。お願いね、ラーグレス」




 綺麗に礼をするラーグレス。

 流れる様な優雅さと気品は、宰相の教育の賜物か元々のものなのか分からない……恐らくは無自覚かもな。対してウィルス姫も礼をし手を取り、ダンスの開始と言う合図に曲の演奏が聞こえる。


 踊り始めた2人に、一番最初と言うのも含んでいるのか周りを息を飲んで見ている。話をしていた筈の貴族達も配給をしていた者達も思わず手が止まり、口が止まる程に会場は2人のダンスに魅力された。


 まっ、本当なら他国の俺が最初に踊るが今回は譲るぞ。


 なんせ2人にとって再会した日だ。祝福するようにして満足気に踊ってくれるなら、ラーグレスの気分も良いだろうし今後の関係も良好になるだろう。


 だから、レント……。頼むから隣で殺気を出すな。

 再会に水を差すな。笑顔で殺気を出すなよな。……器用に怖い事を普通にするな。



 お前、俺に生きた心地をさせないまま帰国させる気か!!!



 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] レントとウィルスの甘々な展開が続きますね。 段々レントが可愛く思えてきました(笑)
[良い点] >……そうか。俺も含めて空気になれって事か。 笑ってしまいましたw [一言] こんばんは。ゆっくりゆっくり、楽しませて頂いています。 夜会を巡るエピソードも良かったです。どんどん主要人物…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ