魔族探し
ルネと一緒に、私たちは早速ハウンネルの街に向かった。
オルディアの空間移動でひとっ飛びしたけど、目の前の光景がガラリと変わったことに気づいたルネが赤の瞳を丸くした。
「宝石の街、ハウンネル。人間界じゃわりと有名な場所なんだ」
近くの採掘場で宝石がたくさん取れるから、原石で作られた玄関飾りや宝石混じりの石で建てられた家が立ち並んでいる。
金銭的に豊かな層と、下働きさせられて生活が楽にならない貧困層がはっきり分かれているのが、このハウンネルの街の特徴だ。
「さて、冒険の始まりはまず装備を整えることからスタートだよね。
ルネの装備は……んー、今は『おめかしのためのドレス』か……ふむふむ」
ティーカーに手を引かれながら興味深そうに辺りを見回すルネの装備は綺麗だけど防御力が低くて、私たちが守るにしてもさすがに心許ない。
だからこれも経験かなって、防具屋を示した。
「ドレスじゃいざってときも動きづらいと思うし、新調しようか。
お店の中でルネが『欲しい』って思ったものを、私たちに教えて欲しいな」
戸惑いながらも頷いてくれたルネと一緒に防具屋に入ると、広い店内には子供向けから大人用まで様々な装備が並んでいる。
ルネは私たちの格好を確認してるけど、今はごく普通の冒険者服だ。
魔王に挑むときは防御力を高めるための重装備だったけど、普通の魔族相手なら身軽に動けた方が良いから、私たちは軽装備を身に着けている。
「子供向けの防具は神のご加護が多めになってて、大人向けと同じ防御力なんだよね。
可愛い物が多いのも特徴……あ、これはどうかな?」
まずは似合いそうなものを一つ取って、ルネの体に合わせてみた。
でも値札に気づいたみたいで、長い白髪が横に振られる。ドレスを引っ張って『これでいい』って言ってるように見えるから、笑ってみせた。
「依頼を終わらせて次の街に向かう最中だったから、勇者パーティにしては珍しく資金だけはあるんだ。
だから遠慮しなくていいし、まずはお買い物で仲間としての第一歩を踏み出して欲しいな。……ルネは何が好き?」
オルディアからも聞いた通り、聖女として生まれたルネは幽閉されて人に頼れない状況にいたみたいだ。
今も遠慮がちに、ドレスを握ってうつむいている。
ティーカーも様子見しながら手を繋いでたけど、棚に向かうと子供用の鎖かたびらを手に取った。
「もしかしてドレスのままの方がいいか?
今着てるものがお気に入りなら、下に着込む装備品もあるぜ」
確かにおめかしドレスを気に入ってるなら……って思ったけど、ルネは慌てて首を横に振った。
鑑定スキルの結果は『耐久力減少なし』になってるし、今日初めて着せてもらったものだとすると、思い入れはないのかもしれない。
私たちが経験を駆使してああでもないこうでもないと装備品を悩んでいると、ルネも棚に目を向け始めた。
もしかして……欲しいの、自分で言い出してくれるかな?
ルネが私の隣にきたから標準的な冒険者服を体に合わせてみたけど、決め手に欠けるから唸るしかない。
「ハウンネルは交易も栄えてるから防具もいっぱいあるのはいいけど、悩んじゃうね。
んー、防御力も魔法防御力もある装備が安定するんだけどな……あ、魔法使いの服もあるよ」
考えながら装備を一緒に見ていると、白が基調になった魔法使いの服を見つけた。
ルネも指を小さくあげて、気になるみたいでキラキラした目で見ている。
「これがいい?」
迷ったみたいだけど小さく頷いてくれたから、ルネを連れてお店の試着室に入らせてもらった。
お気に入りの装備に着替えたルネが自分の姿を鏡で確かめてるけど、よく似合う。まさしく聖女っぽい。
「とっても可愛いよ、ルネ。気に入ったならこれにする?」
私が小さく拍手すると、気恥ずかしそうなルネが口元を緩ませて魔法使いの服を見た。
試着でますます気に入ったみたいで首が上下に動いたから、そのまま試着室を出る。
ティーカーは店主と話してたけど私たちに気づくと、ルネの前にしゃがみ込んで目線を合わせた。
「すっげ、ルネにめちゃくちゃ似合ってる。可愛い。いいのが見つかってよかったな」
ティーカーが明るい笑顔で頭を撫でて「可愛い」って何度も伝えると、ルネも嬉しそうなふんわり笑顔になる。
お会計して店を出ると、金髪に青い目の剣士も買い物してたみたいで小さな紙袋を差し出した。
「じゃあこれは、ルネに俺からプレゼント」
「えっ、ティーカーから贈り物?!」
ルネも驚いて固まってるけど、差し出されたままの手があるから慌てて受け取る。
紙袋の中に入っていたのは、鉄のバレッタだった。
茶錆で表面強化してあって、お花の透かし彫りが入っている。ルネも気に入ったみたいで、可愛い髪飾りに釘付けになってた。
「ルネの長い髪、綺麗だからさ。なるべくまとめておいた方が傷つかなくて済むのかなって……」
「ねえティーカー、そんな気遣いがいつの間に出来るようになったの? やっぱりリアネさんのおかげ?」
「いや、えーっと……ほら、フルルがよく言ってただろ? 『おさげは敵に捕まれることもあるからお父さんが短くしろって言うけど、長いほうが好きだから絶対に切らない』って。俺とレムスで髪を守る装備品見繕ったの、覚えてたからな」
「結局レムスが一人で選んでくれたよね。ティーカーは途中で面倒になって、聖剣の素振りしてた。
なのに自分から装飾品を選んで贈る日が来るなんて、思ってもなかったかな」
「くっそ、フルルには見抜かれちまうな……いいだろ、ルネに似合いそうだったんだよ。喜ぶかなって思ったから、買った」
誤魔化しに失敗した幼馴染が耳まで真っ赤になってるから『ルネのためにティーカーも何かしてあげたかったんだ』って気づいた心の中が悶えてた。
茶色いバレッタは、白い髪にもよく似合いそう。
お花の透かし彫りも、ルネが花占いしてたから……わざわざ喜んでくれそうな物を選んだんだろうな。
「……」
両手で優しくバレッタを包むルネもお礼を言いたいのか、口を開けては閉じて、文字を書ける場所を探している。
ティーカーが改めて恥ずかしそうに笑うと、頭をポンポンって撫でた。
「喜んでくれればそれでいいって。
俺じゃやり方わからないし、付けるのはフルルに頼んでいいか。何回か髪結の仕事もしてたよな」
「任せて、『ヘアセット』のスキルもあるよっ」
ルネが両手でバレッタを差し出したから、後ろ髪をまとめてあげた。
お店のガラス扉に映ったルネが、自分の格好を何度も確かめている。
目をキラキラさせて嬉しそうだから、私たちまで幸せな気分で笑顔になっちゃった。
「じゃあ、次は武器屋に行こっか」
勇者パーティは防具屋を後にして、大通りを歩き出す。
……でも歩き出したはいいけど、護身用の武器は何にすればいいのかな……悩みながら知り合いの聖女を思い浮かべたけど、彼女の持つ杖は見せかけだって本人から聞いてた。
「聖女って基本的に回復魔法しか使えないって聞いたことあるけど、悪魔貴族だとどうなんだろ……そうだ、ルネは攻撃魔法って何か覚えてる?」
ティーカーの隣を歩くルネは、首を横に振った。
……そうだよね、家に閉じ込めておくためにも聖女に攻撃魔法なんて覚えさせないか、って密かに納得してしまった。魔族がそんな初歩的なミスをするはずがない。
「じゃあ腕輪とか媒介系の方が回復魔法も楽に使えるだろうし、そうしようか……あれ? どうしたの、首横に振って」
立ち止まったルネがお祈りの形に指を組む。
すると、全身が温かい光に包まれる感じがした。
今はどこも傷がないから回復しないけど、神をそばに感じた心まで安らいでいく気がする。
「そっか、聖女に回復してもらうことなかったけど、魔法じゃなくて『祈り』なんだね」
ルネがこくこく頷いた。
神の癒しを願う『祈り』は特技やスキルに該当するから、魔法の媒介を持っても強化されない。武器を買っても意味がないから先に教えてくれたんだ。
ティーカーにも恩恵が届いたみたいで、自分の手を見ている。
「スキル効果が上がる魔道具の方が良さそうだな。
武器屋でルネに短剣持たせたって、心構えを教えておかないと怪我しちまいそうだし。
今日明日で扱えないものより、持ってるだけで効果あるもののほうが良いと思うぜ」
「確かに『生まれて初めての刃物』って言われると、持たせるのが怖いかも。
じゃあ魔道具屋さん……んーでも行くならベルンハイムがいいかな……。
ベルンハイムにはヘンリっていう魔道具製作者がいるんだけど、動物の形の素敵な魔道具を作ってくれるんだよ。
私も依頼でちょっとだけ手伝ったことがあるんだけど、置物として買って行く人もいるくらい可愛いんだ。オルディアが来たら連れて行ってもらおうよ」
「じゃあルネの分は俺が払おうかな。魔力がないから、魔道具は買う予定ないし」
「あっいいね、そうしよう。ヘンリも喜ぶよ」
空間移動が出来るからこその買い物方法だ。
魔王の名前を出しただけでルネが少し緊張を見せたけど、慣れるまでは仕方ないかなって笑顔を向けた。
「もし道中にも何か気に入ったものが出てきたら、遠慮なく教えてね。
自分の感覚に合う武器とか道具って大事なんだ。私の聖剣やオルディアの神官の杖みたいに、馴染む装備は一生物になるかもしれないからね」
ルネは真剣に聞いて頷いてくれた。
武器は後日に決めた勇者パーティは、装備も整ったことで貧民街に降りていく。
階段を降りて行くだけで周囲が崩れかけた家や、布と木で作ったテントが多く広がり始める。
「……」
あけすけに見えても警戒心が強いから、街の端にいるごろつきが私たちを見ている。
新しく入ってきた冒険者は狙われやすいし、何があっても良いようにティーカーの肩を軽く叩いた。
「ごめんティーカー、ルネを抱えてあげて。私が戦うから、咄嗟にでも離れやすいようにしてほしいんだけど……」
「わかった。ルネは俺と一緒にいような。
大丈夫、俺もたぶん世界で三番目に強いからさ」
魔王、勇者、聖剣の守護者だったティーカーの順番かな。
安心させるみたいに笑ったティーカーがルネを抱き上げたから足早に進んだけど、ルネはじっと貧民街の奥を見つめている。
「あっちが気になるの?」
尋ねるとバレッタをつけた小さな頭が上下する。
追っ手がいるから撒くためにも、今度は家々を飛び越しながら目線の先に進んだ。さすがに私たちが強いって理解したのか、ごろつきはそれだけで付いてこなくなった。
やがて……天井が崩れて布を貼られた一軒家に辿り着いた。
朽ちた家の扉を叩くと、中から女性が出てくる。
つぎはぎの服を着た貧しい風情だけれど、芯の強そうな人だった。
「はい、どちら様でしょう」
「勇者です。家の中に魔族がいる可能性がありますので、一度あらためさせてもらえますか」
滅多に使わないけど、大聖堂で授与される特赦の証を出した。
教皇が認めた勇者の特徴とかが書いてあって、大聖堂の許可の上で家の中の捜索も可能になる。
神聖力も練り込まれた『信じるに足る』書面を読み込んだ女性の肩が、平静を装ってたってぎくりと動く。
でもルネは中を見てるから、この人は人間かもしれない。……魔族に騙されて匿う人がいるのを、私も知っていた。
「ま、まあ、勇者様。ご案内したいのは山々ですが、家の中は荒れています。少々お待ちいただけますか」
女性の足が不意に少し持ち上げられて、床に叩きつけられようとした。
咄嗟に滑り込ませて全力で踏まれる形になったけど、激しく動揺している。
素直な人ほど魔族に騙されやすいって思いながら、足元が板張りなのを見た。
「すぐに終わりますから安心してください。
多分この家、地下があるんですよね? 普通の家じゃありえない音がしました。魔族はそこですね」
「やめて、っ」
家に入ろうとすると女性が掴み掛かろうとしたから、軽く手刀で落とす。
ルネが驚いてるけど、魔族を探していればよくあることだ。……下にいるのは淫魔かなって、言えないけど聖剣に手をかけた。
「ごめんティーカー、その人見てて。一人で行ってくる」
下の状況が分からないから、頷いてくれたティーカーにルネを任せて私だけ家に入った。
屋内を見回して、皺に違和感があるボロボロの絨毯を捲る。……隠された地下への入り口を見つけた。
警戒を強めながら扉を開けて、慎重に階段を降りていくと……中にはすでに槍を構えてる男がいた。
「来るな」
大人が一人、大きい子供が二人、生まれたてが二人。
丸は五つだったから、この一家を指してたんだ。
まだ人間に化けきれてない子供は蛇男。他に誰もいないことを確認すると、魔族を前にして唯一の逃げ道になる階段の前に立ちはだかった。
「魔王からの退避勧告は聞かなかった?
人間界に残ってたら、勇者が切りに来るって念話がきたはずだけど」
「聞いた。……それでも、私はいけない」
警告も分かってて人間界にいたってことだ。
腰の聖剣に手をかけて構えたけど、怯える子供達を下がらせた父親からは立ち向かう気配が膨れてる。
でも闇雲に襲いかかってくるわけじゃないし、背後を守るための動きだ。……前までなら問答もせず斬ってたけど、厨房のみんなが思い浮かぶから、剣にかけてた手を離した。
「理由を聞かせてよ。人間界にいれば、美味しいご飯にありつけるから? 貧民街なら遺体処理も簡単だよね」
「私は人間など食べていない。ここで薬を作って生活しているんだ。貴族に売った儲けで家族を養っている」
「信じてあげたいけど、嘘じゃない証拠はある? 取引の記録とか残ってないかな」
男のそばには調合台があって、台の上には薬草や蛇皮も乗せられていた。魔族から素材は取れないから蛇皮は仕入れたはずだ。
私が両手をあげて無抵抗を示すと、父親に頼まれた子供が奥に走っていった。
本棚から取ってきた紙束を子供が渡すと、確認した蛇男が床に投げ寄越したから拾った。
……確かに仕入れと売り上げ、日付が違和感なく並んでる。
商売してるのは本当みたいだって、紙束を閉じた私を警戒してる父親を見つめた。
「どうして帰らなかったの。魔王の命令に反してもここにいる理由は何?」
「食うにも困る場所で、妻は人間だ。彼女だけ置いて魔界へ帰れば見殺しにするのと同じことになる。
弱い子供たちだって魔界の神殿へ向かえない。妻と子を連れて扉を抜けられないのに、私だけ帰るわけにはいかない」
「だからここで守ってたって言うの?」
「そうだ。頼む、見逃してくれ……私は決して人を食わない。約束する。聖神にだって誓おう」
不意に上階から、狂ったような女性の声が聞こえた。
気絶の状態異常から起きちゃったみたいでティーカーが制止してるけど、ルネを抱えてるから強く止められないはず。
予想通り走り込んでくる音がしたから避けたけど、元々いた場所に壺が投げ込まれて割れた。
「出ていって、出て行きなさいよっ、勇者の助けなんていらないっ。
ここにいるのは私の夫よ、もう二十年もそばにいるのに一度も人間なんて食べてないわっ、出て行ってっ!!」
再び壺が投げ込まれて、割れた。塩が煙幕みたいに飛び散った。
なりふり構わない女性が子供を抱えて逃げ出そうとするから、収めたままの聖剣に手をかけて立ちはだかった。
「じゃあ魔王に空間移動で連れ帰ってもらうから、悪いけど全員このままここにいてよ。
人間界に残して置いて今は良くても、後で妻がいなくなった、子供がいるのに食うものがなくなったって、人間を食べられ始めちゃったら困るんだ。
奥さんも一緒がいいなら、魔界で安心して暮らせるようオルディアにお願いするよ。貧民街に未練もないでしょ?」
女性の強い敵意の目が向いてる。
……きっと勇者が魔族を生かそうとするなんて、信じられないんだろうな。
でも今の私は、魔族にも優しい心があるのを知ってる。
私に槍を向けてるのは、家族を守ろうと必死になってるのは、人間も魔族も一緒の『誰かを大切にする心』なんだって……改めて子供を抱えて睨みつける女性と、その女性を盾にもせず後ろに下がらせて守ろうとしてる男を見れば分かる。
「魔界に帰ったところで、妻は人間なのに生きていられるものか。
虐げられて、殺される。魔族のことなど勇者は何も知らないだろう」
「私もそう思ってたんだけど、この数年で魔界も人間擁護の風潮に変わってる。
勇者だって魔族と仲良し……そうだ、ルネも魔族だけど私の仲間なんだ。
一緒にいるの見て安心してよ。奥さんも、この通り剣は抜かないから。旦那さんのためにも大人しくしてて、お願い」
戸惑う一家に証明するためにもティーカーを呼んだ。
ルネを連れてきてくれたけど、蛇男とお互いに言葉もなく見合ってる。
白い髪を横に振ったり、頷いたりしてるけど……念話が終わったのか、ルネはギュッとティーカーにしがみついた。
「……魔族ではあるようだが……」
「あれ? 念話でも言葉は話さなかった?」
「何も聞こえなかった。ただ……言葉は伝わるし、勇者は悪い人間ではないと思っているようだ」
ルネは念話でも言葉が話せないみたい。
でも魔族同士で意思疎通できたことで状況がよくなったから、まだ警戒してる女性のためにも両手を上げて無抵抗を示した。
「じゃあ一時休戦にしよう。私も逃げ出そうとしたり、襲われなければ聖剣振ったりしないよ。
ねえねえ、薬師の旦那さん。蛇の皮ってなんの薬になるの? たまに廃屋とかで見つけるけど素材として売るしか知らないんだよね、教えて欲しいな」
「……新陳代謝の薬だ。美容に使える」
私も『薬の調合』スキルは持ってるし、興味があるから話を続けた。
ティーカーはルネを降ろすと、床に転がっている石を集め始めた。
「待機の間に暇してるのもつまらないよな。
みんなで小石使っておはじき遊びしようぜ。ルネは初めてだろうからやり方教えるよ」
昔から遊ぶのは得意だったティーカーが、後ろで怯えてる子供達を手招きして集めた。
拾った石を床に撒いて、一緒に囲んでる。
ルネはおはじき遊びのやり方を聞いて、ばらばらになった石に向かって、指で石を弾いて当てた。
「上手上手。当てて取ったやつが自分の得点だから大事に持っててな。
じゃあ、次は……悪い、遊び仲間なのに自己紹介忘れてた。俺はティーカー、こっちはルネ。ふたりとも、名前は?」
「……エルフェン。弟がビレオ」
「じゃあ改めてよろしくな、エルフェン、ビレオ。
次は左回りで俺の番……あ、しまった、二個当てた。はい、エルフェンの番」
自己紹介しておはじきに興じてるけど、最初は戸惑ってた子供達も遊べば少しずつ白熱してくる。
ルネも子供と一緒に目をキラキラさせて、前のめりに座ってた。同い年の子供と遊ぶ機会もなかったはずだから、ティーカーがうまく遊び方を教えている。
調合のお話も終わっちゃったし……いいな、おはじき。私も小さい時にみんなで遊んだきりなんだよね。
一応見張りしてるけど子供たちを置いて逃げるような両親じゃないし、歓声が上がる場所にウズウズした私も声をかけた。
「ねえねえ、私も混ぜてもらっていい?」
勇者だから近づくだけでも怖がられた。
けどルネが石を分けてくれたから、子供達にも受け入れてもらえる。
おはじきは指で石を弾いて、他の石に当てたら自分の得点になる。一度で二個の石に当てちゃったらお手つきで、得点なしだ。
簡単だけど手加減しなきゃいけないから難しい。……私は弱く弾きすぎて、当たらずに止まっちゃった。
「え……もしかして勇者って、弱い?」
「ちっ違うよ、弱くないもん。石も砕けるよ。だから手加減してるだけだもん。ほら」
地面に置いた石を膂力で押しつぶしたら、子供達にどよめかれた。しまった、やりすぎたみたい。
……でもその後はのんびり、楽しく遊べた。
ルネも石遊びに夢中だ。勝ったら嬉しそうだし、負けるとしょんぼり落ち込む姿を見て、やっぱり五歳なんだって感じてた。
「なーなー。勇者は他の遊び、知らないのか?」
「知ってるよ。石積みとかどう? こうやってね……」
私もいろんな国に行ったから、街角で教えてもらえた石遊びを続けた。
子供が笑顔になると大人も雰囲気が和らいで、二人で今後を相談してる。……不安がる奥さんを、旦那さんが抱き寄せて慰めてた。種族は違ってもたぶらかされてる訳でもないし、愛し合ってそばにいるのも本当なんだって、それだけでも分かった。
そのうち部屋に降り立つ足音が聞こえたから振り返ると、オルディアが迎えにきてくれたのが見えた。
「フルルたちが向かってからだいぶ経つのに魔族の気配が消えないから、まさか何かあったのかと思ったが……家族がいるのか」
私たちが事情を説明したけど、オルディアには快く全員連れ帰ってもらえることになった。
あとは魔王に任せて、一件落着かな。
そう、思ってたのに。
「フルル村……?」
魔界に帰った私たちは、数軒の家が並んだ、のんびりとした広い場所に案内された。
まだ建設途中らしく大工の魔族が多い村の看板には、大きく私の名前が描かれていた。




