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鷹と魔術師

 小さい窓からの朝日がスポットのように照らさていて、私が目を覚ますとそこは薄暗い石造りの部屋に鳥籠の中だと気付いた。


 ウソ! いつもだと眠れば日本でグレンと一緒に目を覚まして起きるところから始まるはずなのに。

 しかし、グレンどころか寝ている間日本にいる現実に戻る事無く、目を覚ましてしまったのだ。



 能天気だった昨夜とは一転。もし一生このままだったらどうしようと急に不安になる。しかも昨日ホワイエ卿に協力すると約束してしまったしな。

 どうしよう。

 せっかく色々出来るようになったつもりだった私の自信はシオシオと萎んでいく。昨日堂々とホワイエに是と返事したのは、いったん日本へ帰れると考えていたからだ。

 やっぱりひとりぼっちだと情けないほど何も出来ないへなちょこなんだ。良い案なんて浮かびそうもない。

 そう自己嫌悪に陥りそうになった時、鬼のような怒声が辺りに響きわたった。石造りの塔が少しジーンと振動したような気すらする。




「ゴォラァー! ホワイエ!俺の鷹を返しやがれー!! 」



 グォーングォーンと鉄で出来た分厚い門を叩いているらしき音もする。

 しかしそれに対する塔からの返答はいっさい無い。


「目撃者がいるんだ! さっさと出て来ねえンがっ……」


 しばらくしておそらく騒ぎを聞いてワラワラと集まったらしい騎士たちがグレンを宥める声が聞こえた。



「団長、おやめください!! 」


「陛下の許可なしに魔術塔へ入ることは出来ません」


「こんなところで暴れたら団長のお立場が~」



 止めに入った騎士たちは一様にグレンの心配をしていた。



「放せっ!いいか、ホワイエ。お前のやっているのは誘拐だ。必ず捕らえてやるからな!! 」



 こんな風に荒げるグレンさんの声は初めて聞いた。

 グレンさんは相変わらず最強の怖いもの知らずで、格好良くて。私はたとえ一人でもひとりぼっちではなかったのだ。

 もう塔の中のお姫様ごっこは卒業したはずなのに。まだ何もやっていないくせに途方に暮れるなどまた元の弱虫に戻ってしまうところだった。

 なんだか勇気が沸いてきた千花は必死に頭を絞った。


 どうすれば良いのか。






「おはよう、ミレディー。今朝は駄犬が随分と五月蝿かったね。そうそう、早速だが私は約束を守ったよ。魔術を使えなくなったとは言え、占いの類は得意でね。例の事件の怪しい奴らのリストはフェルトンの部屋にドアの隙間から投げ入れてやったぞ」



 本当、コイツ嫌い。

 それにしても私が本当に協力するかどうか分からないのに、先にそんなことをやっちゃうなんて案外お人好しなのだろうか。

 そう考えていると、ホワイエは自慢気に言う。



「もともと殿下の命を狙うなど言語道断だからな。それに平民は嫌いだが、人々の暮らしは守られて然るべきだ。フェルトンの命はともかく貧民窟を爆破で一層しようなどと言う過激な計画も私は大変遺憾に思う。よってその犯人の捜索に手を貸すのは吝かではない。やるなら早い方が良い」



 なんですと?

 じゃあ私との取引とは何だったのか。



「そのリストをチャールズ殿ではなくフェルトンに送りつけてやったではないか」


 はい?どういうことだろう。


「その手柄はフェルトンの物になろう。第一、そなたこそあんな約束しておいて、まんまとどこかへ消えるつもりなんだろ? 」



いやいや、きっとグレンさんは手柄を独り占めしようとなんてしないよって、えっ?



「平民の貪欲さを知らんようだな」



 いやいや、そんなことよりも。

って、もしかして私の考えていること、分かります?

そこまで来て、私は知らないうちにホワイエと会話みたいものが成立している事に気が付いた。

昨日はそんな事無かったのに。


「ああ、昨夜は部下がいたのでな。まず、そなたは何者だ?」


 私の思考が読まれているですと。ってことは昨日会った時も読まれていたのか。

 そ、それは・・・と考えかけて慌てて打ち消す。



・・・・・・。



 私は神である。





「か、神だと?! では是非お聞きしたい。なぜ神は私にこのように残酷な試練を与えたのですか。それでフェルトンの奴に加護をお与えになるおつもりですか?! 」



 先程まで幾分穏やかに見えたホワイエは突如激昂した。



 そして今は少し泣いている。

 もう、情緒が不安定すぎるのではないだろうか。

 現役JKの私には荷が重すぎる。



「誰が情緒不安定だ! そしてジェイケイとは何だ? 」



 おう・・・・・・。

 ジェイケイとは準・神様(JK)みたいな?

 とにかく、私は神と言っても見習いの身。この世界の事もよく分からないし、魔法とかも分からない。とにかく、私を解放しなさい。



「これは異な事を言われる。準・神様は昨夜交わした私との約束を違えるつもりか? 」



 その質問にはぐぅの音もでない。

 協力する気はある。しかし私に出来ることは本当にないと思う。

 魔力とか魔法とかについては全然わからないし。

とりあえずホワイエは逃げない事を条件に私を鳥籠から出した。



「それにしても見習いとは、まあ仕方がないか。では、私の質問に答えて頂く、嘘は付くなよ」



もう既に嘘を付いていることは頭の中から追いやった。



「なぜフェルトンと行動を共にしておられる?」



え? 私の第一発見者だったから、成り行き上?



「ヤツが神に選らばれたという訳ではないのか。あと、人形男とはどういう意味か? 」



貴方の目は人形みたいに綺麗だけどガラス玉のような空っぽの目だなと思って。

そう事実を使えると、ホワイエは自嘲気味に笑った。



「準神ミレディー様はどこから来たのだ」



 日本ってところ。私は見習いだから毎日勉強している。

ってか、ホントまだ見習の身だから敬称とか勘弁して。

 それに、あなたは私に魔力があるって言うけど、日本で魔法を使っている人はいないし、私にも使えない。そもそも魔法という概念は日本では空想の世界にしかない。

 そこは大事なところで、変に期待されても困るので早めに伝えた。

 てっきり落胆するかと思ったが、意外にもホワイエは前のめりで話に食入った。


「ミレディーの国には・・・・・・」


 そこで私は話を遮った。

 意志疎通しているのに、あまりミレディーを連呼されても恥ずかしいのだ。それはグレンさんが鷹に付けた名前だから、自分の事は千花と呼んで欲しいと伝える。



「チカか。不思議な響きだ。それでは日本ではジェイケイでも魔法が使えないと言うのか? 」


 出来ればJKってワードを忘れて欲しいと思いつつも私は答える。

 魔法が無い分、文明が進んでいる。誰しもが飛行機に乗れば空を飛べるし、どんな遠い場所へも足を使わずに素早く快適に移動することができる。暑い日でも寒い日でも部屋を一定の快適な温度に調整することも可能だ。



「何故だ。何故魔法が無くてそんな事が可能なのだ?魔法が亡くなれば世界は衰退の一途を辿るのではないのか?現にこの国は魔法が使えなくてまるでひと昔に戻ったようではないか! 」



 たぶん。長い年月を掛けて、進歩してきたんだと思う。ホワイエさんが今持っているランプあるでしょ?松明からより安全で便利にとランプが発明されたようにね。

 この地に人の歴史がどのくらいあるのか知らないけれど、私の住む世界では大まかに見ても人類が生まれてから20万年は経っていると習ったわ。



「20万年だと? ッ嘘だ!何故そんなに昔の事が分かる? 」



 歴史学者じゃないから詳しいことはわからないけれど、確か遺跡や化石の発見とか、それがどの地層から発見されたかとかそう言うことを永年研究した成果だったと思うわ。

 あぁ、もっとちゃんと勉強しておけば良かったな。


しかし、私は覚えている限りのことをホワイエに伝えた。


気が付くと、ホワイエは頬を上気させ目は爛々と輝かせていた。


「では魔法が無くてもこのシュレスデンは衰退の道を辿る訳ではないと、そういう事か?! 魔術師ではない私にも出来るだろうか。 あぁ、前王陛下……」


 どうしたと言うんだろう。あんなに欲しがっていた魔力を手に入れたわけではないのに、ホワイエさんは歓喜の表情を浮かべていた。

 私はさっぱり話が分からず首をひねる。

 そうこうしているうちに、ホワイエは部下に仕事で呼び出されて部屋から出て行ってしまった。



「また来る。良いか、そなたが約束したのだ。私との話が終わるまで帰っては駄目だぞ」


 そう釘を刺すのも忘れていなかったが、私も一度も食事を出されていない事をを抗議した。するとホワイエさんは「JKなのに食事をとるのか」と驚いていた。

 ええ、JKは育ち盛りなのでガッツリ食いますよ。




 朝食を食べ終えた私は羽ばたいて石壁の高い位置にある窓まで飛んでみたが、小さい窓には賽の目に鉄格子が張られていて外へ出られそうもなかった。

 逃げないにしても、せめてグレンさんに自分が無事なことぐらいは伝えたいのに。








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