最終話:静かに生きる者たち
悪魔を崇拝し魂を捧げた悪しき者が邪法を学び、たどり着く先――――魔女。
それは、後天的なものであると誰もが言う。
自らの意志で人の道に背き、自ら望んで外道となった、赦されざる者たちだと――――。
だが、それは表向きの話だ。
魔女だけが知る、魔女の真実がある。
「……タキちゃんも、殺されたのか」
「カウィーソさん。私の話を聞いてほしいです」
私とカウィーソさんは今、肉体から離れた魂として話をしている。
「……ああ、なんでも聞く」
「見てください。向こうで昇っているのは、殺されたエルフさんたちの魂です」
「そうなんだろうな」
木漏れ日のように輝く魂たちが、天を目指す。これは、死んだ者だけが見ることができる景色。
「カウィーソさん、私は……」
「魔女……って、そういうものなのか?」
ああ、気づいてくれたんだ。ああ、理解してくれたんだ。
魔女は、先天的なものであると。
魔女たちが生き残るために、必死に、魔女は後天的なものであると嘘をつき続けたのだと。
「そう……です。でも、私が母から教わった魔法は一つだけ」
「その魔法は、私にも関係があるんだな」
「はい。私、一人だけ連れて…………蘇ることができるんです」
カウィーソさんの魂がエルフたちのように昇ることができないのは、私に引き留められているから。魔女の血を持つ私に引き留められているから――――。
「連れていってくれよ、タキちゃん」
「……天国に行けばきっと幸せですよ。でも、生き返れば、必ず地獄です。カウィーソさんは魔女の眷属になってしまう。地を這う生き物として、もう一度死んでも天には昇れない」
「眷属……つまりは、魔女はただの邪法使いというわけじゃあないんだな」
「そうです。世間での魔女の認識は邪法使い、つまり、禁じられた魔法を使う者。でも、実際は、この世界を神が作った後…………この世界で、最も最初に罪を犯した者から続く種族のことです」
はじめ、単為生殖で殖えていた魔女種は、生き残るために人間との交配を求めた。世界に溶け込むためだ。
つまり、この世にもう純潔の魔女種はいない。
だが、迫害は残り、今の時代でも魔女と認定された者は殺される。
「わかった。安心してくれ、私は魔女の秘密を明かす気はない。だが、魔女の眷属として戦う覚悟はできている。いや、今覚悟できたと言ったほうがいいかな」
「そう……ですか」
だから必ず、魔女は子に教える。魔女であることを知られてはならない。魔女特有の魔法を使ってはならない。
でも――――
もし――――
だからこそ――――
どうしても魔女の魔法を使いたい時が来たら――――
「悲しまないでくれよタキちゃん。私さ、タキちゃんが大好きなんだ。仲間としてではない、友としてでもない。そういう意味で、大好きなんだ。だから――」
己を信じなさいと、子に教える。
母も、そうして、父に魔女であることを知られたのだ。
「だから……私は…………自分が赦せないんです!」
母が私に教えてくれた唯一の魔法は魂を一つ連れて蘇ることができる、名もなき魔法。
「タキちゃんは今、私の愛を利用していると思っているだろう」
「はい」
発動の条件は――――連れ帰りたい魂と、心の底から愛し合っていること。
「なら聞く。タキちゃんは私が好きか? 私のことを愛しているか? 愛し合っているのなら、私たちは一緒にいられる決断をするべきだ。だから、私を愛しているかどうかで、決めればいい」
カウィーソさんの赤い瞳は、まるで命が燃えているようだった。
この人は、わかっているのだろう。今、自分が天国へと昇ったら、地獄に堕ちるべき魂である私とは二度と会えないことが。
「カウィーソさん……私」
「ああ、愛している」
私たちが蘇るのは、もう少し後。姉が目的を全て完了し、この場を去った後だ。
「愛して…………います」
それから、二人で、静かに、静かに、静かに、ひそかに蘇り。静かに、静かに、静かに生きて、進めていく。姉を倒し、王を倒し、みなの仇をとる準備を。そして、その先にある人生へと歩んでいくための準備を。
「愛している、タキプレウス」
「愛しています、カウィーソさん」
私たちはこれから、二人で、静かに生きていく。
闇の中から命を奪う、血反吐色の悪魔のように。
(了)




