虚構の守り手
死闘の翌朝。
清水家のリビングで、健は直樹を相手に昨日の出来事を淡々と語っていた。
アークの怪人が行っていた「歌エキス」の収集という狂気的な計画、そしてカラオケボックスでの三日間にわたる喉を血に染める特訓と「グッドボイス」による対消滅。
全てを語り終えた健は、冷めたコーヒーを飲み干した。
直樹は、最初は呆れたような表情で聞いていたが、次第にその眼差しが変わっていった。
普段はゴロゴロしてばかりの健が、命をかけて街を守り、音楽の力で怪人を打ち破ったという事実。(意外と・・・いや、普通にヒーローしてるじゃないか)
直樹は驚きと共に、健に対する新たな敬意を感じていた。
だが、同時に胸騒ぎも覚える。
これは単なる一過性の騒動ではなく、もっと大きな戦いの序章に過ぎないんじゃないかと?
「健さん、これからどうするつもりなの? また怪人が現れるのを待つの?」
直樹の問いかけに、健は窓の外、広がる青空を見上げて言った。
「いや、待ち伏せは効率が悪い。奴らの本拠地、アークの秘密基地を探す」
「えっ、場所も分からない基地をどうやって探すんだよ」
健はニヤリと、少し悪い笑みを浮かべた。
その表情は、三日間の修行を終えた自信と戦士としての凄みが同居している。
「簡単さ。とりあえず、アークの戦闘員を捕まえて。あとは力ずくで、全部吐かせてやる」
「捕まえるって、どうやって?」
「その辺の裏路地にでも張り込んでりゃ、間抜けなのが偵察に来るだろ。そいつを捕まえる、単純な方法が一番だ」
"猫じゃあるまいし"と直樹は思ったが、健がやる気になっているならと黙っていた。
健はソファから立ち上がり、軽く背伸びをした。
その姿からは、昨日の死闘の疲れは微塵も感じられない。
「直樹、俺はちょっと探しに行ってくるわ。あ、ついでに帰りにエナジードリンク買ってくるから、何か食べたいものあったら言ってくれ」
正にコンビニにでも行くような軽さで、健はまた戦いの最前線へと戻っていった。
残された直樹は、健の背中を見送りながら、溜息と共に小さく呟いた。
「結局、健さんは健さんか……」
平和な朝の光の中で、清水家の「アーク討伐作戦」は、極めて泥臭く、しかし力強く幕を開けたのである。
#アーククレイドル
アークは前作戦に失敗したものの、最大の危機を脱していた。
総統の興味が、他へ移ったのである。
司令室を支配していた重苦しかった空気は、一瞬にして弛緩したものへと変わった。
モニターに映し出されるのは、全滅した精鋭部隊の残骸や、今も黒煙を上げる基地の無惨な姿だ。
しかし、総統にとっては取るに足らないものでしかない。
アークが崩壊しなかったのは、我々の戦術や防衛能力が優れていたからではない。
ただ単に、神の如き暴君の視界から外れただけのことだ。
背後で、生き残った幹部たちが小声で何かを話し合っている。
彼らの表情には、基地の壊滅を回避出来た事の安堵が浮かんでいる。
だが、将軍であるハーヤマはその弛緩した空気に耐えられず、冷たい窓枠に額を押し当てた。
次回予告
遂にハーヤマ将軍は邪魔者である、健の排除を決意する。
まずは、健を周囲から切り離す卑劣な酢酸を決行。
次回 奴らの罠を喰い破れ!




