ソルベ
「かっこいいユリウス」がお好きな方はスキップすることをおすすめします。
「フィー」
「ん?どうしたの?」
ある日の午後、突然甘い声とともに重みがのしかかって来た。
「何してるの?」
「来客用のベッドカバー新調したでしょ?家紋でも刺繍しようかと思って」
「ふぅん」
私は本当に暇なのだ。十数室ある客室のベッドカバー全てに刺繍を施そうと思うレベルで。
何しろ何もすることがない。領地に暮らしているのでお茶会もないし、二日かけてパーティーに行きたいとも思えない。当主夫妻でもないし、招待もかなり少ない。
たまに領地経営を手伝ったりするが、「フィーはゆっくりしてて」とユーリに追い出されるのである。
「重いしやりづらいからちょっとどけて欲しいんだけど」
「んー」
ユーリが私の頬にキスをする。
正直に言おう。
ユーリの愛が重い。
隙あらばべたべたべたべたくっついてくるのである。
「ユーリ」
「んー」
次はぎゅっと抱き締めてくる。
暑い。重たい。
「仕事終わったの?」
「んーん、ちょっと休憩」
「……そう」
別にユーリは甘えたではない。逆に私を甘やかしたいタイプだ。
けれど、構ってちゃんであり、すぐにくっついてくる。
考えてみて欲しい。
若々しくキラキラした王子様のような人ならいい。
しかし、ユーリはいくらルックス最高でかっこいいとはいえ、40過ぎのおっさんなのだ。
「フィー」
「分かった、分かったから。なんか食べよ?」
「ん」
私がベッドカバーと針を置くと、ユーリはひょいと私を横抱きにした。侍女に目配せしておやつを用意させるのも忘れない。
「今日は暑いし、ソルベを作って貰ってるから」
「ん、ありがとう」
私には普通に甘いもの、ユーリには甘さ控えめなもの。
こうやってにこっと笑ってお礼を言われると、何だか可愛くて、仕方ないなぁと思ってしまうのだ。
「今何枚目?」
「六枚目」
「え、早いな。昨日始めたばっかりでしょ?」
「うん。けど私が第一を次席で卒業したの忘れてる?」
「覚えてるけど」
ちゅ、と唇同士が触れ合う。
ユーリはこういう脈略のないところでちょいちょいキスを仕掛けてくるのだ。まあ、ユーリとのキスは好きなのでそれはいいのだけれど。
ところでお気付きだろうか。ユーリの口調がびっくりするほど変わっていることに。私も急に口調が変わったからびっくりした。
ただ夜とかは結構意地悪な感じで、前みたいな口調なので大満足。昼とのギャップがいい。
「お待たせしました。緑の方がピスタチオのソルベ、紫の方がぶどうのソルベです」
私とユーリの瞳の色に合わせているのだろう。すごく美味しい。
なんかユーリがめっちゃ見てくる。
「何?」
「そのクリーム、ちょっと口の端に残してくれない?」
「え」
ちょっと言っている意味が分からない。
「口の端についたクリームを舐め取るのやりたい」
全く言っている意味が分からない。
舐め取る?いや指で拭ってそれを舐めるのなら分かるけど、舐め取る?
「フィー、お願い」
「や、やだ」
「フィー」
「ね、舐め取るってどういうこと……?」
「こういうこと」
ユーリは手をつけていなかったユーリのクリームを指で私の口の端につけ、それをぺろりと舐め取った。指をじゃないよ?
「なななななんてことするの!」
「真っ赤になってる。可愛い」
ユーリは嬉しそうに笑って、私に口づけた。
舌でとんとんと唇をノックされて、反射的に薄く開いてしまった。癖だ。良くない。
その隙間から舌が入り込んできた。
散々蹂躙して唇を離したユーリはにこにこと笑っている。
「甘い」
「もうっソルベが溶けるでしょ!」
ソルベは半分くらい溶けて、緑と紫が交じり合っていた。




