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精密検査の結果にこれといった所見はなく、僕は数日後に無事退院できた。
懐かしい家に戻ると、カレンダーは四月のページに変わっていた。
翌日、モモちゃんが両親に連れられて山丘家を訪ねてきた。
我が家のリビングで、彼女は泣きながら僕と僕の家族に詫びた。
「本当にすいません、私が軽率だったんです。夏原さんの写真をアップして、その……注目を浴びるのが嬉しくて。優磨くんを殴ったあの男の人は、ネットで知り合った私の友人でした。きれいな写真を撮る人で、素敵な人だって思い込んでて――あんな怖い人だなんて、想像もしてなくて……!」
彼女の両親も深々と頭を下がる。
「優磨くん、本当に申し訳ない。うちの娘のせいで君を危険な目に合わせて。それなのに娘を守ってくださって。本当に、本当に、君は立派な人だ。本当にありがとう!」
桃谷さんが差し出した治療費を遠慮して、お父さんとお母さんはモモちゃんの無事だけを祝福してくれた。
そんな二人が僕は誇らしい。もし僕が立派だとしたら、この二人が育ててくれたからだって、自信をもって言える。
そして、モモちゃんが僕に謝ってくれた、さらに翌日。
夏原家の人々が――涼乃の両親が、彼女とともに現れた。
彼女のお母さんとは中ニの六月に顔を合わせて以来、お父さんとは初めての対面だった。
学校のあらゆる行事に顔を出さず、卒業式にすら参列しなかった涼乃の両親。母親同様、父親もずいぶん若くて身綺麗だった。
二人ともスーツをかっちりと着こなし、玄関先で頭を下げた。
母親の方は僕の方を見ようとしない。前に話しかけたので、嫌がられてるのかもしれない。
「娘がこちらのご子息に大変お世話になりまして。まことにありがとうございました」
リビングにどうですか、と誘うお母さんに首を振り、夏原家の両親は淡々と定型的な謝辞を述べた。
その後ろで、涼乃がうなだれている。
久しぶりに会う彼女がこんなひしゃげた姿なのは、耐え難いほど悲しかった。
僕たちはちゃんと助かったのに。もう、死の運命に怯えながら生きなくてもいいのに。そのことを手放しで喜びたいのに。
「それではこれで失礼します」
と、辞去しようとする夏原夫妻に、お父さんが声をかけた。
「もしよかったら、娘さんだけでももう少しお話しさせてもらえませんか? 普段から優磨がお世話になっているようなので」
視線が涼乃に集まる。彼女は驚きつつうなずいた。
「本人がよければ、それで。娘のことは本人にまかせてますので……」
そう言って、冷ややかな調子を一度も崩さないまま、彼らは山丘家をあとにした。




