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【第一章完結】Fragments:13 —13人の勇者候補は願いを叶えるため異世界で殺し合う—  作者: 玄野 黒桜
第一章インタールード

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第五話 蠢く世界

 ゼクルーシア帝国帝都ブレルドガイス。大河が大陸を東西に分断するように流れるクトルアスネ大陸で西側南を支配する大帝国の首都。三十万人が暮らすこの大都市の南には帝都の象徴とも言える帝城がその威容を示している。そんな帝城の奥にある一室。絢爛な謁見間とは真逆の飾り気のない部屋。実用一点張りとも言えるその部屋で今、二人の人物が向かい合っていた。


 一方はまだ年若い青年。短く刈り上げた金髪の下、碧眼の鋭い眼光を湛えた彼はこの部屋—皇帝執務室の主であるゼクルーシア帝国第十四代皇帝“ジギスヴァルト・ヴィクトール・アルブレヒト・ゼクルーシア”。その視線は手元の資料へと注がれている。


 もう一方は豊かな白髪を後ろで一つに結び、口髭を蓄えた灰色の目をした壮年の男。帝国宰相である“バルタザール・ベッテンドルフ”だ。その瞳は静かに閉じられている。


 静かな室内にジギスヴァルトがめくる資料の音だけが響く。どれだけそうしていただろうか。やがてその音が止まると同時にバルタザールがゆっくりと目を開く。その視線に資料を読み終えてであろうジギスヴァルトが何事かを考える姿が映る。バルタザールは口を挟まず、ただこの若き皇帝が話し始めるのを静かに待った。


「……この資料に間違いはないのだな?」


 言いながら顔を上げた視線がバルタザールを捉える。並みの者であれば震え上がるであろうその眼光を受けてもバルタザールは一切動じることなく、ただ静かに「ええ」と応えた。その言葉を聞いたジギスヴァルトはもう一度考える素振りを見せた。


「異邦の者と“欠片”か……ここまでは“奴”の話のとおりだな」


 その口から呟きが漏れる。恐らくは無意識に出たであろう呟きをバルタザールは聞き流した。その程度の判断ができなければとても帝国という大国の宰相は務まらない。


「使えるのか?」


 上げられた視線が再度バルタザールに向けられる。


「資料にありますようにすでに被検体は確保し帝国技術院に送っております。現在は騎士団の方で志願者を募る準備を行っている段階です」


 澱みの無い、しかし、飾り気もない返答。バルタザールはこの皇帝が余計な修飾語を好まないことをよく知っている。


「フム……」


 バルタザールの答えに皇帝は静かに目を閉じる。どのような思考が行われているのかはバルタザールには分からない。ただ再び皇帝が口を開くのを静かに待つ。


「滞りなく進めよ」


 暫くのち、目を開けたジギスヴァルトは静かに告げる。だが、声とは裏腹にその瞳には強い光が宿っていた。


「仰せのままに」


 ジギスヴァルトの言葉にバルタザールは恭しく首を垂れる。そのバルタザールの様子に頓着した様子もなく、ジギスヴァルトは「それで他に報告は?」と続けた。


「軍の再編は八割方完了しており、編成の完了した部隊から順次移動を開始しております」


 話題の転換にもスラスラと答えるバルタザール。そこにジギスヴァルトの「気取られてはおらんだろうな?」という冷たい声が挟まれる。だが、平坦な口調に対してその目元はどこか悪戯を思い付いた子供のように面白がっている節が見えた。


「もちろんでございます。移動の際は部隊をさらに細かく分けた上で、行商人や旅人に扮装させております。それに—」


 突然言葉を切ったバルタザールに訝しげな顔をしたジギスヴァルト。だが、すぐにその意図に気づいて「フンッ!」と面白くなさそうに鼻を鳴らした。何のことはない。バルタザールは言外に「気づかれたからと言って何の問題が?」と言っているのだ。ちょっとした意趣返し。だが、当然ではあるが本来皇帝に対してそんなことをしようものなら帝国では打ち首にされても文句は言えない。幼少の頃よりジギスヴァルトを教育してきたバルタザールだからこそ許される仕草と言えた。


「兵糧は六割ほど確保が完了しておりますが、全ての準備が整うまでにはまだ三月ほど掛かるかと」


 バルタザールの報告は続く。一瞬不機嫌そうな素振りを見せたジギスヴァルトだったが、その報告には「まだそれほど時間が掛かるのか……」という呟きが漏れた。だが、すぐに自分が思っている以上に焦っているらしいと気づいて自嘲気味な笑みを浮かべた。


「帝国の悲願は間もなくです。今はお焦りにならないことです」


 そんな若き皇帝を諭すようにバルタザールは言葉を続けた。その言葉に静かに頷くとジギスヴァルトは視線を窓へと向けた。陽光に目を細める。その日の空はどこまでも蒼かった。

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