俺氏、キレる!?
首の感覚に意識を向けながら、ゆっくりと扉を開けて、部屋の中に入った。
「……ほ、ホントに、何もないですから、勘弁してください。金目のものは何も……」
「あら。私は別に強盗しようなどとは思っておりません。その点はご安心ください、加藤理人様」
「は?」なぜ俺の名前まで知っているのか。思わず振り返ってしまった。
そこには、タキシードを着た、赤黒い髪を肩で切り揃えた少女が微笑んでいた。サッと後ろに手を組んだのが見えたような気がした。その手の中には、一体何を握っていたのか、今となっては確かめられない。
「私は理人様のお世話をするためにやってきました、羽賀田景です。よろしくお願いします」
彼女は丁寧にお辞儀をする。
「お世話だって?」
茫然と立っていると、彼女はその横を抜けて、のこのこと中に入っていく。
「ええ。それにしても、本当に何も無いお部屋ですねえ」
羽賀田景は1Kしかない室内をうろちょろと歩き回る。ついに冷蔵庫の中身まで覗き込み始めた。本当に何もないですねえ。
その様子を見て俺は苛立ちを抑えることができずに、彼女の肩を掴んだ。
「おい、ちょっと待てよ。なら、さっきは何故襲った? お前の目的は何だ?」
「先ほども述べたように、私は理人様のお世話をするために――」
その肩をぐいっと引き寄せて距離を詰める。
「うるせえ! それが説明になってねえんだよ! 殺されるかと思ったんだぞ! それに黙って見てりゃ、勝手に上がってきたクセにごちゃごちゃ文句言いやがって! てめえら全員ぶっ殺すぞ!」
ありったけの唾を少女の顔面にぶちまけて、ようやく首の冷たい感触を思い出した。彼女にこれほど強硬な態度を取って、俺の命に問題はないのか、と。また冷や汗がぶり返す。
「やはり、あなたの血は穢れている」
視界が180度ひっくり返り、背中に衝撃を受けた。ほつれまくった畳の上にねじ伏せられる。羽賀田景は酷く冷たい目で俺を見下ろす。陰になった彼女の顔に先程の笑みは無く、能面の様な無表情さが張り付いている。
「先程の言葉は撤回いたします。ここに一つだけ、取るに足るモノがありました。――あなたの命です」
どこからともなく拳銃を取り出すと、安全装置を解除して、一切の淀みなく、銃口を俺の額に向ける。先端にサイレンサーがついていた。彼女は本気だ。
「いくら霊長様の実子とはいえ、淫売の血に侵されては、どうにもなりません」
それを聞いた瞬間、頭の中に火花が散った。さっきの比じゃないくらいの激しさだ。
「……セイチョウだかレイジョウだか知らねえが、淫売ってのは、俺の母親のことか?」
「は?」
「母さんのことかって聞いてんだよォッ!!!!!」
「ああ、金欲しさに霊長様を誑かせて、子を拵えさせた雌ですよね。霊長様を一体なんだと思っているのか」
「母さんを馬鹿にするなァ!!!!」
「フッ。母さん母さんって、その年になってマザコンですか。気持ち悪い。これだから下級国民は」
「てめえええええええええ!!!!」
加藤理人は何とか銃をつかんで、必死に抵抗するが、彼女の銃口は狙いを定めたまま、一切ブレない。
――女のくせに、なんて腕力だ。
「あなたは後継者に相応しくないと判断しました。恨むなら親を恨みなさい」
彼女の指が躊躇いなくトリガーを引いた。




