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【第一章完結】Fragments:13 —13人の勇者候補は願いを叶えるため異世界で殺し合う—  作者: 玄野 黒桜
第一章インタールード

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第四話 ローダン工房鍛冶革命 side オグズ・ローダン

「アァァァッ!クソッ!チクショーめッ!また失敗だッ!」


 そう言いながらローダン工房親方のオグズ・ローダンは頭を掻きむしる。彼と赤々と熱を放つ工房自慢の炉の間には今まで彼が鍛えていた“それ”。シミターほど幅が広いわけでも大きく湾曲しているわけではない片刃の刀身。セイマが見れば間違いなく『刀だ』と断言するであろう剣。だが、その刃のくすんだ赤色はオグズが目指しているものには程遠い。


「クソッ。本当にできるんだろうな?」


 オグズの頭に一瞬「こんなことをして本当に意味があるのか?」という疑問が浮かぶ。こんなものを作るよりも作り慣れた剣を作ったほうが有意義ではないか?


「アァァァッ!チクショーッ!そうじゃねぇだろうォォがッ!」


 ついそんなことを考えてしまった自分に気づく。オグズは頭を左右に大きく振ってそんな弱気を追い出す。この程度の失敗で弱気になるなど鍛冶師としての自分のプライドが許さない。


「次だ!次ッ!」


 彼はそう声に出すと再び槌を握る。炉に新しい鉄を放り込みながらオグズはなぜこんなことになったのかと思い返していた。





 その男を連れてきたのは常連のイリスだった。元々冒険者だった彼女の父親とは古い付き合いだった。街で評判の美人を嫁に貰い、娘もできて順風満帆と思われた矢先、彼は依頼で受けた傷が原因で亡くなってしまった。そんな父親の後を追うように彼女は若干十三歳で冒険者になり、父親と同じくローダン工房の常連になっていた。


 そのイリスが連れてきた男は「セイマ」と名乗った。年齢はイリスよりも少し上くらいだろう。あまり見掛けない顔だ。言葉遣いは丁寧で育ちの良さを感じさせる男だったが、「ついに男を紹介する歳になったのか」なんて言ってみたものの孫のように思っていた少女が男を連れてきたのだ。表情が険しくなるのも当然だろうとオグズは思う。だが、続くイリスの言葉は彼にとってさらに衝撃的だった。なにせ父親の形見の防具を男に合わせて調整してほしいと言うのだ。余程男に惚れて勝手に持ち出したのかと思えば、なんと母親(ソニア)からの提案だと言われてさらに驚いた。


(あの旦那一筋のソニアがねぇ……俺の見る目もまだまだってことか?)


 オグズはイリスを揶揄いながらもう一度セイマを観察する。この辺りではあまり見掛けない黒髪に凹凸の薄い顔立ち。緊張からかやや身体や表情に緊張が見える。


(どういう奴なんだ?)


 防具の調整を進めながらオグズはますます心の中で首を傾げる。実際に話をしてみても冒険者に成りたての若者という印象を拭えない。それは腰の剣を見て確信に変わった。


「ちょっとその腰の剣、見してみろ」


 あることが気になってオグズがそう言うとセイマは戸惑いながらも腰から剣を外して鞘ごと彼に手渡してきた。オグズは早速渡された剣を鞘から引き抜くと観察をする。


(こいつぁ……ひでぇなぁ)


 それは熟練の鍛冶師であるオグズの目から見ると酷い剣だった。外からは分からないが芯が歪んでバランスが酷く悪い。明らかな数打ち品の安物だが、それにしたってどういう使い方をすればこんな風になるのかと呆れるばかりだ。最後に剣を使ったのはいつかと聞けば困惑しながら「昨日ですけど……」と返ってくる始末。オグズからすれば溜息しか出てこない。


「どこで手に入れたか知らねぇがお前さんにゃこの剣は合ってねぇみてぇだな」


 オグズがはっきりそう伝えるとセイマは驚いた顔をしたあと、「予算が……」と言いながらがっくりと肩を落とした。


「つってもなぁ……これ「親方―ッ!」じゃ、って、んだよ!今は接客中だぞ!」


 予算についてあれこれと話しているところに声とともに突然奥から弟子が飛び込んできた。怒鳴られた弟子はセイマたちに気づくと慌てて頭を下げてからオグズに手招きした。オグズはセイマたちに目で少し待つように伝えると溜息を吐きながら弟子へと近づくと「それで?何をやらかしたんだ?」と彼らに聞こえないように小声で尋ねた。


「なんだとォッ!」


 オグズの怒鳴り声が工房内に響く。驚くセイマたちに事情を聞かれたオグズは弟子が間違えてほとんど使い道のない素材を大量発注してしまったことを説明する。誤って仕入れてしまったのは“切裂蟹リーパークラブ”という小型の蟹のクリーチャーの甲羅だった。この甲羅は火を入れると赤く染まり、どんな刃物も通さないほど固くなるため、一般的に砥石として使用しているものだった。


「そこまで高いもんじゃねぇのが救いだが、大量に廃棄が出ちまう。っんとにどうしようもねぇなぁッ!」


 本来は一〇杯も仕入れればいい素材が一〇〇杯、しかも鮮度の問題で返品もできない。オグズがギロリと弟子を睨むと彼は震えあがって縮こまった。


「あの……そんなに強度が高いなら他に使えないんですか?例えば粉末にして金属に混ぜるとか吹き付けるとか」


 話を聞いていたセイマがおもむろにそんなことを言い出した。


(はぁぁぁ。これだから素人は……)


「あぁん?粉末にした切裂蟹(リーパークラブ)を剣に吹き付けてから焼き入れしたらどうかって?無理無理。確かに強度は出るだろうがそれじゃ剣じゃなくて鈍器だろう。そもそも砥ぐのに時間は掛かるし、素の剣の強度が足りねぇよ」


 提案は有難いがそんなことができるのならばとっくに誰かがやっている。オグズは内心で呆れながらセイマに説明してやった。だが、それを聞いたセイマはなぜか「薄刃の剣にできないか?」と食い下がってきた。「そんなものはすぐに折れてしまう」と言ったのだが、セイマは尚も食い下がり、どこで聞き齧ったのか硬い鉄を柔らかい鉄で包む製法やらクリーチャー素材の魔力伝導率やらを持ち出して「どうせ捨てるなら試してみないか?」と言い出す。


「はあー。分かったよ。確かにどうせ捨てるもんだしな。試しに造ってみてやるよ」


 あまりにも熱心に勧めてくるのでオグズは折れた。もちろん「どうせ失敗する」と思ってはいたのだが、これは鍛冶師の勘だが彼が話した剣の製法自体は有用な気もしていたのは事実だ。


 こうしてオグズの挑戦が始まった。


 ・ケース一:普通の素材のように甲羅そのものを剣に加工する。

 そもそも素材が小さ過ぎるため、素材同士を繋ぎ合わせようとするも溶接のために火を入れた瞬間に硬度が出過ぎて加工不能になり失敗。

 ・ケース二:既存の剣に貼り合わせる。

 剣を覆うことはできたが芯の鉄と外装の甲羅の強度が違い過ぎて芯の鉄が折れて失敗。


 ・ケース三:甲羅を砕いて製鉄時に鉄に混ぜる。

 製鉄中に甲羅が魔力を帯びて混ざらず、インゴットにすらできずに失敗。


 ・ケース四:鉄でできた剣に砕いた甲羅の粉末を吹き付ける。

 粉末は定着したが、焼き入れの段階で鉄と吹き付けた粉末の強度や魔力伝導率が異なり過ぎて強度が不安定化、失敗。


「アァァァァッ!チクショーッ!!また失敗だッ!」


 そして、今日も工房にオグズの叫び声が響く。目の前には今し方失敗したひび割れた剣。


(やっぱり鉄じゃ魔力伝導率が悪過ぎる!だが、ミスリルなんて使ったらコストが……いや、それじゃそもそもこの素材を使う意味も無くなっちまうか……だが……)


 バリバリと頭を掻きむしりながら、鍛冶師としてのオグズ(じぶん)が冷静に現状を分析する。


「(やっぱり無理なのか……)ん?待てよ……」


 それは偶然だったのか。周囲に山積みされた切裂蟹(リーパークラブ)の素材。それが目に入ったとき、彼の中である思い付きが閃いた。


「試しみるか……?」


 半信半疑。だが、オグズの手は再び槌を握っていた。


「で、できた……?」


 今、彼の手に握れているのは淡い赤の刀身により深い紅色の斑点が浮かんだ剣。これまでに見たこともない色をした剣だ。


「できちまった……」


 オグズがもう一度呟く。


 それは発想の転換だった。これまで金属と甲羅のみで試行錯誤していたオグズだったが、あのとき山積みの甲羅を見て一つのことを思い付いた。そもそも問題なのは芯になる鉄の強度と魔力伝導率であり、甲羅の粉末で剣をコーティングすることには成功していた。つまり、あとはどうやって鉄の強度を上げて魔力伝導率を均一化させるかという問題だったのだ。そこでオグズが思い付いたのが『鉄に別のクリーチャーの素材を混ぜる』という思い付いてみれば「なぜ今まで気づかなかったのか?」という方法だった。


 そこからは素材選びの日々だった。オグズが目を付けたのは切裂蟹(リーパークラブ)と同じく鍛冶としては使い道の少ない素材たちだった。


「本当に納品していいですか?」


 呆れる出入り業者の担当を説得して様々な素材を仕入れた。それらを製鉄時に鉄に混ぜては整形する日々。数多の素材を試してオグズが辿り着いたのは荊偽竜(ソーンドラゴン)というクリーチャーの『骨』だった。


 荊偽竜(ソーンドラゴン)は体長二フィメート(現実世界での二メートルに相当)ほどの二足歩行型クリーチャーだ。『偽竜』というくらいなので竜種ではない。もし、セイマが見れば「恐竜」と言い表しただろう。これまで皮や牙、爪などは素材として重宝されてきたが骨は捨てられる部位だったのだが、オグズはこの骨が鉄と甲羅の『繋ぎ』として相性が良いことを発見したのだった。


 こうして鉄とクリーチャーを混ぜて打った剣にさらに甲羅の粉末を吹き付けて火に通し、甲羅で研いで完成したそれ。


 通常の鉄製の剣に比べて魔力伝導率が高く、硬度がありつつも柔軟なため、それまでの剣に比べ薄刃で斬ることに特化させることができるようになった。制作された剣は“赤棘刀せききょくとう”と名付けられ、街を出るセイマに餞別として渡された。


 そして、この素材加工技術はセイマたちが旅をしていく中でローダン工房が開発した技術として、“骨製武具ボーンシリーズ”と呼ばれる革新的な技術となっていくのだが、それはまた別の話。

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