雨宿り
本編第4部の事件により中止になったヤマウズラ猟に出かける二人の話です。
思いがけず下着姿になる(ベタな)展開を含みますので、1912年当時なら非常に過激な話です。
現代においては、書かれている内容は念のためのR15程度だと思います。
現代日本の基準からすると、当時の下着は露出が少ないのです。
参考:
https://www.edwardianpromenade.com/fashion/edwardians-unbuttoned/
https://thefashionarchaeologist.com/blog/what-went-where-edwardian-lingerie-and-how-to-wear-it
1912年9月、結婚から半年経ったある日の午後、アメリアとアルバートは領地の猟場に出かけた。
アメリアは、開けた草地を進みながらも遠くに見える丘陵に目を奪われていた。
夏までの瑞々しい緑からもう黄金色に変わっている。
数年前に思いがけずメラヴェル男爵位を継承して以来、バークシャーに位置するこの村の土地はアメリアのものなのだが、彼女は未だにその美しさに感嘆せずにはいられない。
「先週は約束を反故にしてすまなかったね、ウェルハム」
彼女の隣を歩くアルバートがフラットキャップのつばの角度を調整しながら、彼らを先導する中年の男性——メラヴェル男爵家の猟場管理人頭のウェルハム——に言うと、彼はくつくつと笑った。
「いやあ、例の事件にはたまげました。あれでは、ヤマウズラ猟どころじゃありませんでしたね、旦那様」
彼らは本来であれば、先週のうちにヤマウズラ猟をする予定だったのだが、ある事件が起きたことにより今日に延期となっていた。
「でも、今日はおいでになれてようございました。奥様は来週の本番には参加できませんからね」
アメリアはグレーのツイードスカートを慣れた様子で捌きながら、少し後ろを振り返ったウェルハムに微笑みを向けた。
彼の言う通り、本番のヤマウズラ猟は、来週予定されているメラヴェル女男爵夫妻主催のハウスパーティーにて行われる。
パーティー二日目に、主催の主人であるアルバートが多数の紳士といくらかのレディの客人をヤマウズラ猟に連れ出すことになっているのだ。
主催の女主人であるアメリアは、猟に参加しない客人をもてなす大事な役目があるので、当日は参加できないが、彼女に猟の経験がないと聞いたアルバートが本番の前に射撃を教えようと言ってくれた。
——きっと、私がやってみたいと思っているのを見抜かれてしまったのだわ。
アメリアは些か気恥ずかしく思いながらも、この日を心待ちにしていた。
「さて、着きましたよ、奥様、旦那様」
立ち止まったウェルハムが言った。
「あそこに機械を用意していますので、その辺りからお願いします」
二人はウェルハムが示した位置に立ち、それぞれに頷いた。
それを確認したウェルハムは、小走りで夫妻から距離をとり、離れたところで準備を始めた。
その間に、アルバートは、肩にかけていた弾の入っていない猟銃を準備してアメリアに手渡した。
「さっき練習した構えを覚えているかな、マイ・ディア?」
「ええ」
アルバートに問われたアメリアは神妙に頷いた。
そして、猟銃をゆっくりと持ち上げ、教わった通り、広い草原に向かって構えた。
——左足を前に出して、膝を軽く曲げる。
——左手で銃身の下を支えながら銃床を体にしっかり引き寄せて……。
「うん、悪くないね。ただ、もう少し肘を——」
後ろから構えを見ていたアルバートが彼女の肘に軽く触れた。
アメリアは意思に反して心臓が跳ねるのを感じたが、努めて構えに集中しようとした。
「そう、そんな感じだ。君は覚えがいい」
アルバートが微笑んだのを感じたアメリアは、つい口元に笑みを滲ませた。
そうして、一通り構えを確認した彼女が一度構えを解くと、遠くの方でウェルハムが手を上げていた。
準備ができたようだ。
「では、弾を込めよう。今日は私が君の装填者だ」
アルバートは少し皮肉に笑って、手早く猟銃に弾を込めると、再びアメリアに手渡した。
そして、アメリアが正しく構えたのを確認すると、遠くにいるウェルハムに向けて手を上げて合図をした。
「いきますよ!それっ!」
ウェルハムは掛け声と共に、足元に準備していた射出機を操作して練習用のクレーを宙に放った。
アメリアのヘーゼルの瞳がそれを追う。
——両目を開けたまま獲物をよく見て、腰を回転させ、視線が少し先を行ったところで、引き金を引く。
アメリアは絶好の位置で引き金を引いた。
すると、彼女の猟銃から飛び出した散弾がクレーを掠めた。
「お見事です、奥様!」
ウェルハムが叫んだ。
撃ち抜くには至らなかったが、初めてにしては上出来だ。
「君が本番の猟に参加できないのが残念だよ、マイ・ディア」
アメリアから銃を受け取りながらアルバートが満足そうに微笑んだ。
それを見たアメリアはつい満面の笑みを浮かべてしまうのだった。
***
「旦那様、奥様、今日はここまでにした方が良さそうです」
ウェルハムが眉を寄せながらそう言ったのは、アメリアの練習が終わり、猟の実演に取り掛かったアルバートが数羽のヤマウズラを仕留めたときだった。
「おや、雨でも降りそうかな?」
アルバートはそう言って空を見上げた。
アメリアもそれに倣って空模様を確かめたが、雨雲はどこにもなかった。
「ええ、今はなんともありませんがね。どうも一雨くる気配がします。すぐにお屋敷に戻りましょう」
アメリアとアルバートは視線を交わして頷いた。
こういうときは専門家に従った方が良い。
一同が早足で草地を進んでいると、ウェルハムの言った通り、段々と空が暗くなってきた。
<メラヴェリー・マナー>の建物が遠くに見えたところで、空からポツポツと雨が降り始め——間もなく土砂降りになった。
「あそこの番小屋へ!お早く!」
先を行くウェルハムが指した方を見ると、木々の間から番小屋の屋根が覗いていた。
猟場管理人が道具を保管したり、作業をしたりするための小さな小屋だ。
アメリアが二人に続いてツイードのトーク帽を押さえて走り出すと、アルバートが速度を緩めて彼女の隣に並び、脱いだ上着を二人の頭の上に掲げてくれた。
斜めに降る雨が容赦なく吹きつけるのを感じながら、二人はひたすらに走った。
先に石造りの番小屋にたどり着いたウェルハムが押さえて待ってくれていた重い木戸の隙間から、なんとか室内に滑り込んだ二人は、安堵のため息を漏らした。
狭い小屋の中には、ガンオイルの独特の匂いが漂っていた。
アメリアは雨を払うのもそこそこに、初めて足を踏み入れた番小屋の中をつい観察してしまった。
入り口付近に小さな棚、窓際にデスクと箪笥、奥の暖炉の近くにアームチェアが一脚あるだけの簡素な小屋だ。
デスクの上に開いたまま置かれた日誌や壁に掲示された密猟者や害獣の出没記録からは、猟場管理人たちの日々の苦労が偲ばれた。
そもそも、猟で仕留めるヤマウズラも彼らが育てたものだ。
特に今年はアルバートが男爵家に加わり、紳士向けの狩猟行事を開催することを見据えて、本格的に準備をしてもらっていた。
「酷い土砂降りですな。お屋敷から馬車を呼んでまいりましょう」
ウェルハムは奥の暖炉に手際よく点火し、主人夫妻に暖炉の前に来るよう手振りで勧めながら言った。
寒がりのアメリアは「ありがとう」と言って、暖炉の前に歩み寄り、濡れた手袋を外して冷え切った手を火にかざした。
「ウェルハム、悪いね。雨傘はあるのかな?」
アルバートが先ほどまで雨よけに使っていた上着に腕を通しながら言った。
「ええ、小屋に常備しているのが一本ございます」
「良かった。では、奥方の着替えの手配も頼むよ」
「もちろんでございます、旦那様。侍女を連れて戻ってまいります」
ウェルハムは礼儀正しく頷くと、扉の近くの棚から雨傘を手に取って足早に外へと出て行った。
***
「ねえ、アルバート。あなたも暖炉の側に——あら?」
暖炉の前に座って手を温めていたアメリアがアルバートの方を振り返ると、彼は両手で一枚の毛布を広げ、検分するように端から端まで眺めていた。
どうやら番小屋内の唯一の箪笥の中で見つけたようだ。
「この毛布は古いが……清潔ではありそうだ」
彼はそう呟くと、アメリアを見つめた。
アメリアは彼の視線が彼女の髪から滴る雫をなぞったのを感じた。
アルバートは一度視線を落としてから切り出した。
「一枚しかないのが心許ないが、せめて君だけでも濡れた服を脱いでこれに包まった方が良さそうに思うのだが……」
思いがけない提案に戸惑ったアメリアは、咄嗟に何と言ってよいかわからなかった。
「大丈夫。準備ができるまで私は壁の方を向いているよ」
アルバートはそう言うと、古びた毛布をアメリアの近くのアームチェアに置いた。
そして、狭い番小屋の中でできるだけ彼女から距離をとって壁の方を向いた。
「あの、アルバート?とっても思いやりのある提案だけど……」
アメリアは彼の提案を断ろうと立ち上がりかけたが、腰を上げると急に濡れたツイードの上着の重みが意識された。
完全に立ち上がったところで下を見ると、スカートの裾も泥水で濡れていた。
それに、上着の下のブラウスも湿っている気配がする。
このままでは下着まで冷たくなってしまいそうだ。
「大丈夫かい?マイ・ディア」
アルバートが壁の方を向いたまま言った。
「ええ、大丈夫よ。ええと……」
アメリアは暫し逡巡したが——。
「とっても思いやりのある提案をありがとう」
結局は、素直に彼の優しさに甘えることにした。
アメリアは、まず、トーク帽を髪に留めていたハットピンに手を伸ばしてゆっくりと引き抜いた。
帽子をとると濡れた髪が露わになり、何となく頼りなさを感じたが、暖炉の熱がすぐに乾かしてくれるだろうと思い直した。
続いて、泥まみれのブーツを脱ぎ、すっかり濡れそぼった靴下をペチコートの下のガーターから取り外した。
そして、肩に雨をかぶってしまった上着、走った際に泥水が跳ねたスカート、襟元を中心に濡れたブラウスも思い切って脱いでしまった。
その下に着ている下着は大丈夫だと思いたかったが、手で触れてみるとペチコートとコルセットカバーの広範囲に水が染みていた。
しかし、幸いそれより下の層——コルセットやその下のシュミーズとドロワーズが一体化した「コンビネーション」——は僅かに湿り気がある程度だ。
アメリアは、アルバートは振り返ったりしないとわかりつつも、念のためアームチェアの陰に隠れるようにしてペチコートとコルセットカバーを脱ぎ、すぐに毛布を広げて包まった。
古い毛布は毛羽立っていたが、アルバートが言った通り、きちんと洗濯されているようで微かにラベンダーが香った。
最後に、脱いだ下着と靴下を小さく折り畳み、既に軽く畳んでいたスカートと上着の間に挟み込むと、ほっと息をついた。
「アルバート、もういいわ。あなたも暖炉の側に……」
アメリアはそう言いながら、アルバートの方を振り返り、目を見開いた。
彼はアメリアが準備をしている間に、フラットキャップをとり、上着を脱いでいたが、そのアッシュブロンドの髪は濡れて少し濃い色に見え、濡れたシャツが腕に貼りついていた。
「毛布は十分な大きさだったようだね」
振り返ったアルバートはアメリアの首元から足の先までが毛布に覆われているのを見て頷いた。
だが、アメリアは毛布の合わせ目をしっかりと閉じながら視線を落とし、躊躇った末、意を決して言った。
「あの……良かったらあなたも一緒に入ったらどうかしら……?」
***
アルバートはアメリアの提案を二度断った。
しかし、「あなたが風邪をひいたら来週のハウスパーティーのヤマウズラ猟が中止になってしまうわ」という言には一理あることを認めざるを得なかった。
それでも彼は暫く考えていたが、結局はアメリアから見えない位置で服を脱いで下着姿になった。
そして、既に暖炉の前のラグに座っていた彼女が視線を逸らしている間に、濡れた服をアームチェアに掛けてから、「失礼」と言ってそっと毛布に滑り込んだ。
「本当に大丈夫かい?マイ・ディア?」
アメリアの背後に座ったアルバートは、彼女の身体に微かに触れる程度に腕を回し、毛布の合わせ目を閉じておく役割を引き受けながら言った。
一方のアメリアは自分の頬が熱くなるのを感じていた。
もちろん、暖炉の熱のせいではない。
背中越しに感じる彼の体温と白檀の香りに苛まれていた。
アメリアはそっと彼を振り返り、その表情を窺った。
彼は少し首を傾げて彼女を見つめ返したが、間もなく堪えかねたように笑いを漏らした。
「全く、なんて顔をしているんだい?さっき私を毛布に誘った勇敢な君はどこに行ったのかな?」
彼はからかうように言った。
アメリアは自分が今になって怖気づいてしまったことに気づいていた。
「私ったらレディらしくないことを言ってしまって……。あなたを失望させたのではないかと、心配になってきたの」
アメリアは毛布の中の膝の上で落ち着きなく両手を何度も組み替えた。
アルバートはただその様子を見ていたが、やがて少し微笑んで言った。
「意外と心配性なんだね。これまで私はどんな君であってもレディらしくないと思ったことなどないというのに」
穏やかな沈黙の中に、外の土砂降りの音と暖炉の薪が爆ぜる音だけが響く。
アメリアの頬は依然熱いままだったが、いつの間にかその熱さが胸の奥にも伝わっていた。
「あのね、アルバート……今更おかしいかもしれないけれど、私、あなたにどう思われているのかが気になるのよ。最近、特に……」
「おや?君は全くそんなことを気にする必要はないと思うが……しかし、私にとっては光栄なことかもしれない。これまでずっと、それを気にするのは私だけだと思っていたから」
アルバートはそう言ってふっと笑った。
釣られて笑ったアメリアは、少し肩の力を抜くことができた。
すると、彼女の体を包むアルバートの腕に微かに力が込められた。
「今日、あなたとヤマウズラ猟に出かけられて良かったわ」
気づけばそんな呟きがアメリアの唇から零れていた。
「私もそう思うよ、マイ・ディア。まあ、雨に降られたのは不運としか言いようがないが……」
アルバートは小屋の窓を叩く雨を見ながら皮肉に言ったが、アメリアは首を振った。
「そんなことないわ。私にとっては、これも幸せ——」
そう言いかけてアメリアはハッとした。
改めて自分の体を見下ろせば、当然毛布に包まれており、背後にはアルバートがいて、彼女はその腕の中にいる。
しかも、傍らには二人が脱いだ服が置かれている。
「違うのよ、アルバート。ほら、私が言いたかったのは、こうしてあなたとゆっくり話せて良かったということであって……」
「なるほど?てっきり君はこの『極めて特殊な状況』を楽しんでいるのかと思ったが」
アルバートが意地悪く唇の端を持ち上げた気配がした。
「まさか!決してこの『極めて特殊な状況』を楽しんでいるわけでは——」
「じゃあ、嫌なのかい?」
アルバートが落胆したように言ったので、アメリアは取り繕おうと口を開いた。
「ええと……嫌なわけではないのよ?あなたは私の夫だし、そもそも、私はあなたが好きだか……ら……」
アメリアは口を噤んだ。
再び頬が燃えるように熱くなっていた。
彼女は静かに咳払いをした。
「今日の私は……話しすぎだわ。きっと射撃なんて、慣れないことをしたせいね。もう黙った方がいいわ」
アメリアは赤くなった頰を毛布で隠すように俯いた。
すると、いつの間にか毛布の合わせ目を片手に預けていたアルバートが、空いた方の手で彼女の頬に触れ、優しく彼女の顔を自分の方に向けさせた。
「そうだね、アメリア。君は少し黙った方がいい」
その口調はどこか上の空だった。
青みがかった灰色の瞳に見つめられたアメリアは反射的に唇を引き結んだ。
——今度こそ失望させてしまったかしら……?
胸に重いものがつかえる感覚を覚えた。
しかし、彼の瞳に映っていたのは失望ではなかった。
「君には悪いが……黙っていてくれないとキスできない——」
それきり、彼の低い囁きは途切れ、ただ小屋の屋根を打つ雨の音だけが聞こえた。
***
数十分後、表から雨の音に混じって泥を跳ね上げる馬の蹄と車輪の音が聞こえた。
迎えの馬車が到着したのだ。
先に動いたのはアルバートだった。
彼は静かに毛布から抜け出すと、暖炉の側のアームチェアに掛けておいたお蔭でいくらか乾いていた衣類を手際よく身に着けた。
そして、最後にフラットキャップを拾い上げたとき、番小屋のドアがノックされた。
アルバートが「どうぞ」と声を掛けると、それは思った通りアメリアの侍女ミス・アンソンだった。
手に着替えの包みを抱えている。
アルバートが彼女と挨拶を交わしてから軒先に出ると、相変わらずの土砂降りの中で傘を持ったウェルハムが待っていた。
アルバートはウェルハムに向かって軽く頷き、僅かに乱れたアッシュブロンドの髪を撫でつけてからフラットキャップをかぶった。
そして、彼が差し掛けた傘の下へと一歩踏み出した。
一方、番小屋の中に残ったアメリアはミス・アンソンの手で乾いた服に着替えさせられた。
茶色の格子柄のツイードスーツに着替え、髪型も整えた彼女は、どこからどう見てもいつも通りの気品のある女男爵だった。
最後に帽子と手袋を身に着けたアメリアがウェルハムに傘を差しかけてもらいながら馬車に乗り込むと、先に席に着いていたアルバートが彼女に向けて少し眉を持ち上げた。
「やれやれ、ようやく屋敷に戻れるね、マイ・ディア」
「ええ、そうね、あなた」
彼の隣の席に腰を下ろしたアメリアが微笑みつつスカートを直していると、続いて乗り込んできたミス・アンソンが彼女の向かいに控えめに座り、抱えていた荷物の中からひざ掛けを取り出してアメリアに差し出した。
「どうぞ、奥様」
「ありがとう、アンソン。あなたにも面倒をかけたわね」
二人が落ち着いたのを見たアルバートが御者に合図をすると、馬車は揺れながら屋敷へと進み始めた。
「とんでもないことですわ、奥様。折角のヤマウズラ猟でしたのに、不運でございましたわね」
ミス・アンソンの言葉にアメリアは頷いた。
「そうね……本当に『不運』だったわ……」
アメリアはそう呟きながら、隣に座るアルバートに視線を向けた。
彼はいつも通り穏やかな無表情を装っていたが、その灰色の瞳は「不運」にしては輝きすぎていた。
きっとアメリアの瞳も同じだ。
アメリアはさり気なく窓の外の雨模様に視線を移し、茶色の手袋に覆われた指先で、もうすっかり平熱に戻った頰を一度だけ撫でた。
車窓を流れるバークシャーの景色を眺める彼女の口元には微かな笑みが浮かんでいた。




