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勇者は悪人面がよく似合っていた

 き、筋肉痛。

 ノワールは、実はツンデレだったのかもしれない。

 私に対してはけっこうひどいことを言いつつも、しばしば会いに来るのだ。

 実は私のことを気に入っているとか、友達になりたいとか思っていたりするのだろうか。

 彼と出会ってから一か月ほどたったが、すっかり仲良くなってしまった。

 まあ、喧嘩ばかりしているけれども。

 ノワールは、私以外の人には常に人形のように無表情で無口だったけれども、私に対してはいろんな表情を見せてくれた。

 しかし、ある時を境に彼は正体を暴かれた化け物みたいに豹変した。

「ノワールが、いつも持ち歩いる本って何?見せて」

「いいよ。でも傷一つつけたら、リアを殺すからね」

 怖い。怖すぎる。慎重に扱おう。

 本を開いてみてびっくりした。

 ノワールが持ち歩いているのは、BL小説だった!

 まじか……。え……嘘だろう。本当に、こんなものを持ち歩く美少年って存在したのか。

「何これ。BL小説じゃん。こんなの持ち歩くなんて気持ち悪い」


「リアなんて大嫌いだ。死んでしまえ」


 ……ツンデレなんていうかわいい生き物ではなかった。

 ノワールの顔色が変わった。彼の手が震えだした。目が殺気というより狂気を帯びた。まるで正体を暴かれた化け物だ。

 ノワールは、私の胸のあたりの服をつかんで持ち上げた。

 おぞましいものでも見るかのように私を見ている。

「君がクリスティーナに似ているなんて間違いだった。

 君の全てが気持ち悪い。もう近づかないでくれ」

 おい。いつも私に近づいてきたのは、ノワールの方だろうが!

 けれども、次の瞬間、彼は泣きたいのに泣き方がわからない子供のような、悲しそうな、胸がえぐられるような痛々しい顔をした。

 それから、ノワールは、私から逃げるように走り出した。

 傷ついた獣のように痛々しい顔が頭から離れなかった。



 夕方から急に雨が降り出した。

 激しい雨が町を襲っている。

 ノワールは、生きているのだろうか?雨に打たれて凍えているのではないか?

 傘は持っているように見えなかった。

 私は、ちょっと迷った結果、ノワールを捜索することにした。

 嫌われていることはわかっている。でも、あのまま放っておけないくらい彼が痛々しく見えたからだ。


 探し回ってようやく見つけた。

 もうあたりはすっかり暗くなっていた。

 けれども、雨は一向に止もうとしなかった。

 ノワールは、噴水の近くの椅子で、雨に打たれ続けていた。

「そのままだと雨に濡れて風邪ひくわよ。入りなさい」

 そう言って、私は手を差し伸べた。

「気持ち悪い……」

 しかし、奴は私を見て不愉快そうな顔をしながらそう言った。

 美少年だからといって何を言っても許されると思うなよ。

「ひどっ。あなたなんて雷に打たれて死んでしまえばいいわ」

 そう言って、私はこいつを見捨てて歩き出そうとした。

 けれども、手を掴まれてしまった。

 そして彼は手に自分の頬を当てた。ま、まさか私の手を顔に近づけるなんて……私の手を食べる気?わ、私なんておいしくないわよ。

 奴は平然と暴言を吐いた。

「冷たいな。そうだ、君の心を表しているみたいに冷たい」

「何その最低なセリフ。あなた、私に殺されたいわけ?そうやって自殺でもすることを企んでいるつもりなの?勇者に頼んで殺してもらおうかしら」

 やっぱり拷問されながら殺される死に方がこいつに一番合っていると思う。

 こんな恩知らずなひどい人間も珍しいだろう。絶滅危惧種かもしれない。

「……冷たい癖に似ている。似ているところが全部気持ち悪い。君なんて生まれてこなければよかったのに。

 生まれてすぐに虐殺されてしまえばよかったのに」

 ……優しくしたら、ひどい言葉を吐かれました。

 こいつ、何なの?ひでぇ。

 サディストなのだろうか?私は、マゾではないからそんな言葉吐かないでほしい。

「何てひどいことを言うの?私が 何か悪いことでもした?」

 こんなにホームレスに優しくしてあげているのに、ここまで言うなんてひどい。

「リアの存在が気に食わない。

 君のせいで僕がクリスティーナだけを好きでいることができなくなった」

 何その八つ当たり……。

 おかしくないか?絶対に、おかしいだろうが!

「代用品のくせに本物以上になるなよ。偽物のくせに、僕を揺さぶるな。

 僕は、君なんて大嫌いだ」

「何よ。私だってあなたみたいな奴、嫌いだわ。

 あなたの言っていることなんてわけわからない。あなたなんて……」

 私は、その続きを言うことができなかった。

 ノワールが私にキスをしたからだ。

 キスの時は目をつぶるべきとか聞いたことあるけれど、驚きのあまり瞬きすらできなかった。

 呆然とする私に向かって彼は泣きそうな顔でこう言った。

「もう僕を一人にしないでよ」

 そうして二度と離れないとでも言うように私を抱きしめた。

 いやあ、もう強く抱きしめられすぎて本当にろっ骨が今にも折れそうだ。

 何このツンデレ……。めんどうくさいと通りこして、ただのウザイ人だ。一発ぶん殴ってやりたくなってきたわ。恋の駆け引きでもしているつもりなの?残念だが、ギャップ萌えとかは全く生まれそうにない。

 はっ。もしかしたら、二重人格なのか。今すぐ病院へ連れて行くべきかもしれない。しかし、こんな奴のためにお金を使うなんて嫌だな。


「何をしているの?」


 生気のない勇者が立っていた。

 怖い。ゾンビが襲ってきたとしてもこんなに恐ろしい気持ちにならなかっただろう。

「浮気?俺というものがありながら、そんな男と逢引でもしていたの?

 ねえ、今、キスしていたよね」

 ひい。もう死にたくなってきた。このまま監禁させられて無理やり結婚させられる気がしてきた。

「……いや、そ、その……」

 まずい。何か言わなければ、世界が滅ぼされてしまう。

 ノワールは確実に殺されるが自業自得だろう。しかし、私のせいで世界が滅ぼされるわけにはいかない。 

「君がリアの婚約者なの?」

「ああ、そうだ」

 ノワール。頼むから空気を読んで。余計なことは言わないでくれ。

「ダイアナは、僕のものだ。君には渡さない」

 ちょっと待った!喧嘩を売ってどうする!

 お前、殺されるぞ。骨すらも残らないような恐ろしい殺され方をされるぞ。

 勇者の顔には、どす黒い笑顔が浮かんだ。


「そんなに死にたいなら殺してあげる」


 勇者は悪人面がよく似合っていた。

 こいつ……本当に勇者かよとツッコミをいれたくなった。


 次回は修羅場(笑)です。

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