2-51 違うなら違うってはっきり言える話だよな
「あとね、シュープあーんの人にシュープを届けに行った時に、ジスしゃんがいなかった事があったれしょ?」
ナチの事か。確かに模倣の悪魔討伐の日に、行けなかった。
「しょの時に、ジスしゃんが重要な仕事に行ってりゅって聞いたにょ。だかりゃ、時期的には討伐の方に行ってたのかにゃーって」
まさか彼から漏れているとは思わなかった。いや、本来ならば漏れてもそれほど問題の無い情報なのだ。
それを彼は「憶測で」組み立てているのが問題なのである。
「あとにぇー、新聞に死亡者は全部で11名って書かれててにぇー、しょの内管理官は2名って書いてたにょ」
彼は俺達の反応があろうがなかろうが、どちらでもいいのだろうか。テロペアさんは恍惚とした様子で語り続ける。
「こりぇはきっと死を刻む悪魔が絡んでゆぞーって思って」
「何故ですか?」
反射的に尋ねれば、テロペアさんは嬉しそうに笑みを深くした。喜ばせるつもりはなかった筈なのだが。
「んっとね、死を刻む悪魔はわざわざ戦況を見にゃがら、模倣の悪魔の死者が9人になる様に調節しちゃ、っていう事かにゃーって。数字的に」
隣を覗き見れば、フィラさんは目をまん丸くしてテロペアさんを見ていた。見た事がない種類の人間だったのだろうか。
「あと、ちょーっとだけ気ににゃったから調べたら、死を刻む悪魔はあの大捕り物の後、近隣でしゃらに3人殺してゆの」
調べた、と言っても、おそらくは新聞にも載っていただろう。やっぱり戻ったら何日分かまとめて読む必要があるな。
「ハッシュルしてゆね!」
「その、ハッスルが何か?」
「やだにゃー、しょのままの意味だよ。しょんな近くで死を刻む悪魔の被害があったって事は、おにゃじ位の時期に模倣の悪魔の近くにいちゃっていう事だよ。絡んでないわけないじゃん」
ハッスル云々はどうでもいいとしても、憶測でここまで的確に語る相手というのは、非常に厄介だ。
この手のタイプは、相手の反応を見ながら正解を探る。本当に、死を刻む悪魔と一切の関係がない人であれば。
「らっておれ、きっと模倣の悪魔は死を刻む悪魔にいちゅか殺されちゃうと思ってたもん」
俺は無言で続きを促す。あまり反応するのは得策ではない。
場合によっては、無言を貫くフィラさんの表情から一部情報は読み取られているかもしれないが。
「全然模倣してにゃいじゃん。あんにゃの、死を刻む悪魔の美学に反しゅるよー」
美学、ときたか。
彼は模倣の悪魔と同じように、死を刻む悪魔を崇拝する人間の一人、という事もあり得るかもしれない。
「あ、そうそう。しょれで死を刻む悪魔の話に戻ゆけど、多分大捕り物の次の日、ジスしゃん落ち込んでる気がしたにょ。だから、犠牲者の内……しょーだなー、3人か6人か、とにかく3の倍数に当たる模倣の悪魔はジスしゃんたちの襲撃から逃げ出し、ジスしゃんは追って行った」
落ち込んでいるのがバレたと言うのは、大きな失敗だ。
「しょの結果、死を刻む悪魔が模倣の悪魔を殺害している所に居合わしぇた。しょの上死を刻む悪魔を逃がし、結果として近隣の町で犠牲者を出した、って所かにゃ、って」
こいつ、本当は見ていたんじゃないだろうな? 死を刻む悪魔の関係者である可能性も疑いたくなるほど、彼は的確に当時の状況を「推測」して見せた。
尤も、近隣の3名の犠牲は……俺は知らなかったわけだが。
「ねぇ、ねぇ! どうだった?」
「貴方にお話し出来る事は有りません」
「これってさ、違うなら違うってはっきり言える話だよな」
彼は低い声で、いつものあやしげかつ不安定な滑舌を捨てて俺に確認する。
答える気はない、と反応した筈が、言葉尻を捉えられた上、突然「元の口調」に戻された。俺が困惑し、何らかの反応をするのを狙ったのかもしれない。
「どう捉えようと、ご勝手に。こちらは守秘義務がありますので」
「うんうん、いいよー。おれが勝手にぺらぺら喋っただけらもんにぇー」
俺はどこまでも突っぱねる。何らかの反応をすれば、また何か見透かされそうで怖い。
彼はにこやかにへらへらとした口調に戻し、「でもちょっと残念。ちぇー」と唇を尖らせる。目の中の好奇心を消そうともせずに。
「あ、そうそう。話は変わゆんだけどにぇ」
唐突に、彼は俺に向き直る。先程の熱っぽさは、一瞬にして身を隠した。
「ルーシュが怪我して、ある意味よかったと思ってるんだよにぇ。今回の大会には出にゃい方がいい気がしてゆから」
「どういう事ですか?」
尋ねると「だーって」とわざとらしく間延びさせながら、口元をニヤニヤとしたいやらしい形へと歪める。
「大会は三人一組だよ? こんにゃの、狙わない手はにゃいよにぇー」
……結局、死を刻む悪魔の話、という事か。
「大会、中止した方がいいんじゃにゃい?」
「テロペアさん、その話――」
「じゃね!」
詳しく聞こうとするも、テロペアさんは直ぐに身を翻し、病院だと言うのに全力疾走で去って行った。
さすがにこの場で、フィラさんを置いたまま追う事は出来ない。
「あの方、変な方ですのね」
「変、で済めばいいのですが」
変人程度であれば、それほど害はない。だが、これが死を刻む悪魔と関係があるとなれば、話は別だ。
「いや、今はよしましょうか。帰りましょう」
「ええ!」
今考えても仕方がない。
結局俺は、フィラさんと共に本局へと戻ったのだった。
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