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管理官と問題児  作者: 二ノ宮芝桜
第一章
24/83

1-24 殺るなら三人。これ、常識


 曲がりくねった道は、俺には優しくない。

 あまり慣れぬ道だ。俺が追うのは気配。そして、匂い。

 おかしなことだが、だんだんと気配が希薄になり、気が付けは喧噪すらもなくなっている。

「なんだ……?」

 独り言を一つこぼしながらも、血の臭いを追った。

「ぎゃああああ」

 と。悲鳴が俺の耳に入り込む。成人男性。一人分の悲鳴。加えて言えば、先ほどの残党のような声。

 声のほうへと足を向ければ、ぐったりと倒れ、赤をこぼすそいつに出会った。俺が追っていた、残党の内の一人。目くらましの魔法を使った男だ。

「全然なっていないな」

 だが、残党よりも大物が、俺の目の前にはいたのだ。

 体のラインの見えない、真っ黒なフードつきのローブ。真っ白な仮面には真っ赤な13枚の痣と、6枚の痣を模した模様。声は意図的に変えられた、女性とも男性とも捉えられる物。俺には小柄で華奢な男性に見えるが、この認識も人によっては違うらしいので当てにはならない。

 まさしく、死を刻む悪魔ツェーレントイフェルだった。噂でしか聞いたことは無いが、男性とも女性とも呼ばれるそいつは、指先でナイフを弄びながら首を傾げた。

「四人目かー」

 どうやら俺の存在をカウントしたらしい。

 が、彼は目にもとまらぬ速さで、これ幸いと逃げようとしていた残党二人に、三回ずつナイフを刺して、動きを鈍くした。

「お客さんは、ちょっと見ててよ」

 死を刻む悪魔ツェーレントイフェルは、仮面で見えない表情に笑みを浮かべたのではないだろうか。俺に向けて僅かに頷くと、先に倒れ伏していた残党に「フィーア、フュンフ、ゼクス」と数えながら更に三回刺した。

「この――」

 しかし、黙って指を咥えて見ているつもりはない。俺は死を刻む悪魔ツェーレントイフェルに剣を向ける。

「ズィーベン」

 今度は構えた俺の剣に向けて、残党を引きずって投げつけて来た。慌てて下がるも、投げつけられた残党は刃先にあたり、血を流して崩れ落ちた。

 だが、まだ息はある。

「アハト、ノイン」

 数えながら、今度はナイフが二本、その残党に放られる。その二本は、倒れ伏したそいつに深々と刺さった。

「ツェーン」

 十回目のカウントで、更に一本。合計三本が残党に突き刺さったかと思うと、今度は「フィーア」と口にしながら別の残党を俺に向けて蹴り上げる。

 やり難い。いや、残党は処分しても構わないのだが、それより、死を刻む悪魔ツェーレントイフェルがどんな行動に出るのかが分からず、俺の動きを鈍らせた。

「フィーア」

 もう一人、残党が放られる。これもまた、俺の剣を狙っていたようで、思わず下がっても、彼を傷つけている事に変わりは無かった。

「エルフ、ツヴェルフ」

 死を刻む悪魔ツェーレントイフェルはカウントしながら、倒れている残党に刺さったナイフの内、二つを踏みつける。

「ドライツェーン」

 最後には、懐から出した、今まで使っていた物よりも遥かに長いナイフで、彼の心臓を貫いた。

 ずっと血は流れていた。

 けれども、命の終わりには、相応しい程の赤い川が出来上がる。

「私を模倣するのなら、13回、あるいは3回、3の倍数を大切にしないと」

 ずっと、言われてきた事だ。死を刻む悪魔ツェーレントイフェルの特徴。それをまさに、本人の口から聞く事になるとは思わなかった。

「全てが中途半端。いや、そもそものメンバー数がそれらに該当していなかったところも気に入らない」

 最初に配られた資料を思い出す。グループは全部で二十八人。内、取り逃がしたのが十七人。

 これは最初に気配を探った時もそうだったので、間違いはない。

「私は、模倣されても構わないと思っている」

 口振りから、既に何度も模倣はされているのだと気が付いた。

「中途半端にやらかして、いたずらに私の領分を犯さなければ」

 どの部分を指しているのかは分からない。こいつにとってのルールなど、俺は知らないのだ。

「全くなっていない。管理官を何人殺した?」

 残党は答えない。

「二人、なんて生ぬるい」

 けれどもこいつは、知っていた。どこかで、あの場で、見ていたのか?

 あんなに沢山の管理官がいる中、誰にも気づかれずに、一体、どうやって?

るなら三人。これ、常識」

 非常識な存在が、謎の常識を語る。

 そいつは俺に向かって刀身の長いナイフを投げつけた。完全に頭を狙ったそれを剣で弾き飛ばせば、一瞬の隙をついて、生きている残党の内の一人の足に、新たなナイフを取り出して突き刺した。

「フュンフ」

 数えながらも引きずり、俺と距離を取る。

「ゼクス、ズィーベン、アハト、ノイン、ツェーン」

 カウントしながらザクザクと深く斬り刻む。

 彼は何度も呻き声を上げる。死を刻む悪魔ツェーレントイフェルは、俺の動向に気を配りながらも、口笛を吹いていた。どこかで聞いたことがある。童謡だっただろうか。

「あと3回」

 死を刻む悪魔ツェーレントイフェルは、口笛を吹くのを止めて、ゆっくりと頭を傾けた。丁度、首をかしげるような動きだ。

「しっかり見ていてあげてよ。彼が13回で死ぬところを」

 俺は動かずに、黙って見ている。

 その理由は二つ。一つは、残党である男は、仮に死を刻む悪魔(ツェーレントイフェル)が殺さなかったとしても、管理官として処罰すべき相手である事。

 もう一つは、そんな相手を庇って、死を刻む悪魔(ツェーレントイフェル)をみすみす逃すような真似をしたくは無い為、しっかりとタイミングを見定めているから。

 非情と言われようとも、多くの民間人を守る為には必要だった。

「エルフ、ツヴェルフ」

 死を刻む悪魔(ツェーレントイフェル)は楽しそうに数える。

 刻みつけられた傷は、既に十二。もう一回ナイフで斬り裂かれれば、止めになるだろう。

「ドライツェ――」

「助けてくれ!」

 死を刻む悪魔(ツェーレントイフェル)が最後のカウントをしようとしたまさにその時。俺の足元に転がっていた残党が、ゆるゆると起き上がり、俺にすがりついた。

「何でもする! 管理官に、どんなことだって教える! だから――」

「フュンフ」

 不機嫌な声。それと同時にこちらに投げられたナイフは、見事に俺にすがりつく残党の肩に刺さる。「ぐ、ぅ!」という、悲鳴になりそこなった呻き声と共に、俺の最早誰の血であったかも曖昧な赤で染まった制服を握った。


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