↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
管理官と問題児  作者: 二ノ宮芝桜
第一章
23/83

1-23 怯むな、行くぞ!

 街外れ。治安があまりよくないとされる路地裏。

 その一角に、元は教会であったはずのさびれた建物が一つ。

 建物の中には複数の人の気配。集中して数える。

 一、二、三……おそらくは十七人。

「やれ」

 この場で一番上となる、バンクシアさんの指示。

 これにアガスターシェ・エルフ・ケルステンさん――バンクシアさんの直属の部下で、六枚の管理官(ゼクスライトゥング)の男性局員が小さく頷くと、開戦の合図となる魔法を高速で描き、元協会へと打ち込んだ。

 これもあらかじめの計画の一つだ。

 地響きと轟音をたて、崩れる外壁。 なんだなんだと飛び出してくる面々は、先の資料通りの人物だ。

 すぐにバンクシアさんが走り出し、残党のうちの一人を羽交い絞めにして、敵に見せつけた。

「死を刻む悪魔(ツェーレントイフェル)を信仰しているな?」

 静かな、けれども迫力のある低音は、地をも振るわせる。

「――就職管理官だ!」

「殺せ!」

「あいつらさえいなければ!」

 一人、人質に取られているとは到底思えぬ様子で、総勢十七名……いや、一人捕らわれているので十六名は、銘々に武器に手をかけた。

「やれ!」

 合図はバンクシアさんのものだ。

 彼は剣を抜くと、拘束していた敵を放り投げ、そのまま斬り伏せる。本来ならば、俺と同じく双剣使いなのだが、先日腕を怪我したばかりだからだろう。一本しか抜いていない。

 それでも圧倒的な強さで、返す刀で残党のうちの一人の首に突き刺した。

 勢いよくあふれた血が、真っ白な制服を汚す。

「怯むな、行くぞ!」

 これが、敵味方どちらの言葉だったのかは怪しい。だが突き動かされるように。どこか頭の芯は冷えているのに熱を孕む様に、俺は俺にかかってきた敵の剣を片手の剣で受け流したまま、別の敵の胸を薙ぐ。

 呪文が聞こえる。こちらのメンバーの中に、カサブランカ様の双子従者の弟にあたる精術師がいるので、彼のものだろうか。

 強烈な風が、強烈な「生きていたもの」の臭いを運ぶ。

 生臭い。

 いくつもの魔法がはじけ、光が点滅する。目がくらみそうな点滅する光と、視界を遮る吹き出す赤。

 怒号なのか悲鳴なのか。それすらもあやふやなまま、無我夢中で敵に向かう。

 ここにいるメンバーは、誰一人として信用出来ない人はいない。ペンステモンさんとノラナさんは、ここまでの現場は初めてだが、それでも普段はうまく立ち回っていたはずだ。

 つまり、今一番気にかけるべきは、己が周りにとって邪魔にならないようにする事と――敵を殺す事だけ。

 強化した金属と、強化した金属が嫌な音を立てる。

「――くっ」

 力任せに振るわれた剣を受ければ、別の敵に魔法を向けられている。きらきらとした魔法を放つ前の光は、危険信号となって伝わった。

 すんでのところで避ければ、俺が今までいたところに火柱が立っていた。

 敵も味方も関係ない。いや、敵にとっては、か。

 烏合の衆だから、というのは、おそらく理由ではない。彼らを結ぶのは死を刻む悪魔(ツェーレントイフェル)の存在。

 自身のルールに則った行動の多い殺人鬼。それに憧れ、悪意をくすぶらせているのなら――彼らもまた、悪魔だ。模倣の悪魔(エピゴーネントイフェル)という名前の通りに。

 倒さなければならない。なんとしてでも。

「マロウ!」

 ふと、仲間の名前が聞こえ、つい視線を動かした。

 その人はバンクシアさんの直属の部下にあたるチームの一人。複数回刃物を突き刺された痕と、おかしな方向に曲げられた首。あれは……もう助からない。すでに息はないかもしれない。

 悲しいがあの人の事は後だ。

 名を呼んだのは、その人と同じチームのラークスパーさんだったのだろう。彼は顔を顰め、痛ましい表情をしていたが、やがて前を向きなおした。

 そう、助からないと判断したのなら――切り捨てなければ自分がやられる。

「あいつは助からん。無視しろ」

 おそらく、慣れていないメンバーを思っての事だろう。バンクシアさんが注意を促した。

「でもっ……でもっ、もしかしたら……!」

 震える声の主を、俺はよく知っていた。

 ひやり、と、嫌な汗が背中を伝う。

 斬りかかる敵の剣を受けながら、必死にそちらに顔を向ければ、ペンステモンさんがマロウさんの方へと走り出していた。

「止まれ! 行くな!」

 失ってたまるか。これ以上仲間を失ってたまるものか!

 俺は必死にもう片手で敵の腹を薙ごうとするも、ひらりとかわされる。その上、肩を斬りつけられてしまった。意識が目の前の敵になかったせいだろう。

 いや、どうしてそうなってしまったか、など、どうでもいい。

「うわぁぁぁぁ!」

 叫び声のような、奮い立たせるような声。めちゃくちゃに、まったくの余裕を感じさせない動きで、ペンステモンさんはマロウさんの近くにいた敵へと剣を向けた。

「止まれ! 頼むから、冷静に――」

 俺の声は届かない。どうして、どうして今、俺はすぐにでも止められる位置にいなかったんだ。仲間を信用しすぎたのか。もっと警戒していれば――。

 後悔が頭の中に駆け巡る。

 スローモーションだ。俺からは全て見えていた。

 おおよそ良いとは言えない動きのペンステモンさんの、がら空きの背中に……剣が突き刺さったのを。

 真っ赤な血が、地を這う。ぬるぬるとした、生きていた証が……。

「――の野郎!」

「待て、抑えろ! 抑えてくれ!」

 感傷に浸りそうになった俺は、ノラナさんの低い声に反応して意識を戻した。確認すれば、何名もの人物が殺気をみなぎらせている。だめだ。これじゃあ、ダメなんだ。

「頼む!」

 俺の声は、届かない。俺の声じゃあ、誰にも……。いや、それでも動くしかない。

 ペンステモンさんの敵(かたき)とばかりに剣を振るうノラナさんの方へと、俺は敵をかいくぐって近づくと、俺と同じくらいの長身である彼を狙う相手の首を、斬り捨てた。

 恐ろしいほど簡単に、ぽたりと人の首が落ちたのを見て、ノラナさんは小さく息を飲む。

 落としたばかりの首からは、おびただしいほどの血がこぼれていた。

「かかってくるならかかって来て下さい。全員まとめて、私が処分して差し上げます」

 低く、低く。意識して低い声を出し、じろりと周囲に視線を向ける。

 おとなしく、降参するならしてくれ。出来れば早く、仲間を弔ってやりたいんだ……。

「彼だけではない。私もまた、貴様たちを一匹たりとも逃すつもりはないのだから」

 剣が風を切る音。それから、バンクシアさんの声。俺がかばったノラナさんは、腰が抜けたようでずるずると座り込んだ。

 ここから先は、彼を守りながら戦わなくては……。

 いや、大丈夫だ。どうやら残りは三人。三人相手なら……行けるはずだ。

 だが、俺の決意をよそにそいつらのした行動といえば、目配せをして、魔方陣を描くことだった。

 まずい、と、反射的に下を向く。あの形には覚えがあったのだ。

 やはりというべきか、すぐに何であったのかは理解出来た。視界を遮る、真っ白な光。目くらましだ。

 うつむいて目をつむりながら気配を探る。

 三人は同じ方向へと逃げている。このままだと、殺されると判断したのだ。

 少しだけ光が収まれば、俺はすぐにでも追えた。

「クレソンさん、ノラナさんを頼みます」

「はい!」

「ジギタリス、逃すな。確認出来次第すぐに応援に行く」

 この場をクレソンさんに頼み、バンクシアさんの心強い言葉には「はい」と返す。

 そして俺は、人の気配を探りながら、路地を走った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。