その十一:貴族の権利
私とカウィーソさんは二人で、姉の率いる兵たちの前へと進んでいく。交渉の意志を示す、黒地に黄色の花を描いた旗を持って。
「あらあらあら、妹が使者とは笑っちゃうわね」
百名ほどの兵は待機させたまま、姉が歩いてくる。五人の重装兵を連れて。みんな黒い鎧…………やっぱり、闇夜部隊だ。
「マルディリア姉様、私は今日十五歳になりました。よって――」
「今日? そう、今日が誕生日だったのね」
「そうです」
「へぇ」
私の誕生日など忘れたか、それとも、最初から知らなかったのか。
「つまりマルディリア姉様……それで……」
「それで? もしかして、貴族権を行使して、エルフの畜生どもを領民としたのかしら?」
「はい」
「へぇ。で? 領地はどこ? まさか、我が家の土地を使うつもりじゃあないでしょうね」
「十五になれば……受け取れる土地があったはずです」
「ないわよ」
そんなはずはない。私だって、ドラゴ家の娘、それなりの広さの土地が…………。
まさか!
「あなたは地方探索を主な任務とする騎士として生きるために、譲り受ける予定だった領地を、王家に引き取っていただいた。そういう手続きがされていたけれど? 私の見間違いかしら? いいえ、そんなことないわよね。この私が、見間違うだなんて」
私は……そんなことはしていない。
姉の策略――――?
それともあの父親が――――いや、今更だ。王家の所有になった以上、マルディリア姉様相手に意見を言うのは危険すぎる。
「と……まぁいじめるのはここまでにしてあげるわ。まったく、我が妹ながら運がいいわね。いいや、裏で動いた男が想像以上に優秀だったと言ったほうがいいかしら」
「男……? まさか」
「ええ。ゴルドは今あなたたちが拠点としている土地の自治権を認めるよう、ずっと交渉していたのよ。どうも彼は、過去に、王家にゆかりのある人物を助けたことがあるらしくてね。あなた、知ってたかしら?」
「し、知りませんでした」
「へぇ。ともあれ、ゴルドは本来聞いてもらえないはずの話を聞いてもらえたというわけよ。さすが我が王、寛大よね」
ゴルドさん……もしかして、あの人は最初から全員救うつもりで動いて…………。
「なら……」
「我が王は自治権を与えるうえで、一つだけ条件を付けたの」
「それは」
まさか、無理難題を押し付けてうやむやに……っ。
「さすが慈悲深き我が王、とても簡単な条件よ」
「…………どのような、条件でしょうか」
姉様は今、楽しんでいる。私たちを虫けらのように弄ぶことをっ……。赦せない、赦せない………でも、ここで怒ったらだめだ。私が感情的になってしまえば作戦が台無しに――――。
「自治権は貴族にしか与えぬ、ただそれだけ。だからゴルドは協力してくれる貴族を探し続けた。驚いたわ、まさか、あなたがその貴族になるだなんて」
「え?」
あれ…………? もしかして、本当に自治権が認められた? 姉様は……それを伝えるためにここへ来た? え? そんなこと……ある?
「なによ、変な顔して」
「えっと……つまり……姉様。ここは私の領地として認められ、みなは私の領民と……」
「そういうことになるわね。身内からエルフと組むような馬鹿を出したくはなかったけれど、仕方がないわ」
よか……った。
よかった、よかった、よかった…………!
「ありがとう……ございます」
まさかこんな結末になれるとは。
「感謝しなさい。私もけっこう、動いたのだから」
王の法が認めたならば、誰も手を出すことはできない。
「ありがとうございます……ありがとうございますマルディリア姉様!」
これで、これでみんな普通に生きていける! 権利種として、生きていける! 死ななくて済むんだ!
「あなたは一応、私の妹ですからね」
「あ……」
私の……妹…………。
「あなたは私に嫌われていると思っているようだけど…………一応、ねぇ?」
「嫌われてるだなんて……いえ、すみません。私、姉様のこと誤解していました」
私はずっと気がついていなかった。こんなに近くに、味方がいただなんて。
「ほんと、誤解しないでほしいわ。私はずーっと、あなたのこと妹だと思っていたのだから。さて、もういいわよ。仕事をしなさい、闇夜部隊」
「え?」
「がっあ……」
姉の隣にいた兵が素早く剣を抜いて、カウィーソさんの腹を貫いた。
「カウィーソ……さん?」
「安心して? 罪のない者は殺さないから」
「カウィーソさん? カウィーソさん? カウィーソさんっ!」
血……が。
「むだよ、もう死んだわ。闇夜部隊の剣には毒があるの、知っているでしょう。私の妹なのだから」
「なぜ……なぜこんなことをするのですか! 私は領主として認められたのではないのですか!」
「領民でも罪人は罪人でしょう」
この人は……何を言って………。
「マルディリア・レス・ドラゴの名において命ずる。闇夜部隊よ、タキプレウス・トリデンタトゥス・トリオプス・カンクリフォルミスの領民を皆殺しにせよ! ああ、弔いの心はだけは忘れずに。一応、権利種ですからねぇ! 祈りは捧げてあげないと、法に反してしまうわ! ふふ……ふふ、あはははははははは!」
「なんで……笑って……」
「笑うにきまってるでしょう。領民が全員死罪級の罪人だなんて、聞いたことがないですもの」
今、私ができることはなんだ。
「お……」
「だから助けてあげないと、罪人たちに騙された可哀想な私の妹をね。そうでしょう、タキプレウス。私は、お姉ちゃんなんだから」
この怪物相手に、できることはなんだ。




