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死神が僕にくれた幸福な運命  作者: 風乃あむり
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 僕は自転車で疾走する。すでに陽射しはかげり、世田谷の街のそこかしこに夜が暗くわだかまり始めていた。


 信号待ちのたびにスマホを確認したけど、送ったメッセージに既読がつかない。電話をしても出てくれない。


 どんな状況なんだ? 楽しく過ごしてスマホを忘れてる――そんなことはない、それだけは分かる。


 間違いない。なにかまずいことが涼乃の身に起こっている。

 長くは生きられないと予言された彼女の身に――!


 駒沢通りを西進する。

 問題は彼女がどこにいるかだ。駒沢公園はあまりに広い。闇雲に探している暇はないのに。


 間もなく公園が見えるというところで、ぶるるとポケットのスマホが震えて僕は急ブレーキをかけた。

 

 涼乃からの返信か!? 

 祈るようにスマホの画面に食いついた。そして、ロック画面の表示に八つ当たりしそうになる。


 本山だった。いつもの軽い調子で「おーい、暇だろ?遊ぼうぜ」というメッセージ。


 くそっ、ふざけんなよこんな時に!! 一瞬たりとも無駄にできないこんな時に、いつものノリでちょっかい出してきやがって!


「にゃあ」


 鼓膜を掠めるように、小さな鳴き声が聞こえた。びゅんびゅん車が行き交う通りでその細い鳴き声を耳が拾えたのは、本山のメッセージで立ち止まったおかげだった。


 足もとに黒猫がいた。

 金色の瞳で自転車の僕を見上げるその猫は、異様に長い尻尾を持っていて――。


「クロ……っ!!」


 ひどくやつれた体が、僕の知ってる黒猫だということを証明していた。


 何度も僕を涼乃のもとに導いてくれたそいつは、


「にゃーあ」


とひと鳴きして走り出した。


 信号が青に変わった横断歩道を渡り、駒沢公園の方へ――。


「まさか、また僕を涼乃のもとに連れて行ってくれるのか……?」


僕は決めた。ペダルを力いっぱい漕ぎ出す。迷っている余裕はない。この猫を信じるんだ。


 頼む! 朝の公園に導いてくれたように、寒空に凍えて眠った涼乃のもとに連れて行ってくれたように。今日も僕を涼乃のもとに導いてくれ――!!


 緑が茂る公園が見えてきた。いくつもの照明が夜の闇から公園を守って、そこだけが煌々と明るい。

 黒猫はわき目をふらず突き進む。長い尻尾が僕を手招きするように揺れている。中央広場からのびる二本の高架をくぐって、駒沢通りを駆けていく。


 焦る。本当にこの猫について行っていいのか? もう駒沢公園はそこにあるのに。冷や汗をぬぐう。


 一分でも、一秒でもはやく涼乃のもとにたどりつかなきゃいけない。間違えることはできない。ハンドルを握る手に力が入る。


 高架を抜けたところで猫の足が左に向いた。陸上競技場近くの駐車場に滑りこむ。その長い尻尾を追って、僕もハンドルを左に切った。


 車はまばらだった。けれど電灯のあかりを逃れた場所に、こんもりと黒い塊がある。人影だ。数名の男たちに囲まれる、二人の女の子。


「……ありがとうっ!!」


 僕は黒猫にお礼を言った。その姿はもう見当たらない。


 それでも心の底から叫んだ。本当にありがとう! 黒猫きみのおかげで、僕は正しくたどりつけたっ……!

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