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第9話 監視システム

「監視信号は……二系統あった」


 画面に並んだ二つの波形が、異なる周波数を刻む。

 ナイレンの心臓が肋骨を蹴る。鼓動が頭蓋に響く。


 指が記録ノートに走る。ペン先が羊皮紙を裂く。


「分岐点……ここから別の信号経路が。一つは記録。一つは送信か」


 手のひらに冷たい汗が滲む。

 二つの分岐構造図を描きながら、彼の胃が冷たく沈む。


「送信先の周波数……王都の緊急回線と一致」


「この回路は……ただの監視ではない。警告システムだ。異常を感知し、即座に通報する」


 彼は浄水器の外殻を叩く。金属音が鈍く響く。


「機能の追加は……いつ?」


 魔力の履歴ログをスクロールする。変更記録はない。工房の魔力記録にも痕跡は無い。


「外部からの……遠隔書き換え。魔導制御ユニットの脆弱性を突かれた」


 唇が震える。誇りとする技術に穴が開いていた。

 歯を食いしばる。顎の筋肉が硬直する。


「再解析は……工房全体で行う。全ての魔導制御ユニットを……点検し直す」


 ノートに書き殴る文字が乱れる。優先順位は浄水器、防衛砲台、結界装置……

 リストが長くなる。守るべきものが、次々に危険に変わる。


 魔導制御ユニットの画面が青白く光る。浄水器内部の断面図が浮かび上がった。


「可視化開始だ」


 ナイレンの視界に《解析修理》の青い輪が重なる。魔力回路が層ごとに剥がれる。

 古代技術の基盤がまず見える。複雑に絡まる魔力導管。


「基礎部分……問題なし」


 指がタッチパネルを滑る。断面図が回転する。

 次の層。自身が追加した効率化回路だ。接合点は綺麗に融合している。


「改良点は……正常に機能している」


 その先で、輪が震えた。第三の層が現れる。

 青い輪が、無理やりねじ込まれたような接続を捉える。それは古代の基盤と自身の改良点の「間」を縫うように走っていた。


「……これが」


 心臓が肋骨を打つ。この回路は、どちらにも属していない。

 二つの技術体系を「橋渡し」する、第三者の工事痕だ。


「融合部分を……ハイジャックしている」


 解析を進める。輪が接合点を穿つ。

 古代回路と改良回路の接続部に、極小の選別ゲートが仕掛けられていた。


「俺の技術を……トリガーに使った」


 胃が冷たく沈む。自分が誇りにしていた効率化が、監視のスイッチにされていた。


 画面の図面を拡大する。選別ゲートの先を見る。

 監視専用の並列回路へと、細い導線が延びている。それは古代技術の隙間を縫い、外殻のデータ送信部へと繋がっていた。


「完全なる……寄生構造だ。修理の過程で、付け込まれた」



 羊皮紙の上に砕けた結晶が転がる。青白い光の残滓が微かに脈打つ。

 ナイレンの掌が冷たく痺れる。皮膚の下を金属の苦味が走る。


「……本体は、ここか」


 声が紙を擦る。喉に鉄の渋味が刺さる。

 解析修理の視界が核心の傷口に穿たれる。微細な魔力回路が拡大される。


 眼球が熱く焼ける。瞬きの度に涙が滲む。

 回路パターンが視神経に直接刻み込まれる。それは蜘蛛の巣のような監視網だ。


 心臓が肋骨を打ち付ける。鼓動が頸動脈を蹴る。


 指先が震える。拡大視界が回路を一つ一つ追跡する。

 主幹から枝分かれした末端が、工房内の他の魔導器具を指し示す。


「……全てつながっている」


 呟きが冷気に消える。唇が乾いて割れる。

 視界の端がぼやける。めまいが頭を揺さぶる。


 ナイレンは記録を急ぐ。ペン先が紙を穿ち、引き裂く。

 監視網の構造図が、羊皮紙の上に血のように広がる。


「……中枢は、浄水器のコアだ」


 声に力が入る。顎の筋肉がこわばる。

 全ての末端回路が、一つの発信源へ集約されていた。



 羊皮紙を包んだ欠片が手のひらで冷たい。脈打つ残光が皮膚を刺す。

 ナイレンはその重さを見つめた。証拠という名の砕けた監視の目だ。


「……経路解析は、後だ」


 声が乾いて砕ける。喉に鉄の味がこびりつく。

 今、解析を進めれば発信を誘発する。危険すぎる。


 心臓が肋骨を打つ。鼓動が耳の奥で鈍い。

 血液の巡りが悪い。思考が冷たい蜜のように重い。


 彼は魔導シールド容器を手に取る。金属の表面が冷気を放つ。

 古代魔導兵器の遮断ユニットを転用したものだ。


「……完全隔離」


 舌が重い。言葉が頭の中で転がる。

 容器の蓋を開ける。内部は真空に近い魔導的静寂が張り詰めている。


 掌に載せた欠片を慎重に中へ落とす。青白い光が容器の内壁に反射する。

 蓋が閉まる。かちゃり、という音が工房に清冽に響く。


 額に冷たい汗が流れる。筋が鎖骨を伝い胸に落ちる。

 これで、監視ユニットは外界から切り離された。


「……安全な場所へ」


 呟きが震える。膝が微かにがくつく。

 彼は壁の隠し棚へ歩み寄る。足取りが地を摑む。


 棚の裏の暗闇に手を伸ばす。指先が冷たい岩肌を探る。

 秘密の凹みを押す。微かな軋み音と共に、小空間が現れる。


 シールド容器をその中へ滑り込ませる。


「……解析は、再開だ」


 声が紙を擦る。喉に残るのは金属の苦味だけだ。

 監視の核心は隔離された。次は、その経路を暴く時だ。


 彼は魔導解析スペースへ戻る。無力化された浄水器サンプルが、机の上で無言で横たわる。


 掌が冷たい基盤に触れる。皮膚が粟立つ。

 隠蔽ユニットを剥がした傷口が、青黒く窪んでいる。


「……データ経路、特定」


 舌が重い。言葉が頭の中で転がる。

 解析修理の視界が、傷口の周囲の回路へ穿たれる。


 眼球が熱く疼く。瞬きを忘れる。

 極細の配線が、基盤の下層へと逃げている。


 指先が震える。拡大視界が一本の導線を追う。

 それは浄化コアを迂回し、外部接続端子へ直結していた。


「……バックドア」


 呟きが冷気に消える。歯を食いしばる顎に力が入る。

 意図的に設けられた、遠隔操作用の侵入口だ。


 彼は計測プローブを導線に接続する。指先が白くなる。

 プローブの先が微かに振動する。残留する魔力の痕跡。


「……遠隔起動の可能性」


 声に力が入る。喉が締め付けられる。

 この経路を通じ、監視ユニットは外部から再活性化できた。


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