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死神が僕にくれた幸福な運命  作者: 風乃あむり
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6


 受験を終えた三月初旬、僕たちは凪いだ海に漂うようなおだやかな日々を過ごしていた。


 涼乃は予定通り剣道の強豪校に合格して、すでにその学校の剣道部に顔を出し始めていた。僕も第一志望の都立高校に無事すべりこんだ。


 すべては順調だった。


 卒業式ではモモちゃんがわんわん泣いて、涼乃に抱きついていた。モモちゃんの「卒業しても仲良くしてね」という言葉に、今度は涼乃がぽろぽろ泣き出した。「ありがとう」「それは私のセリフだよ」って繰り返しながら。


 涼乃の両親はやはり現れなかったけど、彼女にそれを気にする様子はない。


 ――親が大事にしてくれなくても、ほかに誕生日をお祝いしてくれる人がいれば、それでいいんだよね?


 中学二年生の六月に彼女がこぼした言葉を思い出した。君の言う通りだったね、家族だけが世界じゃない。だって僕たちは、もう自分の人生を十四年も歩いたんだもの。


「優磨ー! 卒業してからも遊ぼうなー!」


 本山は最後の挨拶も軽やかだった。


「僕たち親友だからな、また遊んでやるよ」


 そう返すと、ケタケタ笑いながら去って行く。


「優磨、帰ろうか」


 山丘の両親が温かな笑顔を浮かべていた。涼乃に会釈をしていたから、僕たちの関係に気づいたのかもしれない。


「中学校、楽しかった?」


 お母さんに聞かれて、僕はしっかり頷いた。


「うん、本当に色々あったけど、最高の三年間だったよ」


 ✳︎


 卒業式を終えた僕らは、中学生でも高校生でもない中途半端で身の置きどころのない春を迎えていた。


 その日、涼乃はモモちゃんと“デート”に出かけていた。なんでもタピオカを飲んだり、桜のつぼみとともに涼乃の写真をおさめるらしい。前者が涼乃で、後者がモモちゃんの希望なんだろう。

 卒業しても仲良し、という二人の希望はちゃんと叶いそうだ。


 桜の開花にはまだはやいものの、世田谷の空はプールの底みたいに青くつきぬけて、風もおだやかないい一日だった。


 僕は家にいて、入学予定の高校から課された宿題に頭を抱えていた。


 ときどきスマホに涼乃から写真が送られてくる。


 タピオカを飲むためにわざわざ原宿なんて行ったのか。二人の自撮りの写真はいかにも楽しそう。いいなぁ、僕も涼乃と出かけたかった。


『これから駒沢公園に移動して、撮影会です』


 三時過ぎ、涼乃からまたメッセージが届いた。


『今日は夕焼けを背景に写真を撮る予定だそう。モモちゃんの写真仲間が合流するらしいので、ちょっと緊張』


 人見知りの涼乃らしいなぁ。でも最近ではモモちゃん以外にも友だちができ始めてるし、きっと大丈夫だろう。

 課題に飽きてしまってうーんと伸びをした。励ましのメッセージを涼乃に送って、そのままベッドに倒れこむ。


 少しだけ昼寝をしよう。今日は特に予定もないし、たまにはのんびりしたっていいだろう。


 自分に言い訳をしながら、僕は眠りの世界へ沈みこんだ。


 ✳︎


「あらら」


 死神の声が反響する。


「油断するなって言ったのに」


 呪詛の声が、続いていく。


「私との約束はまだ有効ですよ、って」


 くっくっくっ、と笑い声。それは、まるで自嘲するような調子で――。


「ほら、起きなさい、優磨君」


 ――涼乃さんを守るんでしょう?


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