終章 1
僕は救急車で運ばれた。頭を蹴られ大量の血を流したこともあり、精密検査と治療が必要だった。
実はそのあたりの記憶は全くない。助かった安堵で気を失ってから、ずいぶん長く眠っていたみたいだから。
病院のベッドの上で目を開けると、そこにお父さんとお母さんがいた。二人とも目を泣きはらして僕の目覚めを待っていてくれた。
「もう起きないかと思った」
お母さんが僕の手を握ってくれた。その肩を、お父さんが支えている。
その顔を見て、記憶が一気によみがえった。
一度本当に死んだこと。死神が与えてくれた二度目のチャレンジでも、もう助からないと覚悟を決めていたこと。
そして、その絶望の淵に立ったあの瞬間、ゴルフのパターを武器にして、お父さんが駆けつけてくれたことを。
「お父さん……かっこよかったです」
とりあえず思いついたことを言うと、軽く笑われた。
「優磨の方がかっこいいよ。あんなに殴られながら女の子たちを守って。彼女たちも念のため入院したよ。もう帰宅できたけどね。これからカウンセリングを受けるらしい」
そうですか、と僕はうなる。確かに命は救われたけど、怖い思いをしたことに変わりはない。二人のことが心配だった。
「他人事じゃないよ。お前にも心のケアが必要だ。その前に怪我を治さなきゃいけないけど」
うなずきながら尋ねる。
「はい。でも、あの……どうして助けに来れたんですか?」
それは賢都に聞きなさい、とお父さんは背後に視線を送った。
病室の壁に、賢都と杏奈がもたれている。妹の目元も真っ赤だった。
兄はやや気まずそうに僕のベッドに近づいて、それでもちゃんと説明してくれた。
「警察を呼べってお前が言っただろ? お前が俺に話しかけるなんて尋常じゃないって思って、ホントに百十番したんだ。でも、うまく説明できねーんだよ、駒沢公園で女の子が襲われてるって情報だけじゃ」
賢都は頭をかいた。
「それで電話をつないだまま困ってたら、父さんがちょうど帰宅してきて」
警察と電話をしている長男に驚愕したらしい。
「警察を動かすより、自分の親を説得するほうが簡単だろ? それで車で駒沢公園に駆けつけたってわけ」
お前がボコボコに殴られてるからびびったよ、と賢都は鼻の頭をかく。
「犯人どもの顔写真は警察に提出したし、何より車が残ってた。すぐに全員捕まるだろ」
「……いろいろとありがとう」
「たいしたことないよ。俺はお前みたいに殴られたわけじゃねーし」
彼はため息混じりに笑った。
なんだか不思議だ。あんなにすれ違ってた賢都と、僕はこうして自然に会話をしている。




