第50話:紫の朝、そして新たな「狂気」へ
2027年夏の朝。
撫でる風は、昨日までの狂騒を洗い流すかのように、どこまでも穏やかで、そしてどこか冷涼だった。
空は薄っすらと白み始めているが、その雲の切れ間には、昨夜の残滓であるかのような、微かな「紫の光」がまだ溶け残っていた。
俺の自室のモニターには、今なお200万人を超えるリスナーが接続したままの配信画面が映し出されている。
アニメの最終回が終わり、小説の最終章が完結し、エンドロールの音楽が消え去った後も、誰もがその場を離れられずにいた。
コメント欄は、言葉にならない熱量と、終わってしまった喪失感と、そして奇妙な連帯感に満ちていた。
【コメント欄
】
::終わってしまった……
::俺たちの聖戦が、終わったんだな……
::最高だった。これを超える物語なんて、もう二度と現れない気がする
:[Niki_from_USA]:I don't want to wake up from this purple dream. (この紫の夢から覚めたくない)
:[France_Niki]:Merci, Tsuzuru. Merci à tous. (ありがとう、綴。皆に感謝を)
:[ござる]:「拙者、涙で前が見えないでござる……! でも、胸の中は最高に熱い炎が燃え盛っているでござるよ!!」
円卓のメンバーからも、次々と静かで、しかし確かな熱を帯びたメッセージが届く。
[軍師]:……ふう。……世界中のサーバーの負荷が、ようやく平熱に戻った。……これほど長期間、完璧に計算通りに世界をハックし続けたのは初めてだ。……お疲れ様、綴。
[ルナ]:SENSEI、第1部の全行程が無事完了しました。視聴者たちの脳内シンクロ率は最終的に99.8%を記録。……人類の歴史上、最も美しく狂気に満ちた完結です。
[一条]:……本当によくやり遂げましたわね、先生。……教会の連中も、今頃は自分たちの無力さを噛み締めながら、私たちの物語をバイブルとして密かに読み漁っているはずですわ。……誇りを持っていいのよ、原作者様。
[クロエ]:……ふん。……やっと終わったのね。……でも、満足なんてしてないわよ。私の筆は、まだ次の地獄を描きたがっているんだから。
[鉄]:……いい夢を見させてもらったぜ! さあ、監督たちと打ち上げの酒を飲んだら、次は何を壊しに行こうかな!
[剣呑]:ハッ! 第1部が終わったからって、俺たちが消えるとでも思ったか? 次の獲物が現れるまで、筋トレでもして待ってるぜ!
俺は、そのすべてのメッセージをゆっくりと目を通し、それから足元に視線を落とした。
コタローがトコトコと歩いてきて、俺のスリッパに鼻先を押し付け、「プピー」と愛らしい寝息のような声を立てる。私はしゃがみ込み、その柔らかい頭を撫でてやった。
「……よくやったな、コタロー。お前も立派な『紫の番犬』だったぜ」
コタローが満足げに尻尾を振る。
私は立ち上がり、深呼吸を一つして、カメラの向こうの200万人の「共犯者」たちを見据えた。
「……みんな、よく聞いてくれ」
俺の低い声が、世界中のヘッドホンとスピーカーに響く。
チャットの瀑布が、ピタリと止まった。
「……これにて、『せいまも』、第1部は完全に完結だ。……教会を潰し、世界を紫に染め上げ、俺たちの『執着』を地球の隅々にまで刻み込んだ。……最高で、最悪の旅だったな」
画面の向こうで、リスナーたちが息を呑む気配が伝わってくる。
誰もが「これで終わりだ」と思ったその瞬間、俺は口元に不敵な、悪魔のような笑みを浮かべてみせた。
「……だがよ。……これで終わりだと思ったか?」
ざわめきが、世界中で広がるのが分かった。
「……冗談じゃねえ。……俺たちの『ざまぁ』と『執着』は、まだ世界を半分も味わい尽くしちゃいねえんだよ。……教会の残党が消えたなら、次はどこをハックしてやろうか。……某国か? 世界の裏側の秘密結社か? それとも、この現実の続きか?」
私はキーボードに手を置き、新たな白紙のエディタを開いた。
モニターの光が、私の瞳の中で妖しく紫に揺らめく。
「さぁ、お前ら。次の話はどうしていきたい。ディベートを開始するぞ!」
第1部完結
第1部完結しました。
お付き合い頂きありがとうございました。




