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第11話:親衛隊からの「招待状」

カーテンの隙間から差し込む昼過ぎの強烈な光が、網膜を刺した。


「……う、あ……」


 銀凪綴——中身の俺は、デスクに突っ伏した状態で顔を上げた。

 視界の端で、昨夜の激闘を物語る空のエナジードリンク缶が転がっている。

 昨夜の同接5万人。深夜から明け方まで続いた、あの「伝説の第1話」の執筆配信。


 脳が焼け付くような熱狂の余韻で、頭が重い。

 ふと、モニターに目をやると、ブラウザの『なれ』の管理画面が開いたままだった。


「……1位。……まだ、1位か」


 日間総合ランキングの頂点には、依然として『せいまも』の名が刻まれている。

 ポイント数は、寝ている間にさらに数万上乗せされていた。

 俺の人生は、たった数日で、取り返しのつかないところまで加速してしまったらしい。


 ——ピコーン。

 静まり返った部屋に、聞き慣れたMeTubeの通知音が響いた。

 スマホを手に取ると、ダイレクトメッセージ(DM)の通知が表示されている。


「……なんだよ、軍師か? それとも剣呑がまた変なネタを……」


 眠い目をこすりながら、俺はそのメッセージを開いた。

 だが、送り主の名前を見た瞬間、心臓が跳ねた。


【送信者:親衛隊】

 あの、12人の「円卓の騎士」の一人。

 いつもエレオノーラ様への執着と、高額な赤スパチャで俺を支えて(追い詰めて)くれる、縦ロールのお嬢様アイコンのリスナーだ。


『先生、昨夜はお疲れ様でしたわ。あの一話、今思い返しても涙が止まりません。』


 最初は、いつもの熱狂的な感想だと思った。

 だが、その後の数行を読み進めるうちに、俺の指先が小刻みに震え始めた。


『……実はわたくし、遊び半分で先生を応援していたわけではありませんの。

 本業では、とある出版社のライトノベル編集部で、一条という名前で働いております。

 先生の『せいまも』……いえ、銀凪綴という才能。

 これを、ネットの海だけに留めておくのは、もったいなさすぎますわ』


「……え、……は?」


 俺はベッドから転げ落ちそうになった。

 一条。……ラノベ業界で、その名を知らない者はいない。


 数々のヒット作を飛ばし、「なれ」出身の作家を次々とスターダムへ押し上げてきた、業界の「女帝」と呼ばれる凄腕編集者だ。


『つきましては、『せいまも』の書籍化、およびコミカライズを含めたメディアミックスのご相談をさせていただきたく存じます。

 一度、直接お会いしてお話しできませんこと?

 わたくし、先生の「中身」がどのようなお方か、非常に興味がありますの。

 ふふ、お返事、お待ちしておりますわ。』


 スマホを握りしめたまま、俺は立ち尽くした。

 

「……書籍化……メディアミックス……」


 数日前まで、日間30位でくすぶっていた俺に。

 「なれ」の読者からも、運営からも見向きもされなかった底辺Vの俺に。


 「親衛隊」……いや、一条さんからの「招待状」が届いたのだ。

 俺は震える手で、キーボードを叩き、12人の「騎士」たちのグループチャットを開いた。


「おい、お前ら!! 大変なことになった!!」


【グループチャット:円卓の騎士(12人)】

:[軍師]:……。

:[剣呑]:どうした綴、またPCが爆発したか?

:[ござる]:「ぬおお! もしや聖女リリカルに呪われたでござるか!?」

:[親衛隊]:あら、先生。……意外とお返事が早くて嬉しいですわ。

「……お前! お前、本当に一条さんなのか!?

 あの、ヒット作連発してる……ラノベ界の女帝の、一条かよ!?」


【コメント欄】

:[軍師]:……ああ。知らなかったのか。

:[軍師]:俺たちのコミュニティは、最初から「遊び」じゃなかったんだよ。

:[剣呑]:一条が動いたってことは、もう決定事項だな。

:[剣呑]:おい綴、覚悟しとけよ。……お前、これから死ぬほど忙しくなるぞ。


 俺は、高性能チェアに深く背中を預け、天井を見上げた。

 12人の騎士たち。

 まとめサイト管理人、有名レビュアー、伝説のコピペ職人、そして——トップ編集者。

 

 俺が「共犯者」だと思っていた連中は、最初から俺を「王」にするための、最強の布陣だったのだ。


「……ははっ。……まじかよ。

 ……いいぜ。お前らがその気なら、俺もとことん付き合ってやるよ」


 俺は一条……いや、「親衛隊」のDMに、力強い返信を打ち込んだ。


『——了解しました。行きましょう、その物語の先まで。』


 窓の外、空はどこまでも高く、澄み渡っている。

 底辺VTuberの逆転劇は、今、ネットの枠を飛び出し、現実という巨大な舞台へと踏み出した。

 これが、後に『せいまも現象』と呼ばれる社会現象の、本当の始まりだった。



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