第46話:世界を染めるカウントダウン
2027年1月。
凍てつくような冬の空気の中、夜空は珍しく晴れ渡っていた。
だが、この静寂は、数分後に訪れる「嵐」のための予兆に過ぎない。
「……よぉ。……同時接続数はついに150万人だ。……世界中が、俺の配信を見てやがる」
俺の声が、世界中に同時翻訳されて響く。
モニターには、軍師が構築した「地球規模のネットワーク状況」がリアルタイムで映し出されていた。ニューヨークのタイムズスクエア、ロンドンのピカデリー・サーカス、渋谷のスクランブル交差点……。
世界中の主要な街頭ビジョンが、俺の合図を待っている。
【コメント欄】
::綴さん、準備はいいか?
::いよいよだな……歴史が変わる瞬間だ
::俺、今渋谷にいるけど、街中の空気が張り詰めてるぞ……!
:[Niki_from_London]:Tsuzuru, show us the purple! (綴、俺たちに紫を見せてくれ!)
:[軍師]:……綴、全ノードの同期完了。……合図一つで、世界中の「既存の価値観」を上書きする。
「……ああ。……古都エモーションの最高の作画、花守さんの『絶望の賛歌』、そして軍師のハッキング。……全てはこの瞬間のためにあった」
俺は、キーボードのエンターキーに手をかけた。
「……いいか、お前ら。……これは宣伝じゃない。……世界を『せいまも』の檻へと招き入れる、招待状だ」
――エンターキーを叩いた。
瞬間。
世界が「紫」に染まった。
渋谷の巨大ビジョンが、ロンドンの電光掲示板が、ニューヨークのネオンサインが、一斉にアルベルトとエレオノーラの「瞳」を投影した。
それは、ただの静止画ではない。
軍師が仕込んだ「音響ハック」が、街中のスピーカーを通じて、低周波の『祈りのノイズ』を街中に撒き散らす。
街を行き交う人々が、足を止める。
何事かと画面を見上げ、その妖しい紫色の輝きに目を奪われ、そして……その音色に、魂を奪われた。
【コメント欄】
::うわあああ!! 画面が! 街中が紫だ!!
::これ、街全体が洗脳されてないか!?ww
:[ルナ]:世界各地で通行人の心拍数が上昇。……これは『恐怖』ではなく、『執着』への同期です。……作戦は成功しています。
:[ござる]:「ぬおおおお!!拙者の地元駅前も紫でござる!! あまりの神々しさに拙者、立ちくらみがするでござるよ!!」
:[剣呑]「こんな光景を俺たちが作ったなんて…たまらねぇなぁ!!」
「……ハハッ。……見えますか、一条さん。……あの冷め切った世界が、俺たちの色に塗り替えられていく」
【コメント欄】
:[親衛隊長]:……ええ、美しいですわ。……「正義」を謳う教会の方々も、今頃は自分たちの宣教ビデオが全てこの「紫のノイズ」に書き換えられて、泡を吹いて倒れているはずです。
その時、俺の元に、古都エモーションの監督から震えるメッセージが届いた。
『綴さん、見てください。……街中の人たちが、アニメの放送を待っている。……いや、祈っている。……彼らはもう、私たちの物語の一部です』
「……監督、あんたの描いた絶望は、今や『現実』になったんだ」
俺は、画面の中の、紫色の光に照らされた世界を睨みつけた。
「……さあ、世界よ。……もう、元には戻れないぜ。……あと30日。……この『紫』が世界を完全に覆い尽くした時、俺たちの物語は、歴史を上書きする」
【コメント欄】
::綴さん、マジで世界制覇しそうww
::[Niki_from_Germany]:My city is purple... My heart is purple... I can't wait for Feb! (俺の街も紫だ……心も紫に染まった……2月が待ちきれない!)
::[親衛隊長]:……さあ、カウントダウンの開始ですわ。……皆様、覚悟を。
配信を閉じても、俺の部屋にはまだ紫色の残像が焼き付いていた。
コタローが不思議そうに窓の外を眺め、尻尾を振っている。
世界はもう、俺の「物語」なしでは呼吸できない身体になってしまったの
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