アンデッドスタンピード そのに
--ヒナ--
シルさんがマスタースパークを放って森を消し飛ばした後(電撃じゃなくて炎だとツッコミを食らった)、アンデッドが大量発生している原因らしい無尽蔵にアンデッドを湧き出している真っ黒な剣を見つけた。
で、あの黒い剣は何ですか?と聞こうとしたら、今度は空から真っ白な火柱がその剣を中心に舞い上がった。
「・・・今度は何。」
けど、その真っ白な火柱のおかげで湧き出たアンデッドは消し飛んだが、再度湧き出るが、
その剣を中心に真っ白な炎が纏わりついて湧き出ながら消し飛ばし続ける。
「少なくとも敵ではないようだね。」
「だからと言って敵の敵は味方とも限らないでしょ。」
確かに。
でもあの白い炎からはすごくあったかくて優しい何かを感じる。
とか考えてたらポテりと私の頭に軽い衝撃がかかる。
衝撃というか何かが頭の上に落ちてきたというか。
何だろうかと思ってその頭の上のナニかを握ろうとしたらモフっとすごく触り心地の良い感触だった。
片手では握れないサイズだったので両手でつかんで目の前まで下ろしてみたら。
全員「・・・」
「何その人の頭サイズの白と黄色のマーブルヒヨコは・・」
そしてなぜかその白と黄色のマーブルヒヨコさん(大)は、全身をあの黒い剣を包み込んで現在進行形でアンデッドを消し続けている白い炎を全身に纏っているのに私はそんな萌える・・じゃなかった文字通り燃えるヒヨコさんを抱えているのに全く熱くない・・なんでだろう?
ノア君とイブちゃんも同じように触りつつも熱くないことに首をかしげている。
そんな私たちのやり取りで何か察したらしいリンさんが驚いた表情をして呟いた。
「まさか・・このヒヨコにしか見えない鳥が、フェニックス?」
シルさんがギョッとした表情をしてリンさんを見つめる。
「嘘でしょ・・アイリスに並ぶ災厄の1匹がこのヒヨコだっていうの?確かにあの白い炎の使い手なのは確かっぽいしすごい助かってるけど。」
「あのフェニックスってあの不死鳥とか言われてるアイリスさんと同じSSSランクの鳥の魔物の?」
「そう。今は時間が惜しいから軽くしか説明しないけど。」
災厄と呼ばれるSSSランクの魔物は、世界的にも何種類か存在しており、その中で有名なのは
氷を操り、稲妻のごとく地を駆ける巨狼、フェンリル
強靭な肉体と高い攻撃力、そして陸海空を自在に行動する自然界の覇者、ドラゴン
そして、炎を操り空を自在に飛び回る不死鳥、フェニックス
ちなみに不死鳥と呼ばれているけれど正しくは、とんでもなく高い治癒能力と肉体の自己再生、そして全身を炎に変化させ、炎を自身の力に転用する能力がそう呼ばれる理由なんだとか。
そして、フェニックスの炎はフェニックス自身が燃やすか否か決める為私達が触っても熱くないんだとか。
その炎こそ、フェニックスの代名詞ともいうそうだけど。
「で、フェニックスの炎は聖なる力を宿していてそれは美しい姿をしてるという噂で、誰もその姿をまともに見たことがなかったんだけど・・」
「まさか、こんな・・こんな美しいのうの字もないかわいいだけのヒヨコだなんて・・可愛いけど・・」
もしや白い炎を全身に纏って盛大に周囲を燃やし尽くしてるあれこれが遠くからでよく見えなかったから白い炎が翼とかの全身に見えたりしたのかな?
でシルさんは可愛いのはうれしいけど、理想と違ったらしく葛藤中。
リンさんもどこか複雑そう。
「はぁ・・今はそれどころじゃないわね・・とりあえずヒヨコ。助かったわ、ありがと」
「ぴよ」
気にすんなよという感じでやたらとダンディな仕草をしながら返事をするヒヨコさんにシルさんの顔が引きつる。
で、同じく顔が引きつってるリンさんが次に声をかける。
「と、とりあえずあの剣の対処をすぐに考えるから時間稼ぎをもう少し頼む。」
「ぴよぴよ」
しゃーねーなーとやれやれだぜと言いたげな仕草をしながら手伝ってくれるヒヨコさんにリンさんはとうとう頭を抱える。
「うぅ・・何なのこの無駄に人間臭い意味の分からないヒヨコはぁ・・」
「フェニックスは頭が良いとは聞いたことがあるけどこんな人間臭いなんて初耳なんだけど・・」
「とりあえず、シルさん、リンさん。あの黒い剣について教えてください。」
「はぁ・・そうね。」
「まず結論から言うとあれは魔剣だ。」
「え?でも見た感じあの剣の持ち主はいなさそうですけど。」
持ち主が死んだら魔剣は消えてなくなるし、持ち主の手元から離れることはあり得ないって聞いたんだけど。
と尋ねると
「そこからが本題だ。」
「魔剣は知っての通り、持ち主が死んだら消えてなくなるけど、1つだけ例外があるのよ。」
「それは、持ち主が殺されてしまった時だ。」
「え?」
魔剣は主を選び、主のために尽くすすごい存在と思ってたけど、どうやら魔剣保持者がもしも本人が自覚しているか否か問わず、誰かに殺された場合、持ち主の代わりにその殺した相手とそれらを知りながらも何もしなかった人も全員を呪い殺そうとして暴走するらしい。
そして、呪い殺した後は解放されて消えるかと思ったけどそうではなく殺した相手を死後も苦しめるために周囲のありとあらゆる存在を害そうとするらしい。
「それが今起きてるアンデッドの大量発生よ。」
「ちなみに、その加害者の方がもしも魔剣に仕返しされずに逃げ続けたらどうなるんです?」
「その場合は、どこまでも追いかけながら通りすがりに存在するありとあらゆる生き物を呪い殺しながら自身の力に変換しながら追い続けるからただ呪い殺すよりも質が悪いことになるわね。」
忠実というべきなのか何なのか・・気持ちはわからなくないけど。
どちらにしても、周囲の人がとばっちりを食らうというのは確からしい。
「その暴走してるあの魔剣は、追いかけずにあそこに刺さったままってことは復讐は完了して暴走してるだけってことですよね?」
「そうなるわね。」
「あの魔剣をどうにかする方法ってあるんですか?」
「そこなのよねぇ・・」
「面倒なことに魔剣の特性である決して壊れないほど頑丈、もしくは異常な再生速度で直るかの2択はあの状態でも同じだから破壊するのが事実上不可能なんだよね・・。」
「え・・それじゃあお手上げってことじゃ・・」
「一応例外はあるわ。ただ・・」
「?」
なぜか私に申し訳なさそうな表情をして見つめるシルさん。
そして、リンさんも同じく申し訳なさそうな表情をして答えてくれる。
「聖属性の魔法よ。」
聖属性・・あれ?
「このヒヨコさんの炎って聖なる力が宿ってるんですよね?それじゃダメなんですか?」
「ダメだな。」
「聖なる属性なのは同じだけど、あれは破壊に特化した聖なる属性だ。必要なのは癒しの属性だけど。」
聖属性には2種類あり、あらゆるものを消滅させる破壊の力と、様々なものを癒し浄化する癒しの力。
「アレ?それならなんで私をそんな目で見るんですか?」
「それはね・・ヒナ。この中で唯一、その力を持つ可能性を秘めているからよ。」
「・・あ」
そう言えばそうだった。
「僕たちは正直ヒナが決めたものにして欲しい。けれど、今ここでこう言ってしまうとヒナの未来を僕たちが捻じ曲げてしまう・・。」
あぁ・・そういうことか。
「でも私たちは、それを強要しないわ。」
「あぁ。一応封印する方法はあるからそれをしてその力を持つ人を派遣してもらうことだって出来る。」
「それでヒナを責めたりなんて絶対にしないしさせないわ。我が一族の誇りにかけて。」
「僕たちの一族も同じくだ。」
ホントに・・この人たちは良い人たちだ。
「大丈夫ですよ。」
ふわりと微笑みながら2人に答える。
「実はもうかなり前からどれにするか決めていたんです。」
「え?」
「・・どちらを選んでも私は何も言わないわよ。」
「で、ずっと前から頭の中で選べ選べってうるさくって」
「・・は?」
「進化するときに声が聞こえるという噂のあの天の声ってやつかな?」
「多分?で、うるさいから後にしてと言ったら特殊依頼を発生するだの、イレギュラーに合格しただのとなんかうるさくて最近は何か言ってても全部無視してたもののさすがに今の状況が状況なのでちょうどいいなって。」
「・・・」
「だから、この後どうなっちゃうか私もわからないので、信じてくれますか?」
「・・えぇ。」
「任せてくれ。」
ありがとうございますシルさん、リンさん。
さぁ、その天の声とやら。
選びますよ。
私は。
私は、私を大事にしてくれる人たちを守るための力が欲しい
敵を倒す力じゃない、守り支える力が欲しい
そのためなら今の私とは異なるナニかになっても構わない。
そう言った瞬間、頭の中で特殊進化、猫寄せ天使へ進化致しますという声が響き、私の意識は眠る時のように薄くなっていった。
--シル--
正直聞きたいことも確認したいこともホントに・・ホンっっトにもう大量にあるけど頑張って我慢する。
いつから決めてたんだとか
いつからその選べという天の声が聞こえてたんだとか
平然と鷲掴みされて撫で回されても逃げもしない無駄に人間臭いヒヨコに野生はどこ行ったとか
ふぅ・・・それはさておき
ヒナがふわりと微笑みながらお礼を小さく呟いた後、何か呟いていた。
そして、全身をふわりと白い光に包まれていった。
「これは・・」
「まさか種族進化?」
そう言えば、進化的な何か特殊な条件が整った的な声が響いてたとか言ってたわね。
・・・・ただなぁ、ヒナの場合地味に多くの人の人生救ってる実績があるのよねぇ。
本人、無自覚だったりレシピを経由したりとかだけど。
言い出したらきりがないけど、軽く言うと
自殺寸前だったどこぞの貴族や王族の数人が自殺をやめて人生前向きになって大偉業を成し遂げてたり
世界的に有名(らしい?)悪名名高い奴が自首するようになったとか
治安が悪い複数の土地に住む治安を悪くする代表格な多くの連中の足を洗わせ、まじめに生きるようになったとか
当たり前のように作ってる薬草を使った料理である精進料理のおかげで体調不良を訴える人数が世界的にも超激減して、世界的にも大発見だとなったとか(流れ弾で双子ちゃんが良く珍しいものを拾ってくることも評価された)
・・・それが軽く耳にした内容で他にも大量になんかいろいろやらかしてるらしいから、実績?みたいななにかは十分足りてるでしょ。
おまけに世界的にも禁忌となってる異世界召喚魔法の魔法陣とそれらを行使したりまとめた資料等を偶然とはいえ完全破壊してるわけだし。
ちなみにそれらを本人に言ったけど、何を馬鹿なと冗談と思われて聞き流された。
で
「属性を選ぶだけじゃなかったの?」
「ヒナはかなり特殊なものを色々持ってるから、もしかしたら種族進化というより本来の種族に戻ろうとしてるんじゃないか?」
「もともとその何かになるはずだったのに、偶然が偶然を呼んで人の姿のままだった。そして今回選択したことをきっかけに保留中だった種族になったってこと?」
確かにヒナは、他人には言えないようなあれこれを大量に抱えているから普通の人のままだったのが不思議と言われれば自然と納得する。
それからヒナは全身を光らせながら独りでに立ち上がり、ゆらゆらと体を揺らしながら魔剣の元へ歩いて行く。
そのとき、偶然ヒナの服の間から覗く腕に白い線が描かれていくのが見えた。
最初は気のせいかと思ったけど、何度見ても腕にはしっかりと白い線が描かれている・・いや、刻印されており、それどころか首元や手の甲にも何かが刻印されているように見える。
リンに視線で見えたか聞いたら小さく頷いた。
あまり声を出さないようにした方が良いと思い、あえて静かにしてるけど、どう考えてもヒナは確実に種族進化し始めている。
・・でも本来なら種族進化中は眠っている状態のはずが起きて行動しているというイレギュラーに正直混乱している。
少なくともあの刻印らしき何かは種族進化に絡んだ何かだと思う。
・・後で確認しないと今は結論が出ないわね。
そんな状態でもフラフラと暴走中の魔剣に近づくヒナにヒヨコが消し続けているにもかかわらず、自分が狙われていると気付いたのか魔剣から消しきれないほどのアンデッドが湧き出し、ヒナに襲い掛かる。
私たちがとっさに駆けつけて対処しようとしたけど
ジャリッ
パシュン
という音が響き、アンデッドが瞬時に塵となってきた。
何?と思いよく見るとヒナの鎖(魔剣)がヒナの聖なる魔力を纏った状態でものすごい勢いで縦横無尽に動き回り、アンデッドを消し去っていた。
アンデッドを消し去るだけなら聖属性は破壊の力でも癒しの力でもどちらでも可能だから今の時点では判断がつかないけれど・・。
ヒナってば、あんなに素早く手足のように鎖を操れてたかしら?
操るのは上手だったけど、動きはにゃんこたちが軽く走り回るレベルに一応匹敵する程度で、あれほど素早くはなかったはず・・これも種族進化の影響?それとも、進化中で意識がもうろうとしてるようだからいわゆるトランス状態だから?
そして、私たちがこれまで倒して保管していたアンデッドの呪われたドロップアイテムもヒナがさっきから倒してはちらほらドロップしている呪いアイテムが、目に見える速度で浄化され、呪いが消えていく。
「え・・浄化されてる?」
リンがポツリと驚いた表情をして呟いた。
私も同じ意見だった。
普通、呪いのかかったアイテムは教会に頼むのが定例で、浄化するには呪いの強さに比例して時間はかかるけれど、一番弱いタイプで最低でも半日はかかるのだ。
それは、専用のメンバーが10人で協力してという条件が付く。
なので、呪いの解呪が得意な強力な術者に頼んだとしても1人で普通は1時間前後とかかってしまう。
それも1つずつであって、複数なんてまとめてやるとなると倍以上かかってしまうというのに今ヒナは複数を自身からあふれる聖なる魔力・・つまり余剰分だけでまとめて浄化してしまっているのだ、それもものの数秒で。
ヒナは一体ナニになったというの?
そして、瞳の色も黒だったはずが緑がかった銀色に変わっていることに気付く。
それに、髪もお尻を余裕で覆うくらい伸びてる。
体の刻印と合わせるとそれらの影響でしょう。
だとしても、呪いの解呪が出来ているとしてもやはり破壊属性か、癒し属性かどちらかわからないわね・・。
呪いを癒しの力で解く場合、絡んだ糸をほどいて行くようなもので、
破壊の力で解く場合、絡んだ糸を全部まとめてちょん切るようなイメージなのだと以前、解呪が得意な術者に教えてもらった。
それをベースに調べても、あまりにもヒナがついでとばかりに解呪する速度が速すぎて判断できない。
リンも同じように調べているようだがわからないようだ。
で、クイクイと裾を引っ張られ、見てみるとなぜかヒヨコを抱っこしてる双子ちゃんだった。
「どしたん?」
-ヒナさんの魔法は癒しだと思う-
「・・何か確信が持てる何かがあったのね?」
((コクリ))
指をさされる方を見ると、なぜかにゃんこたちが変化していた。
主に、しっぽの長さが3倍くらいに伸びている子たちと、
しっぽが2本に増えてる子たち。
私たち「・・・」
えぇ・・・・。
それがどういう関係が・・確かにヒナはにゃんこに懐かれまくってるけど・・・何の関係が。
と思って、双子ちゃんに聞いてみると
-にゃんこたち、力が湧くって言ってた-
なるほど。
聖属性の破壊属性の場合、所謂補助系の魔法を扱う場合、バフとデバフという2択で言うところのデバフが使用できるが、バフは使用できず、
逆に癒し属性の場合、バフは使用できるがデバフは使用できないと言われている。
つまり、補助だとしても破壊属性はデバフ・・つまり、相手を部分的に破壊し、弱体化させることのみが出来、バフのような活性化や再生させることは不可能で、逆に癒し属性の場合も同様の理由だ。
とはいえ、やろうと思えばだから癒し属性だからと言ってバフが使用できず傷をいやすことに特化してるというパターンもあるから、出来る可能性が高いというだけの話だ。
そして、双子ちゃんからの証言でにゃんこたちが力が湧くと言っているということは間違いなくバフと判断が出来る。
・・・偶然とはいえ、あの子ってばもう・・結局私たちはヒナに守られ、支えられてるのね。
年上としてホントに情けなく感じるわ・・。
まぁ、普段から結構な頻度でヒナに甘やかしてもらってる時点で大概なんだけどさ・・。
というかにゃんこたちも、しっぽが変化してるということは間違いなくただのにゃんこじゃなくなってるんだから驚くかビビるかしなさいよなんで平然と受け入れてるのよ・・。
後で、変化したことによる違いとか詳しく調べないと・・あぁ、調べることが増えるぅ・・。
後、周囲は私の魔法で文字通り消し飛んでたはずなのにあちこちでぴょこぴょこと草花が育ち、焼け野原が普通の野原に変化している。
これは、間違いなく癒し属性の余波で植物を活性化させて育ってると言っても過言じゃない。
これに関しては進化中というイレギュラーな状態による、偶然で後にヒナが同じことが出来ない可能性もあるからどちらにしても後で調べないとダメね・・。
そう言ってる間に、ヒナは湧き出るアンデッドを鎖で消し飛ばしながら魔剣の元までたどり着いた。
ヒナは、白い炎で消しきれないほど湧き出るアンデッドを鎖でパシュンパシュンと景気よく手軽に消し飛ばしつつ両手を魔剣に向けて広げ、集中せずとも両手にかなりの量の魔力が集中していると感じられるほど濃密に込め、
「昇天せよ」
ポツリと呟きながらその濃密な聖魔法を魔剣に浴びせた。
ギギギギギという音を魔剣が響かせながら振動させ、周囲に湧き出るアンデッドの数が異常に減り出した。
どうやら、そちらにリソースを割く余裕がなくヒナの魔法に対抗するので精一杯らしい。
だが、それでも軽く感じたのは何時間も軽く長期戦になるということだった。
さすがにかなり強化されたとはいえ、ヒナもそんなあの濃密な魔法を何時間も浴びせる集中力も魔力もないだろうからこのままではヒナが押し負けてしまう。
そう、ヒナも同じ考えだったらしく周囲にアンデッドが湧き出る数が減り、ヒヨコが白い炎の出力を上げたらしくヒナが対処する必要がなくなった。
そのため、周囲を振り回していた鎖に聖魔法を纏わせてそのまま魔剣に巻き付けて縛り上げる。
どうやら、そのまま聖魔法と同時に物理的な攻撃、しかも目には目を、と言いたげに魔剣には魔剣をぶつけている。
そして、ギギギギギという音を更に高く響かせている。
どうやら、先ほどよりも効果的のようだが、それでもまだダメらしい。
でもあれ以上の対処はないのでは?と正直感じたが、ヒナからは諦めという意識を感じなかった。
それからおもむろに魔剣を鎖で縛り上げながらかざしていた両手を下げ、距離を取りだした。
突然何を?
と思っていたら、更に長く伸ばした鎖をしゃらりしゃらりと鳴らしながらゆっくりと踊り出した。
ものすごくゆっくりとしたものだが、どこか品があって神聖なものを感じる。
けれど、あの踊りを正直私は見たことも聞いたこともない。
リンに視線で聞いてみると同じく知らないという返事があった。
あの踊りは何?
と考えていると、先ほどとは比べ物にならないくらい魔剣が異常に苦しんでいるように震え、ギギギではなく、ビシビシっという何かにヒビが入るかのような聞こえる。
あの踊りが効いている?
しかもさっきのよりも圧倒的に?
確かに、踊るヒナを中心に周囲が聖なる魔力で異常な速度で満たされているのを感じる。
すると、さっきから私の斜め上にいる奏さんと朔さんがどこか懐かしそうな顔をしているのに気づいた。
視線で気付いたのか、優しい笑みを浮かべて奏さんが教えてくれた。
「あれはね、神楽という踊りよ。」
「神楽?」
初めて聞く名だと思っていたら、朔さんが続けて詳細を教えてくれた。
「つまり、神様へ捧げる舞のことだ。」
「朔さんの実家はね、所謂神職の一族なのよ。」
「神様に仕える存在だったと?」
「そう。神様を奉る場所を代々守ってきたの。」
「そこではな、毎年神様へ舞いを捧げる大事な伝統があるのだが、毎年ヒナが舞ってくれていたんだ。」
なるほど、道理で踊り慣れているのに加え、どこか神聖なものを魔力なしでも感じるわけだ。
そこに聖魔法を込めて踊っているのであればそりゃあ、強力なのも頷ける。
「我が一族でもな、本人には伝えていないがヒナは歴代で最も舞が上手く、神に愛された存在だと言われていたよ。」
ヒナが神様に愛されているのは加護で知っていたけど、これは幼い頃からのお勤め?のおかげというのもあったのね。
・・道理で、双子ちゃんが初対面であれだけ懐くわけよ。
「それに、身内贔屓抜きにして神楽を舞っているヒナちゃんはすごく奇麗よ?」
「確かに」
普段はすごくかわいいけれど、あの舞っているときの澄ましている表情も流し目なのも、相まってすごくきれいで見惚れてしまう。
そんな光景の中、しっぽが伸びたり2本に増えたりしてるにゃんこたち(全匹変わってた)がなぜかその舞いに合わせてにゃごにゃごと鳴いている。(合いの手?)
大したものじゃないと思っていたらまさかのその鳴き声に合わせて魔剣からみしみしっというヒビが増える音が更に強まっていく。
何なの?
ネコとの相性があの子良すぎない?
関連性が全く意味が分からないけど。
そしてさらににゃんこたちはというと、そんな舞うヒナを取り囲むように一定の間隔をあけて取り囲んだ位置で座り込んでいる。
ざっくりヒナを中心に二重丸が出来ており、何かの魔法陣を模してるのか?と勘ぐってしまうがそんなまさかなと考えていたらいまだに続くにゃんこの合いの手と、魔剣から響く壊れていく音が更に強まっていく。
やっぱりにゃんこの声に合わせてヒビが増える速度が増している?
どういうこと?
あぁ・・もう・・ホントに調べることが増える・・!!
とか考えていると、
「ぴよぉぉ!!」
高らかにヒヨコが突然叫び出し、くちばしからえげつない数の小指サイズの白い火の玉を連射させ、魔剣に命中させる。
いきなりなんだ!?
と思ってたり、あんたの炎は聖属性でも破壊属性だから意味はあんまりないだろと思ってたけど、なぜか
ばきぃぃん!!
綺麗に魔剣が粉々に砕け散った。
なんでぇ!?
暴走魔剣は癒しの聖属性じゃないと壊せないのよ!?
破壊属性だと例え聖属性だったとしても、呪いを力づくで破壊することは出来なくはないけど、一定の割合で強化して呪いが復活するパターンがあったり、場合によっては変異させて余計に質の悪いことになるから癒し属性じゃないとダメなのよ!?
癒し属性の力で、アンデッドには癒し魔法が効くという法則と同じ理由で暴走魔剣には癒しの聖属性が効果的なのよ。
一応デバフという枠で多少弱体化させることは出来なくはないし、やるとしたらそれくらいしかないんだけど、それが致命傷につながることはない。
だというのになんで!?
やっぱりヒナの聖属性はただの聖属性じゃないわね?
絶対に調べ上げないとダメだわ・・。
そして、無事に暴走魔剣は粉砕され、ヒナが込めまくった聖属性の魔力が周囲に広く飛び散り、アンデッドによって多少土地が穢れていたが全てがきれいに浄化されていった。
そんなヒナは、無事に完結したことを察したのか、舞いを辞めふわりと私たちに視線を向けながらそのままぶっ倒れた。
「おぉっとぉ!?セーフ!!僕セーフ!!ギリギリセーフ!!」
「よぉし!よくやったわリン!」
あっぶなぁ!!
地面に顔面から勢いよく激突しそうだったからホントに危なかった!!
リンがいつでも駆け寄れるように身構えていたのが幸運だったわ。
ガチでギリっギリだったわ。
そんなぶっ倒れたヒナはというと、穏やかに寝てる。
・・・はぁ、充電切れかい。
まぁ、進化しながら行動するというイレギュラーに晒されながら単独で暴走魔剣の破壊とえげつない数のアンデッドの対処と呪われたアイテムの解呪という人間離れした偉業を成し遂げたんだもの。
当然よね。
おまけにあの神楽という踊りはゆっくりとしてはいたけれど、1つ1つの動きはかなり集中力と体力が必要そうだと素人目でも感じたから余計に疲れたでしょうね。
双子ちゃんもすごく心配そうにヒナを見つめている。
・・この子たち、一番ヒナに懐いてるから余計に心配なんでしょうね。
はぁ・・とりあえず一安心ね。
どこかでゆっくり休める場所探さないとダメね・・・。
とりあえずヒナ、よく頑張ったわね。
そして、ありがとう。




