1-30 嫌がられずにお話をして貰えるんだ
本局に帰り、先にバンクシアさんに報告をしてから仕事に戻ろうと、彼を探して話し掛けた。
バンクシアさんは「そうか」「わかった」以外の言葉は無いのか、というように、おおよそ全ての相槌をそれで済ませている。
「おっと、お二人お揃いで」
そんな中、唐突に声を掛けて来たのは、リリウムさんだった。お得意の目は笑っていないスマイルで、「続けて」と、何故かそのまま俺の報告を聞こうとした。
どうしたものか、と、バンクシアさんに視線を向けると、珍しい事に、忌々しそうな表情を一瞬だけ浮かべ「続けろ」と口にする。バンクシアさんがいいのなら、まぁ、いいか。
俺は報告を続けた。
「これ、調書?」
途中でバンクシアさんに書類の一部を渡そうとすると、リリウムさんはその内の一枚を横から掻っ攫う。困った人だ。
「はい。何でも屋アルベルトというお店に頼んでいたのですが」
「あぁ、知ってる。フーさんとベル君のお店でしょ?」
「はい」
知っているのなら話は早い。
「お願いしていて、かなり終わっていたのですが、襲撃事件の事を聞きに行ったついでに済ませてきました」
「管理官を嫌っている精術師、だっけ」
「と、いう話だった筈ですが、それほど問題は無く」
「ふぅん。嫌がられずにお話をして貰えるんだ」
掻っ攫った書類を俺の手元に返しながら、リリウムさんはどうも誤解した口振りでニタっと笑う。別に俺が信用されたんじゃなくて、ベルさん達の努力のたまものだと思うんだが。
「あー! やっと見つけましたよ、リリウムさん!」
第三者の声。この声は、と振り向けば、予想通りウィリアムさんが頬を膨らませて走ってきた。
「おっと、見つかった」
「ブラン様がお呼びです。帰りますよ!」
「はいはい」
今日も今日とて使いっぱしりらしい。非常に仕事が立て込んでいるのは、向こうも同じだ。
この状況でその辺をほっつき歩いているリリウムさんは何なのか。俺は表情には出ないが内心で呆れている。きっとバンクシアさんもそうだろう。
二人を見送った後、報告の続きをし、俺も俺の仕事の為に戻ったのだった。
夜にナチの様子を見に行くと、大分よくなっていた。これなら、もう少しで復帰出来るだろう。
俺が安堵の息を吐きだしたのを見て、ナチは「良くなって嬉しいですか?」と、また口元をもにょもにょと動かした。むしろ彼が嬉しいらしい。
この分だと、日常に戻れるのはそう遠い未来の事ではなさそうだ。
失った物は、人は戻らないけれども。それでも、その上に成り立つ日常に、俺は早く会いたい。
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