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落ちこぼれ勇者は史上最強と名高い魔王討伐を目指す〜なお、魔王の囁きには魅了効果があります〜  作者: 丹羽坂飛鳥
幕間

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独占欲(後編)

 宿の部屋は私とオルディアの二人部屋と、ティーカーの部屋で二部屋とることになった。


「今日はフルルがオルディアと話した方がいいと思うからな。じゃ、また後で」


 ナフィに抱きついたのがまずかったなら、誤解は早く解かなきゃってことだよね。


 お部屋に向かったけど、入って荷物を置くとすぐに神官服姿の背中に飛び込んだ。

 しゃがんで旅の荷物を片付けてる最中だったからちょっと驚いてるけど、振り返ってくれたから唇を重ねる。


「……」


 銀色のまつ毛を閉じた彼からも返ってきて、ちゅ、ちゅ、っていっぱいキスが始まった。

 ……顔を見るだけで好きだなって思うのは、やっぱりオルディアだけ。

 なんて思うのが恥ずかしくて、つい笑っちゃった。


「どうした。今日はずいぶん積極的だな」


「だってオルディア、拗ねてたから。

 えへへ、もう大丈夫みたいだけどねっ」


 指摘してもいいって思えるくらい、雰囲気も和らいでる。

 見つめ合う深緑の瞳がぱちぱちした。

 可愛く思いながら背中を離して立ち上がると、私を追いかけたオルディアが、改めて広い胸に抱きしめてきた。


「僕はそんなにわかりやすいか。……隠しているつもりだったのにな」


「えへへ、昔から一緒だからわかるんだよ。

 オルディアも私が落ち込んでたら、気づいて慰めてくれるでしょ?」


 悲しいことがあったら、私がどれだけ平気を装ってもレムスがそばにきて「何かあった?」って心配してくれた。

 大人になった今も私の様子がおかしかったら「どうした」って聞いてくれるし、なんでわかっちゃうんだろうって不思議な時もある。

 お互いに思い合えてる証拠かもしれないと思うと嬉しいけど……今日のナフィとのことは、オルディアにとっては良くないことだったのかなって、今になると分かる。


「今日はナフィとのこと、ごめんね。気まずい思いさせちゃったよね」


「いや……僕も悪かった。

 ……いいんだ。フルルは友達と触れ合うことを遠慮しないのはわかっているから。

 相手もそれだけ本気でぶつかるのは当然だって……わかってる」


「え、それ嘘だよ、まだ何か飲み込んでる顔してるもん」


「……少し時間が経てば平気になるから……」


「だめ。ほら、いますぐに吐き出して。オルディアの顔見たら、全部わかっちゃうんだからねっ」


 抱きついたままお腹をこしょこしょすると、体を捩ってくすぐったそうに笑ってる。

 調子に乗って続けると、両手を掴んで止められて、引き寄せられた。

 慌てて細い腰に抱きつく。

 顔を上げると、明るく笑う幼馴染がいた。


「フルルには敵わないな。

 ……僕の隠したいことも全部、昔からフルルは暴いてしまう」


「う、うん。……ちゃんと相談してよね。

 落ちこぼれ勇者にだって、受け止められる度量くらいはあるつもりなんだからねっ」


「では僕のくだらない話にも付き合ってもらおうか。

 ……話さないと、フルルは納得しないだろうしな」


 銀の髪が目の前で揺れて、イタズラっぽく笑ってる顔が綺麗。

 見惚れるうちに私をギュッと抱きしめ直したオルディアが、私の肩に顔を埋めて、小さく吐息した。


「僕が知らないフルルの冒険を、ナフィは知っている。

 ティーカーも聖剣の中にいたから、同じ記憶を共有している。

 でも僕だけその冒険には参加出来ないし、苦労を分かち合えもしない。

 ……それが悔しいなんて、子供じみた感情に振り回されていた」


 あ。

 そうだ、オルディアは昔も『仲間はずれにされたから』拗ねてたんだ。

 私とティーカーが一緒に冒険してたのは理解出来るけど、ナフィとも冒険してたのに自分だけ不参加に感じたのが嫌だったんだって、ようやく腑に落ちた気がした。


「ナフィが言った『フルルがどれだけ苦労して冒険してたのかも知らないくせに』という言葉も、その通りなんだ。

 ……僕はスライムの王がフルルと一緒に旅を続けているとわかっていても、他のことを優先した。

 フルルの窮状を分かっていても何もしなかった僕が『仲間』でなかったのは、事実だ」


「え、何もしてないことないよ。

 『世界を平和にしてね』ってお母さんが最後にお願いした言葉、守ろうとしてくれてたでしょ?

 私には私だけの苦労があるのと同じく、オルディアにはオルディアだけの苦労があったことくらい、分かってるよ」


 深緑の瞳が丸くなって、驚いてるから笑っちゃった。


「私が魔界でのオルディアの苦労を知らないのと、一緒。

 魔王族に覚醒してからも一人でたくさん頑張ってたのを魔族のみんなに聞くたびに、オルディアはすごいなって思ってるんだよ」


 副官のビィさんなんて自慢まじりで話してくれるけど、オルディアの八年間は苦労と苦難の連続だったんだって。


 目覚めたら、たった一人きりで敵の中にいる。

 何も知らない魔界の味方は、新魔王に取り入ろうとする魔族ばかり。

 父親からは命も狙われて……それでも世界を平和にするため、自分にできることをオルディアは一生懸命頑張ってきたんだ。


「古い思い出に不参加なのが悲しいのは、私も同じ。

 でもオルディアとの新しい思い出は、現在進行形で作ってるもん。

 人間界の『落ちこぼれ勇者』の苦労はドタバタばかりだったんだな、今からもっとドタバタにしてやるーって、これからを新鮮な気持ちで楽しんでいこうよ。

 ね、それが一番嬉しいなっ」


 私たちは魔王討伐の冒険を、一緒にはできなかった。

 でも、だからこそ生まれたそれぞれの思い出があって、今は共有することができる。

 深緑の瞳を揺らして、力無くうつむいた幼馴染が前を向けるように、私からも力強く抱きしめた。


「オルディアは仲間はずれなんかじゃないよ。

 大切な仲間だからこそ、私の『落ちこぼれ勇者』としての冒険を一緒に楽しみたいって思ってる。そう思ってナフィにも会いに行った。

 ……ただ、今日はうまくいかなかったけどね。そういうこともあるよねっ」


 正直に話すとオルディアは目を閉じて、こくりと頷いた。


 ……オルディアが自分の中で、言葉を染み込ませてる。


 素直で大人しくて、聡明で。

 優しいから遠慮しちゃうオルディアがやっぱり好きだなって、静かに考える表情を見ながら思ってた。


 ……思い切って近づけた私の唇が、オルディアの肌に触れる。

 瞼が開いたから見つめ合うと、真面目な雰囲気なのにキスしちゃったのが恥ずかしくて、慌てて笑ってた。


「えへへ、でもよかった。

 ティーカーが『ハグしたことを怒ってるんじゃないか』って言ってたからさ。それが原因だったらどうしようかなって思ってたんだ」


「……え?」


 驚いたみたいで瞬きを繰り返してるから、やっぱり違うんだ、って照れ臭くなる。


「ナフィとこうやって抱き合ってたのがオルディアは気になったんじゃないかって、ティーカーに言われたんだよ。

 あいさつのハグくらいわかってくれるよって話してたんだけど……あれ? 違うの?」


 魔王は、恥ずかしそうに顔を逸らしている。

 私を振り返ったんだけど、気まずさが口元に出てて……銀色の眉がひそめられている。


「……やきもちは、やいた。……少しだけ」


 涼やかな声の本音に、胸の奥から言いようのないふわふわした気持ちが湧き上がってくる。

 真っ赤になった私を見たオルディアが、鼻の先に指先で触れてきた。

 肌がくすぐったくて、びっくりして……すぐそばで笑ってる照れくさそうな深緑の瞳に射抜かれたみたいに、目が離せない。


「僕と再会するまでの冒険にいい思い出はないと言ってたはずなのに、仲が良い相手がいたことが気になって……やきもちはやいていた」


 オルディアの、恥ずかしそうな顔が近づく。

 息も出来ない私に、好きな人の唇が触れて……照れた可愛い笑顔から、目が離せない。


「フルルが仲の良い相手は、僕とティーカーだけで十分だ。

 ……なんて、こんな独占欲、話すつもりもなかったのにな……見抜かれていたなんて気づかなかった」


「オルディア……んん」


 続く言葉を奪うみたいなキスに、ドキドキしてる。

 唇が離れると、力強くて硬い腕に抱きしめられた。

 顔を見せたくないのか、胸に顔が押し付けられてる。


「あ、あのね。私も、友達相手にハグするのは気にしない方だけどね。

 ……こうしてハグしてドキドキするのは、オルディアだけだから……やきもち、やかなくていいよっ」


 今も好きな人の腕の中なんだって、居心地いいのに落ち着かない感じがして、全身が汗をかきそうになる。


「誰とハグしてもあいさつだけど、オルディアとだけは……恋人同士のハグしてるって思ってるよ。

 だから特別だって、伝えなきゃって……思って……ねえ私、何言ってるんだろう!?」


 混乱したみたいで、頭がぐるぐるしてきた。

 慌てて動けなくなってると、オルディアがちょっと離れた。

 服の間に涼しい空気が入って、我に返る。

 離されたって寂しく感じてたら、屈んだオルディアの耳が胸の間に付いて、背中をそっと抱き寄せられた。


「……本当だ。ドキドキしてる」


「あ、う、う……だってオルディアのこと、大好きだもん……」


 背が私よりもずっと高くなって、淫魔として色っぽくもなったオルディアの銀の髪が目の前にあるのを、恥ずかしさで泣きそうになりながら撫でてた。

 深緑の瞳が瞼に隠れて、心臓の音を楽しまれてる気がする。

 しばらくしてオルディアが体を起こすと、目が合って……そのまま顔を近づけて、唇を重ねてた。


 ……オルディアとキスするの、あったかくて気持ちいい。


 唇が少し角度を変えると、舌が差し込まれてきた。

 ますます恋人同士なのを実感した鼓動が跳ねて、口の中を刺激されるたびに甘えた声を上げてる。

 絡んで吸われる感触に、魅了もされてないのに頭の中がふわふわする。

 優しく微笑むオルディアに頬を触ってもらえるだけでも気持ちいい感覚が広がって、体を預けてた。


「ね、オルディア……晩御飯まで、まだ時間あるし……ギュッてして……」


「……? 今してるのは違うのか」


「……ベッドで……してほしい……」


 自分の口から溢れた言葉に、目が回りそう。

 でも驚いたオルディアが、優しく微笑んで頷いてくれたのが見えた。


 私の足が情けないけど震えてるから……ベッドに運び込んでもらえた。

 覆い被さる幼馴染の指が背中に触れるだけで、体が跳ねてる。

 好きな人の顔が近づいて……唇だけじゃなく頬や首筋にもキスしてもらえる感触を、夢中で追ってた。


「好きだ、フルル……誰にも渡したくないくらい、フルルのことが好きだ」


 冒険者服のズボンを緩める手があって、中に手が入ってくるのが恥ずかしい。


 体を重ねて、今日は心も重ねられた気がした。

 終わった今は優しく頭を撫でてもらって、熱くなった体を寄せ合ってる。

 私もオルディアのことが大好きだよって伝えて……必死に体を寄せて呼吸しながら、抱きしめてた。




 その後はみんなでご飯に行ったけど、オルディアが「気を使わせたから」って奢ってくれることになった。

 旅の資金も乏しいからありがたくいただくことにしたんだけど、私の隣に座る魔王が思い出し笑いしてる。


「まさかティーカーにまで見抜かれていたなんてな。……だから水遊びを誘ってくれたのか」


 親友だけど、ティーカーは結構鈍いもんね。

 でも金髪に青の目の幼馴染は遠慮なく大食らいしながら、口の端を持ち上げた。


「わかるって。あんまり見せないけど、フルルと両思いになってからは特に独占欲強くなったもんな、オルディア」


「えっ、そうなの!?」


「フルルが俺とオルディアのどっちを選ぶかわからないーって遠慮してた時は、まだ『フルルの希望が僕の希望だ』って諦めてたところもあったけどな。

 ちゃんと自分のことが好きだってわかってからは、たまに圧感じることもある。

 ……あ、フルル、その肉まんうまそう。一口くれよ」


「これ? いいよ、手でちぎっちゃっていいよね?

 はい……ちょっとティーカー、フォークくらい離しなよ。

 もー、熱いから直接口に入れちゃっていい? ほら、あーんしてっ」


 手渡しが面倒だから口に突っ込んだんだけど、青の目線がチラチラって動いたからつい追った。

 ……眉間に少し皺の寄ったオルディアの口がちょっと尖ってて、頬が膨らんでる気がする。

 私が「あ」って驚いて、ティーカーが「へへ」って笑ったら、オルディアは恥ずかしそうにそっぽ向いた。


「……僕にだって独占欲くらいある。

 フルルは昔からティーカーと距離が近いし。

 今みたいに無意識に接するから……ずるいって思っても仕方ないだろう」


 いいわけが恥ずかしいみたいに赤くなっていくから、可愛くて胸が締め付けられた気がした。


「あんまり食わないから、いつも俺がフルルと飯共有して『あーん』されるの羨ましそうにしてるんだよなぁ。

 オルディアにもやってやればいいんじゃね?


「え!? えっと……じゃあ……あーん?」


 ちぎった肉まんを差し出すだけなのに、私まで顔が熱くなってる。

 それでも食べさせてあげると、味わったオルディアが嬉しそうに笑った。


「美味しい。ありがとう、フルル」


 大人になって綺麗になったオルディアに、ふんわり、可愛らしい笑顔が花咲いてる。


 信頼と安心がいっぱい詰まった昔のレムスの笑顔とオルディアの今の笑顔が重なった気がして、胸がキューって締め付けられてる気がした。


「あー熱い熱い、肉まんより熱いぜ」


 つい見とれちゃってると、ティーカーに茶化された。

 でもオルディアに愛されてる気がして……やきもち妬いてもらえるのが嬉しいってこういうことなんだって、ちょっと理解できた気がした。

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