プロローグ
やや久しぶりに、新連載を開始します。
ご愛読いただければ幸いです
闇夜の底を突き上げて。
ドドドドド、という音響が、伝い奔る。
邸内のあらゆるものが、我先にと顫え出している。
始まりは、ガガガ、という何かの崩壊音だった。
屋敷の東端部屋の使用人が、その音に跳び起きたという。
部屋を駆け出すと、廊下の突き当たる壁がぽっかり崩落していた。
驚きに大声で呼ばわり、まだ目覚めていなかった家人もほとんどが呼び起こされていた。
その直後。ドドドドド、という音響とともに、建物すべてが顫え始めたのだ。
「何だあ?」
「危ない、逃げろ!」
「屋敷が崩れるぞ!」
貴族屋敷に住まう三十名ほどの人間が夜衣姿のまま、主従問わず重なり合うように転びつまろびつ屋敷から飛び出した。
「みんな、揃っているか? 無事か?」
「おお!」
ひと呼吸後。
庭まで駆け出しへたり込む人々の眼前に、信じられない光景が展開した。
ドドドドド――。
石と木の組み合わせで築かれた大きな二階建ての屋敷、そのまず一階部分が崩れ出している。
ガシャシャシャシャ――。
続けて二階部分が傾ぎ、落ち、大きな力で圧せられたかのように潰れる。
ガラガラガラガラ――……。
轟音が絶え、静寂が戻り。土埃の舞い落ち沈むあとに。
屋敷のあった場所は瓦礫の山と化していた。
「な、何だこれは――」
「何が起こった?」
「何で、何で、お屋敷が――」
呆然と、口々に呻きが漏れる。
いつも傲岸な主人さえ呆けた表情で、明瞭な声を発せないでいる。
その隣で、夫人が失神したかのように面を氷結させている。
ガサガサ、と数人の使用人が躙り下がって。
震える声が、囁き交わされた。
「祟り――」
「祟りじゃねえのか、これは――」
「この家は、呪われたんだ――」
静まりきった晩夏の夜、屋敷背後の深い森に、やがて虫の声が戻ってきていた。




