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第39話:軍師の暗躍、リアルのハッキング

「……よぉ。……あー、今日も今日とて夜は静かだが、俺の回線だけは火を吹きそうだ。……同時接続数はついに80万人を突破。……お前らの熱量、半端ねぇな。」


 2026年5月下旬。俺――銀凪綴は、画面を埋め尽くすコメントの濁流を眺めていた。

 前回の「亡命回」で、世界中を敵に回したアルベルトとエレオノーラ。その衝撃は、現実世界でも「表現の自由」と「既存の倫理」を巡る巨大な火種へと成長していた。


【コメント欄】

::綴さん! 教会の公式HPが今、真っ黒になってるんだけど!? これ軍師さんの仕業?ww

:[UK_Priest_99]:You are a cyber-terrorist! God will punish you! (貴様はサイバーテロリストだ! 神の罰が下るぞ!)

::↑神の罰より軍師さんのハッキングの方が怖くて草

:[France_Girl]:アルベルトが隠れ家でエレオノーラに囁いたあのセリフ……あれを聞いてから、既存の愛の言葉が全部嘘臭く聞こえるようになった。……綴、責任取って。

::一条様! 今、連盟の役員たちが辞任ラッシュらしいですが、何をしたんですか?ww


 「……『何をした』? ……俺は何もしてねえよ。……ただ、筆を動かしているだけだ。……だが、俺の筆に連動して『現実』を書き換える奴らが、俺の周りにはいる。……なぁ、軍師。準備はいいか?」


 画面が突如、複雑なネットワーク図へと切り替わる。軍師の領域だ。


:軍師:……ああ。準備は整った。

:軍師:綴。……『聖法正教連盟』のメインサーバー群。物理的な所在地はスイスの地下シェルターだったが、……先ほど、冷却システムの制御権を完全に掌握した。

:軍師:彼らが俺たちの物語を『検閲』しようとするたびに、彼らのサーバー室の温度が1度ずつ上がるように設定してある。……現在、45度。……50度を超えれば、彼らの『正義の記録』は物理的に融解し、消滅する。

:親衛隊長:……あら、軍師さん。少々やりすぎではありませんこと?

:親衛隊長:彼らが慌ててサーバーを止めようとすれば、今度は私が仕掛けた『法的時限爆弾』が作動しますわ。……彼らの全資産を「銀凪綴の創作支援基金」へと強制寄付させる契約書に、既に偽の署名をさせておきましたから。

:剣呑:ハッ! 物理と法律の両面待ちか。……えげつねえな。

:剣呑:綴! 外野の掃除は円卓がやった。……お前は、小説の中でソフィアが放った『刺客』を、完膚なきまでに絶望させてやれ!


 「……よし。……お前ら、刮目しろ。……これが、神を騙る連中への『最後の一撃』だ」


【小説内パート:『せいまも』第38話「虚像の処刑」】

 次元の狭間、アルベルトとエレオノーラだけの『隠れ家』。

 そこは、二人の愛のノイズで満たされた、紫色の静謐な空間だった。

 だが、その空間が、鋭利な「光の刃」によって引き裂かれる。

 

 現れたのは、教会の最終兵器――聖騎士団長ガブリエル。

 

 「――異端者アルベルト。……貴様の罪は、もはや死をもってしても償えぬ。……聖女エレオノーラを、その呪縛から解き放ってやる」


 ガブリエルの剣から放たれるのは、一切の『悪意』を認めない純粋な断罪の光。

 だが、アルベルトはエレオノーラの隣で、退屈そうに欠伸をした。

 

 「……『呪縛』? ……笑わせるな。……お前が信じているその光こそが、彼女から『人間』を奪う鎖だってことに、まだ気づかないのか?」


 アルベルトは一歩も動かず、空中に不可視のキーボードを叩くように指を動かした。

 瞬間、ガブリエルの鎧の術式が、内側から激しくショートし始める。

 

 「……な、に……!? 私の神聖加護が、……侵食されている……!?」


 「……お前たちの術式は、美しすぎるんだよ。……『正しいこと』しか想定していない。

 ……だから、俺が少しだけ『自己愛』や『嫉妬』という名のノイズを混ぜるだけで、その綺麗なロジックは自壊する。

 ……ほら、見てみろ。……お前の守りたかった『聖女』が、今どんな顔をしているか」


 ガブリエルが絶望に目を見開く。

 エレオノーラは、アルベルトの腕の中で、蕩けるような恍惚の表情を浮かべていた。

 彼女の紫色の魔力が、アルベルトと共鳴し、空間そのものを『愛の檻』へと書き換えていく。

 

 「……騎士様。……私、もう、神様なんて見えないの。

 ……アルベルトが私を汚してくれるたびに、……心の中の『不快な正義』が消えて、……こんなに、……幸せなんだもの」


 「……あ、あああああぁぁぁっ!!」


 ガブリエルの剣が砕け散る。

 物理的な敗北ではない。……自分の信じていた「正義」が、当の「救われるべき対象」によって否定されたことによる、精神の完全崩壊。

 

 アルベルトは、崩れ落ちる騎士の頭を、ゴミを捨てるような目で見下ろした。


 「………正義が通用しない世界で、せいぜい溺れて死ね」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 俺が投稿ボタンを押した瞬間、軍師からの通知が配信画面に割り込んだ。


 『――聖法正教連盟、メインサーバー消失。……融解を確認』


【コメント欄】

::……マジか。本当にサーバー落ちたぞ!?

::今、連盟のサイト見ようとしたら「404 Error: God is Offline」って出たwww 軍師さんやりすぎww

:[Foreign_Niki]:Is this real? Did the server actually melt? (これは現実か? サーバーが本当に溶けたのか?)

:ござる:「ぬおおおおお!! 拙者、今の『ガブリエルの絶望顔』を刺繍した特製ハンカチを全世界に発送したでござる! これで涙を拭くでござるよ!!」

:テツ:綴! ガブリエルの鎧が壊れる瞬間の作画、軍師のハッキング映像を参考にして描いたぞ! ……これは、漫画界の歴史が変わる!!

:クロエ:……綴。……エレオノーラのあの表情。……私が今まで描いた中で、一番『最低で最高』な絵になった。……見て。

:[画像:アルベルトの毒に染まり、崩れ落ちる聖騎士を嘲笑うエレオノーラの挿絵]

:[USA_Guy]:I was an anti-Tsuzuru, but... this is art. (俺は綴のアンチだったが……これは芸術だ)

::一条さん、ネゴシエーションお疲れ様ですwww 役員たちの記者会見、楽しみにしてますねwww


 「……あー、……お前ら。……これが、俺たちの答えだ」


 俺は、熱を持ったキーボードから手を離し、椅子に深く背をもたれさせた。

 

 「……言葉で分からない奴らには、現実リアルのハッキングで見せてやるしかない。

 ……『正義』は、一度バグればただの凶器だ。……お前らの信じている常識も、いつか俺が書き換えてやるからな」


 「……今日の配信はここまで。……一条さん、残務整理頼む。……軍師、サーバーの温度は下げていいぞ。……灰になった連中に、これ以上の熱は不要だ」


:親衛隊長:……畏まりました。……先生。

:親衛隊長:明日には、世界中の新聞が先生の名前を『新時代の預言者』か『史上最悪の作家』として報じることでしょう。……楽しみにしておりますわ。


 配信を切った瞬間、夜に、心地よい静寂が戻ってきた。

 だが、俺の胸の中では、次なる「絶望」のプロットが、紫色の光を放ちながら胎動を始めていた。



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