俺様が退学って……
その翌日。その日は朝からうだるような熱波が支配していた。
朝方昇った太陽は、10時過ぎにはギラギラ燃える灼熱の玉と化していた。
テレビから流れるニュースでは過去の記録を更新するほどの最高気温らしい。
セミの鳴き声さえ皆無。街中に人影もまばら。溶け出すアスファルト。ゆらゆらと立ち昇る陽炎。
サウナの中にいるような球の汗が滴り落ちる。
それはまるで修羅の荒野。死の臭いだけが鼻に突く最悪の世界。それをも彷彿していた。
その最悪の光景の中を、シュウがひとり彷徨っていた。
前の日、間違って乗ったバスがハイジャックされて、奥多摩の方まで拉致られていたのだ。
なんとかそのハイジャック犯をやつけたはいいが、警察の取り調べなどがあって、昨日は学校を休んでいた。
ようやく解放されたのは少し前。こうして遅めの登校と相成った訳だ。
だらだらと大汗を掻き、学園校内に入ったのは11時を過ぎた頃だった。
一応教室ならクーラーも効いてる。早く行って涼をとって寝なければ。焦る気持ちばかりが先行する。
昇降口脇の掲示板エリアを去ろうとして、何故か野生の勘が働いた。
立ち止まって暫しそれを凝視する。
何故か背筋に寒気を覚える。ぴくぴくと震えるこめかみ。
それで辺りの温度が数度上昇した気がした。
無意識に掲示板前のガラスを拳でぶち破る。
無造作にその掲示物を引き抜いて走り出した。
「誰だ、こんなイタズラしたのはよ!」
叫んで踏み込んだのは自分のクラスだった。
「分かってんよな、やっていいイタズラとダメなイタズラあんだろ!」
ちょうど休み時間の最中だった生徒たちが、その様子を呆気に取られて見ている。
それでもそのシュウの気迫に圧されて誰もなにも言わない。
誰もが知っている。それがイタズラではなく本物だということを。
それを教えたら、自分がヤバいだろうことも。
「なんだよ、マジだってでも言いたいのかよ!」
その覚めた態度には、怒り心頭だったシュウも、少しずつ冷静になっていく。
「マジか、マジで退学か……」
全てを察したシュウだが、それはそれで危険な状態。その背中から醸し出すのは哀愁。触れたら殺されそうな気配も含んでいる。
「なんなんだよ、これは!」
そしてシュウ、再び吠えた。
「せっかく高校入ったのに、これじゃ意味ねーべよ!」
シュウからすれば勉強は嫌いだ。だがそれを我慢して入学したのも、立派に卒業して社会に出ていく為。それなりの気概は持っていた。
「ちくしょう、職員室でも殴り込みに行くか!」
思いも新たに踵を返す。
「それは意味ないと思うよ」
不意に誰かが言った。
「はぁ?」
それは真優。
「この件は、生徒会が主導権を握ってるらしいから」
多くの生徒は怒りに燃えるシュウと距離を置いて接してるが、彼女だけはそうした様子はない。
「成る程、生徒会か」
腕を組み、暫し思考に耽るシュウ。
確かにこの掲示物には、生徒会の押印がされている。
そしてようやく気付く。自分以外にも幾多の生徒の名前が記載されていると。
「とんでもねー嫌がらせだな」
シュウの視線が別の場所に注がれる。
その視線の先、もうひとり絶望の淵に追い込まれている人物の姿がある。
それは太助。机に突っ伏すその姿に、少しの生気も感じ取れない。
「てめー、なに不貞腐れてんだ!」
すかさずそれに歩み寄るシュウ。
「えっ?」
それで太助が顔を上げた。
やはり太助は泣いていた。傷だらけの顔はやけに痛々しい。
「こうなりゃ自棄だ。行くぞ生徒会!」
「えっ?」
そしてシュウ、戸惑う太助を引き連れて教室を飛び出していった。




