お伝えする事項3
「久しぶりに驚かれたね」
「ああ、見えていた」
ドライヤーを終え、着替えながら小声で振り返る。
「でも改めて妖刀ちゃんて日本人には見えないよ」
「……日本人というか、そもそも人間じゃないからな」
悠も――実の所妖刀本人も時々――忘れるのだが、言う通り彼女は人間ではない。
「目の色も珍しいし」
「確かに緑は他に見ないな」
初めの頃はカラーコンタクトとも疑われたものだ。
「髪の毛だって真っ白なのに全然傷んでないし」
「地毛だからな」
これもまた彼女が――主に陰口で――よく言われた言葉だった。
巫女の癖に髪を染めて――彼女自身周囲からのそれは予測しており黒く染めようとも思ったのだが、斑になってしまったり、数日で落ちてしまったりでどうしてもうまく染まらなかった。どうやらソーサリウムの幽霊というのは、顕現時の身体的特徴を変えることは難しいようだ。
ただ、それですっぱり諦めてもいいぐらいにはその声は小さいものだった。
そうした声はごく少数の言いがかりに等しい代物であったし、彼女の――悠の助手としても本来的な巫女の業務としても――能力は十分な物であった事もまた大いに影響した。
重要なのは、というより大多数が求めたのはソーサリウムを扱う場所の職員として機能するという事。結局の所、大多数の人間にとって最早神秘性や伝統的価値観など、付加価値程度が精々の過去の遺物。従であって主ではない。
綾篠神社以外でもそれは例外ではなく、今やあらゆる宗教が従来持っていた役割をソーサリウムにとってかわられ、本来の姿=死後の不安を取り除くという部分のみに特化しつつある。
「……なんで純和風な本体からこんな風に生まれてきたんだろう?」
「本体って……」
まあそうだが、と小さく付け足してロッカーを閉じる。
「ならお前は自分がどうしてその容姿で生まれてきたのか説明できるのか?」
面倒くさい、とばかりに突放す。丁度着替えも終わった。
「言われてみればそうか……。まあいいや。せっかくだし妖刀ちゃんもコーヒー牛乳飲もう!」
言われた悠も特に気にしない。というより既に興味が切り替わっている。
「いや、私は飲み食いは……」
「カレー煎と同じだよ。それに銭湯の醍醐味だよ?むしろこれ飲むための準備運動が入浴と言ってもいいぐらい」
その言葉が嘘ではないという証のように、その足取りは軽く、番台の前に置かれている自動販売機に向かって妖刀を追い抜く。
「そういうものなのか?」
「そういうものなのです!だから――」
何かを言いかけて、番台と話しこんでいる人物に言葉を途切れさせる。
「あら反魂さん!」
「あ、どうもこんばんは!」
真田さん――いまやめっきり減った氏子の一人にして、ソーサリウムの常連でもある女性。同年代かもっと上と思われる番台の女性と話しこんでいた彼女が悠たちに気付いたのは、悠が彼女に気付いたのに同時だった。
「あ、どうもこんばんは」
遅れて暖簾をくぐった妖刀に気付いたのもまた。
「あらあら、二人ともで?」
「ええ。実は神社のお風呂が調子悪くて。真田さんはよく来られるんですか?」
「ここは昔っからねぇ」
そう言って番台の女性と笑い合う。
彼女の家がここから近い事を悠たちも思い出した。ただの入浴以外に社交の意味もあるのだろう。
「あそうだ。芳江ちゃん。この二人に相談してみたら?」
その真田さんが、二人の姿で思い出したように番台の女性にそう告げる。
「二人とも巫女さんだし、詳しいんじゃないかしら」
(つづく)
今日はここまで
続きは明日に。




