お伝えする事項4
「え、でも……」
「いいじゃない。元々そういう所に相談する予定だったんだし」
どうやら二人の間でも意見がまとまっていなかったようだ。
躊躇する芳江ちゃんこと番台の女性を真田さんが後押しする。
「何かあったんですか?」
「私達に出来ることでしたら相談に乗れるかと思いますが……」
そして後押しする真田さんを二人が更に後押しする。
悠たちにしても、もしかすれば臨時収入のチャンスだ。それに上手くいけばこれを機に顧客となってくれるかもしれない。
――もっとも、それは半分ぐらい。もう半分は純粋に気になったからだが。
「大丈夫よ。この二人、反魂さんの神社の人だから」
その一言がどうやら決め手になったようだった。
番台の女性が悠たちの方に向き直る。
「そういう事なら……。実はうちではこの銭湯以外に管理している家が一軒あるんですよ。貸家として収入にしていたんですけど、そこの前に住んでいた家族がトラブルを起こしまして……」
躊躇いがちにだが、誰かに相談すること自体は既に決めていたと分かるほど、纏められた説明だった。
「引っ越してきて半年ぐらいして、奥さんの方が突然ご主人の目の前で手首を切ったらしいの。なんでも育児の事や実家でごたごたがあって悩んでいたところに、夫が浮気しているんじゃないかなんて疑い……というか妄想よね。そんな状態になって、精神的に不安定になっていたみたい。それである時、仕事から帰ってきたご主人の目の前で手首を切って……慌てたご主人が救急車を呼んだらしいけど、病院に搬送された時にはもう意識が無くて、それからすぐ亡くなったのよ」
そこで妖刀が相の手を入れる。
「それで、その女性の幽霊が出る……と?」
その言葉に番台の女性は頷きを返した。
「事件の後、残されたご主人と子供はすぐに引っ越したんだけど、その後その奥さんの霊が出るようになって、次の借り手がつかないままなんですよ」
貸家の話が出た時点で二人の頭に浮かんだ相談内容。それがまさしく正解として目の前に示される。
「なので……お二人にお祓いをお願いできないかと思って」
予想通りの結論。
「うーん……」
渋い顔をしたのは悠。
「お引き受けできない事は無いのですが……」
この反応に一番驚いたのは隣にいた妖刀だった。
「ただ、私達も専門家という訳ではないので……、手におえない時にはどこか別の所を紹介する事になるとは思います。それでもよろしければ」
だが、頼りない藁でも溺れる者にとっては掴む以外にない。
「ええ。勿論それで結構です。お願いします」
「では、実際にそのお宅を拝見させて頂くことになると思います」
「それなら、明日の午前10時はどうでしょう?」
提案に応えようとした悠を妖刀がそっとつつく。
「明日はガス屋来るぞ?」
「あそっか。うーん……、しょうがない。妖刀ちゃんは留守番。ガス屋さんの方お願い」
「それはいいが、一人で大丈夫か?」
それには頷くだけで回答とし、改めて番台の方へ向き直る。
「では、明日の午前10時に。こちらの方に伺えばよろしいですか?」
(つづく)
今日はここまで
続きは明日に




