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【ギリシャ物語】南国。  作者: 銀糸雀
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「本当の気持ち…?」

「ずっと思っていた」

アポロンの指がまた、砂色の髪を優しく梳き始める。

「私の世界は、完全なる片割れの姉上アルテミスと私達を生んでくれた(レト)で完結している、と。

オリンポスで父上や他の神々と接しても、私は常にレトの輝ける双神の一人であり、それ以上に何かを受け入れることを拒んでいた。

…そこに、お前が現れた」

ふっと笑みが零れる。

「まるでハンマーで卵の殻を叩き割るように、お前は易々と私の中に入ってきた。

牛を盗んで怒らせ、竪琴で心を掴み、葦笛(シュリンクス)を聞かせて、私の感情を今までにないくらい掻き乱した。

ただ平穏で穏やかだった日々は簡単に蹂躙され、お前の小さな手で突然喧騒の中に放り出されたような気持ちだった」

「うわー、僕、凄い迷惑じゃ…」

「だから、感謝してる」

ヘルメスの言葉を遮って、アポロンは言葉を紡ぐ。南国の海よりも深く青い瞳がヘルメスをじっと見つめる。

「感謝している。…近付いて来てくれて、傍に居てくれて、ありがとう」

ヘルメスは2、3回口をパクパクと開け閉めして、やがて、耳まで真っ赤に染めた。

「…なんでそういうことがしれっと言えるのかな、君は!」



夜明け前、傍らの温もりをそっと抜け出して、ヘルメスはプールに向かった。

泉から引いたという清らかな水の中に、全裸のまま飛び込む。

自分が起こした水飛沫を両手で掻いて進むと、やがて登り始めた太陽が水面に反射してキラキラ輝く。

その中に浮んでは沈むヘルメスの象牙色の肌も、その光が反射して艶やかに煌かせた。

プールサイドに立ったアポロンは、暫くその情景を眺めていたが、やがて何かを取りに引き返した。

ヘルメスが気付いた時には、彼は水際の長椅子に足を組んで腰掛け、しきりに羽根ペンを動かしていた。

「…起こしちゃった?」

ヘルメスは、プールの縁に腕を乗せてアポロンを見上げる。

「いや、さっき起きたところだ」

「何書いてるの?」

アポロンは手を止めて、紙を彼の方に広げて見せる。

そこには、精密な筆で、ヘルメスの泳ぐさまが幾つもスケッチされていた。

あまりにも幻想的に、そして優美に描かれた自分の姿に、ヘルメスは絶句する。

「……。それ絶対、人に見せないでね」

「勿論。こんなお前を人に分け与える気はない」

わ~~~!!とか叫び声を上げそうになり、ヘルメスは一瞬水に潜った。

「…時々、君の考えに付いていけないと真剣に思う」

「そうか?昨夜は随分可愛かったが」

くすくすと笑い声を漏らすアポロンを睨みつけて、ヘルメスはちょっと…と彼を招いた。

スケッチを置いて水辺に近付くアポロンに、エメラルドの瞳がきらりと光る。

「わっ!」

突然足を掴んで引き摺り落とされ、アポロンの手が空を掻く。

バッシャーン!と派手な水飛沫が上がり、ヘルメスはお腹を抱えて笑い転げた。

「お返し!」

「コラ、待て!!」

アポロンの手から逃れ、広いプールの中をヘルメスは逃げ回った。

しなやかな肢体が浮んでは潜り、何か美しい海の動物を相手にしている錯覚を起こさせる。

やがて、笑い過ぎて息が弾んだ身体を引き寄せ、アポロンが獲物を腕にする。

「ごめんごめんってば!もう…」

くくく、と笑いながら身を捩り、逃れようとするヘルメスの腰と頭を掴み、アポロンはその唇に深く口付けた。

「んっ…」

暴れていた力があっという間に緩み、大人しくなる。

柔らかな舌を吸い、出し入れしながら絡ませ、敏感な顎の裏をなぞる。

頭を抑えていた手が下に滑り、優しく耳元を愛撫する。

存分にその甘い感触を味わってから顔を離すと、ヘルメスはコテンと胸に額を付けた。

「この休暇の間だけだからね、こういうことするの…」

「判っている」

休暇が終われば、イリスの虹の橋が二人を迎えに来るだろう。

そして、二人はまた、神としての忙しい職務に戻る。もう二度と、こんなゆっくりした時間が持てるかどうか判らない。

それでも、今度は、

「忘れない」

アポロンの呟きに、ヘルメスが顔を上げた。

エメラルド色の瞳が見開かれ、それからにっこりと細められる。



「…そろそろ朝食にしようか。僕、お腹空いたよ」

「見たことのないフルーツが沢山あるが…このゴツゴツした果物はどうやって食べるんだ?」

「え~と、カードに何か書いてあるよ。Mangosteen??」

「名前だけじゃなくて、食べ方も書いて置いてくれればいいのだが…」

「ナイフがないから、多分手で剥けるんだろうね。う~ん、アポロン、矢を持ってきてちょっとつついてくれない?」

「…私の弓矢を、そういう用途に使うな」

「だって、ケリュケイオンで叩き割ると潰れちゃいそうだよ?」

「………」


ずっと僕は君と共に。















●あとがき

わたくしめの妄想に長々とお付き合い頂き、本当にありがとうございました!

…すいません。微塵もファンタジーじゃなくてすみません(土下座)

なんとなく、中盤の『滝の下で飛沫を浴びるヘルメスの図』が、頭にぱっと浮んで、それを膨らませて書いた話です。

『失恋。』に比べると、だいぶヘルメスが乙女思考になっている気がします。

男らしい、かっこいいヘルメスが書きたいんだけどなぁ…(BLという時点で色々捨てているが)

そして、今回のテーマは、Southern All Starsの『TUNAMI』でした。

全国のサザンファンの皆様、すみません!(再び土下座)

なんかこう、南国の島でのひと夏の思い出的な甘酸っぱい恋愛物?を目指してみたのですが、どうでしょうか!(舞台は思い切り1月ですが)

そして、やはり物足りない勇者な方には、この章の隙間の話をムーンライトノベルズに『楽園の夜。』というタイトルで投稿しますので、そちらもぜひ。


次は、一応ノーマルな?ギリシャ神話ものを書くつもりです。

ヘルメスとアポロンは(多分)出演予定。ヒロインはアンピトリテ様。

宜しければ、またお付き合い下さいませ。

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