行く年来る年6
「学業成就残り2です」
「破魔矢と家内安全御守りですね。1500円お納めください」
随分と時間が経った。
当初はぎこちなかったバイト二人の動きも、今ではしっかり慣れてきている。
その様子を一瞥した妖刀は最後をこの二人に任せてもいいという結論に達した。
幸いすでにもう一人が休憩から戻ってきていて、人数だけなら十分足りている上、既に忙しさのピークは過ぎた。
周囲は明るくなり始めていて、参拝客も一時よりまばらだ。
「さて……」
妖刀はその二人の背中を一瞥し、壁にかけられた内線に手を伸ばすと、数時間前に説明した通りの操作を行った。
「お疲れ様。そろそろ時間だが、二人は帰してもいいか?」
通話相手=社務所で酔っ払い相手に奮闘中の悠。
その激務ぶりを示すように、後ろから支離滅裂な声が聞こえてくる。
「あ、うん。そっちが落ち着いているならそうして」
「分かった」
「それと、そっちの売り上げ確認して終わったら金庫持ってこっち戻って。ちょっと人手いる」
通話終了。
(まあ、そうだろうな……)
受話器を置いて小さく溜息。
人手がいるとは言っていたが、すぐに必要という訳でもない。一晩の売り上げを確定してからでいいという事からも分かるが、大方酔っ払いが多すぎて帰らせるのに一人では対処しきれないのだろう。加勢が必要な事は分かりきっている。それこそ、最初の一人が出来上がった時から。
もう一度窓口の二人に目をやる。
既に客はおらず、背中越しに外を見ても境内に人影はない。
「よし、時間だ。二人とも上がって。お疲れ様」
二人からも同様にお疲れ様と返され、二人が陣幕の向こうに引っこんだところで妖刀は窓口を――正確には外に通じているサッシを――締めて「準備中」の札をガラスに貼りつける。
意外に思われるかもしれないが、綾篠神社では元日で最も混雑するのは日付が変わってからの数時間で、日中になると凪のように一時的に人気はなくなる。
勿論普段に比べればそれなりに多いのだが、ただお賽銭をして参拝をするだけでそこに人がいる必要はない。
このためバイトも次に来るのは2日と3日の昼間に一人ずつという状態だ。
(今年も何とか乗り切ったな)
何がいくつ出たのか記入した帳簿と売上金とを確認しながら、一年で一番忙しい夜を乗り越えた事にほっと一息つく。
この勘定を終えれば次には総仕上げの酔っ払い相手が待っているのだが、それでもこの瞬間は落ち着く。幸い、売上金の過不足もない。
「よし。終わり」
手提げ金庫の鍵をかけ、残った破魔矢を傘立てを流用した容器に入れると、閉じていたサッシを開けて外に出、賽銭箱の横に置いておく。
容器には『破魔矢1000円 お賽銭箱にお納めください』と張り紙がしてある。
不用心なようだが、意外にもこれが盗まれた事はない。
流石に神前で破魔矢という神聖なものを奪う事に抵抗を覚えるのか、或いはただ単に盗むメリットを感じないのか。
全て終えると窓口に戻って内側から鍵をかけ、金庫を持って社務所に向かう。
「ふぁ……」
思わず欠伸が漏れるが、瞼は重くならない。徹夜特有の異様な目の冴えだ。疲れていない訳ではなく、日光を浴びたことで妙に眼が冴えてしまっている。
まあ、今からの一仕事を考えれば好都合だ――そんな事を考えながら、妖刀は社務所に向かう。
社務所の奥に設置された大型の耐火金庫。そこにこの手提げ金庫を収めれば社務所の仕事は終わりだ。
(つづく)
投稿遅くなりまして申し訳ございません
今日は二本立て




