独占欲(前編)
今回はオルディアが二泊三日分のお休みが取れたから、一緒に冒険に出ていた。
いろんな人の依頼を受けて解決して、喜んでもらえる旅が続く。
お父さんから『魔王を倒して冒険の旅を終えた後、村を作るまでの間にも世界中を回った』って聞いてたことと同じなのかなって思いながら……同じ旅が出来ることをどこか誇らしく思いながら、私たちは冒険を続けた。
今日はシカルカっていう街の掲示板を見てたんだけど、古くなっても貼られたままの依頼を前に悩んでいた。
「んー……勇者あての依頼があるね。誰だろ」
オルディアも気づいたらしく、掲示板の文字を口にした。
「『勇者フルル様。この依頼に気づいたら依頼主の元へ来てもらえませんか』……?
この街にはフルルが勇者だと知る者がいるのか」
「シカルカはフルルが聖剣使って魔族と戦ったことがあるからな。
……あー……ナフィかな、もしかして」
「あ、そっか。『またシカルカに戻ってきたら、絶対に会いにきてほしい』って言ってくれてたもんね。
街に来たら、ギルドの掲示板をまず見に行くって思ったのかも……じゃあ受けようかな、久しぶりに会ってみたいしっ」
「……ナフィとは、どういう関係なんだ?」
「ナフィはね、私がこの街で助けた男の子なんだ。
ティーカーは偽物がやり合ってたから、会いたくないだろうけどね」
「会いたくないなー。多分めちゃくちゃ嫌われてる。スライムの王のせいなのになー」
お互いに笑っちゃったような出来事だ。
だけどナフィに会えば、懐かしい思い出話をオルディアにも出来る。
ティーカーは偽物との喧嘩を覚えてるから「まあ仕方ないよな」なんて微妙な顔をしてるけど、私たちは早速依頼を受けて指定されてる場所へ向かった。
冒険者ギルドから渡された依頼者の住所には、パン屋さんがあった。
「こんにちはー。依頼を受けてきました……」
「……え……っフルル? フルルだよな!?」
奥にいた男性店員が、私を見るなり大声で叫んだ。
カウンターを跳ね上げて駆け込んでくる相手は成長して背もかなり伸びてるけど、懐かしい顔だから抱きしめてくるのも受け止めた。
「ナフィ、久しぶり。……だめだよ、また泣いてるの?」
「だって……っフルルはまたシカルカに来てくれる、また会えるって信じてたのが、叶ったんだ……っこんなに嬉しいことないよ……っ」
ギュッと抱きついてくるナフィの背中をポンポンした。
出会った頃はまだ小さかったのに、やっぱり冒険の合間に年数が経ってるから人も成長する。
一緒に攫われて泣いてたナフィがこんなに大きくなったんだって感慨深かったけど、ティーカーが軽く私たちを引き剥がした。金髪に青の目の幼馴染は睨まれてるけど、平然としてる。
「うわ、薄情な仲間だ。こいつまだ一緒にいたの?」
「俺をそう呼ぶってことは、ナフィで間違いないな。
悪いけど、フルルはもう婚約者がいるからさ。遠慮してやって」
「お前が!? フルルのことをあんなにけなしておいて、よくも……っ」
「違うって。婚約者は俺じゃなくて……」
賑やかだなぁ、昔も仲が悪かったね。偽物のティーカー相手だけど。
ナフィが一方的に噛み付いて話が進まない感じは、今も変わっていない。
だから婚約者本人を紹介したほうが早いかなって、オルディアを振り返った。
「オルディア……」
「フルル、俺と結婚してくれ!」
え。
手を掴まれて、真下に視線を引き戻された。
片膝ついてしゃがみ込んだナフィが、私を真っ直ぐに見つめてくる。
「フルルのためにパン屋になった。
一生食わせていけるように、スキルも磨いた。
フルルがどれだけ大食いしたって大丈夫なくらい、俺はフルルのためにパンを焼き続ける。
だからシカルカで、俺の嫁さんになってくれ!」
「え。ごめん、ナフィ。私もう好きな人いるし、無理……」
「この薄情な仲間はやめておけってっ、顔はいいけど性格悪いだろ!?」
「あー……フルル。後ろ」
気まずそうなティーカーがそう言うから振り返ると、笑顔のオルディアが静かに私の隣に立った。
ナフィの手を私から外させると、オルディアが私の右手に嵌められたままの指輪を見せている。
「僕の婚約者だ。……フルルにあまり触らないでもらえるか」
「神官……? フルルの仲間って剣士と忍者、僧侶だったよな……。新顔?
なんだよ新参者のくせに。
フルルと出会ったのは俺の方が早いんだぞ、お前にフルルの何がわかるんだよ!」
「僕はフルルの幼馴染だ。
出会ったのがいつかというなら生まれた頃からになるが……それ以上に早いのか?」
「フルルの幼馴染は二人いたけど、この薄情男じゃない方の幼馴染は死んだって聞いてる。
お前が婚約者なら、フルルがどれだけ苦しみながら旅をしてたのか、知ってるのかよ。
あんな奴らに囲まれて、俺はフルルが苦労してるのも、実際に見たし聞いたんだ!
二人で生死の危機を乗り越えたことだってある。
お前の知らないフルルを、俺は知ってる!」
お店の人たちも見てるしそろそろ止めようと思ってるのに、オルディアが手を握って静止してくるから言葉が出ない。
ナフィは興奮して言い募るけど、反対にオルディアは冷静に受け応えてる。
「そもそも神官が妻帯していいのかよ、聖神一筋じゃないこと自体が問題だろ!」
「神官は最も厳しいとされるヴェルガー派を除き、妻帯を認められている。
僕も正式にフルルに婚約を申し込んで受け入れてもらえた。副教皇も知って認めている。……他に疑問はあるか?」
ティーカーと違って冷静に詰めてくるオルディアに、ナフィも流石に言葉が出なくなった。
隙を見て、オルディアが握ったままの手を私から繋ぎ直した。
婚約指輪が見えるように振ったけど、私の答えなんて最初から最後まで同じだ。
「ごめんナフィ、私はオルディアと結婚するんだ。
大切な幼馴染がいたって話したけど、神官の彼がそう。魔族に攫われたんだけど、実は生きてて再会できたんだよね。
また私に会いたいって思ってくれてありがとう。
……でもごめん、その気持ちには答えられないや。
私のために腕を磨いてくれたみたいだから、パンだけたくさん買って帰るよ。他に好きな人見つけてね」
「フルル……っ」
「あんな情けない落ちこぼれ勇者に惚れちゃうようなところが、ナフィらしいけどね。
私は勇者として、まだ旅を続けてるんだ。
またこうしてシカルカにきた時は、ナフィのところにも寄らせてもらうよ。
だから……これからも、私の大切なお友達でいてよ。ね?」
お友達でありたい私に、ナフィは肩を落とした。
床を眺めながらいっぱい考えてたみたいだけど、諦めたみたいで頷くと泣き顔でも「フルルが元気でよかった」って握手だけしてくれた。
だから今日は普通のお客さんとしてパンをたくさん買って、齧りながらギルドに戻った。
「パン、すっごく美味しい!
ナフィが店長みたいだったね。依頼の住所がパン屋さんだったし、自宅を改装したのかな。
腕磨いたんだろうなー、このパンすっごく香りもいいし、素材が引き立ってるよ。
はい、オルディアも……あれ、いらない?」
一番お店の味がわかりやすそうな丸パンを渡そうとしたけど、オルディアには笑顔で拒否された。
少食なのはわかってるけど、味見すら嫌なんて……初対面の印象悪すぎたのかもって気づいたら、それ以上は勧められなかった。
「ティーカーは食べるでしょ、一個どう?」
「おう。ナフィがどれだけパン職人としてのスキル磨いたか見せてもらおうかな。
……うわ、うまっ。ふわふわもちもち。自信持つだけあるな」
ティーカーは受け取って食べて、目を輝かせてた。
私ももう一つ食べたけど、世界で何番目になれちゃうんだろうってくらい美味しい。
今度はクリームパンをくわえたら、オルディアが私の腕からパンを袋ごと取り上げた。
もしかして食べるのかなって思ったら、空いた手を取って繋いでくるから、細い指を意識した体が跳ね上がってた。
「随分入れ込まれていたが、あのナフィとフルルはどういう関係だったんだ」
「あ、えっとね……十二歳くらいの時かな、シカルカで大勢の冒険者の募集依頼を一緒に受けたんだ。大型魔物の討伐って書かれてた。
そうしたら魔族が雇い主で、全員まとめて攫われちゃってさ。
抵抗したら気絶させられてるし、人間を詰め込んでる倉庫から必死に脱出しようとしたんだけど、かなり厳重に施錠されてるから時間が掛かっちゃったんだよね……」
「そういったゴタゴタを一緒に経験して、仲間意識持ってたのが親への反抗心で冒険者やってたナフィ。
俺の偽物は助けにも行かなくて、合流したら「フルルが弱いから」って責め始めてさ。
だからナフィが掴み掛かりながら『薄情もの』って大喧嘩してたな」
「まあ、偽物のいうことも理解出来ないわけじゃなかったんだよね。
『勇者が攫われるなんてあり得ない、いつまでも強くならないフルルじゃ、魔王を倒す俺たちの夢は叶わない』って言われて……おかげで悔しいけど強くなろうって、頑張れたんだ」
「一連をナフィは見た上で、俺は心配もせずに口だけ出すって思われてるから『薄情な仲間』って呼ばれてる。
……いっておくけど、フルルのために俺も頑張ってたからな?」
「そっか、聖剣の中で一緒に戦ってくれてたんだよね。
力量が上の魔族だったのに、ギリギリ勝てたの、覚えてる?
最後の一撃、聖剣との一体感がある感じだったけど……もしかして?!」
「俺もフルルと一緒に戦えた気がした。
……へへ、リアネも『勇者フルルなら勝てる』ってずっと励ましてくれてたんだぜ? ……懐かしいな……」
賑やかな勇者パーティはワイワイ話しながら、パン片手にギルドに向かった。
依頼は終わったけれど、依頼主に報酬は返してもらうことにした。会いに行っただけだから、私も流石に受け取れない。
次の依頼を探そうかって掲示板に移動しながら……こっそり、金髪の幼馴染の背中を引っ張った。
「ねえねえ、ティーカー。気づいてる?」
「気づかないわけないだろ。
……オルディア、あの時と同じだよな」
幼馴染二人は、徐々に始まっていた勇者パーティの異変に気づいていた。
「ん? 何かあったか。二人で内緒話とはずるいな」
話題に挙げられているとは知らない魔王が、笑顔で私たちの肩を叩いた。
――胸がなんだかギュッとする。
一見、普通に見えるけれど……今のオルディアは、目の奥が笑っていないんだ。
笑顔で武装して感情を隠してるのは、最大限に拗ねた時のレムスの特徴。
そう知る幼馴染二人は、昔を思い出していた。




