17
涼乃の言葉の意味を全く捕まえられず、僕の思考はくるくると空回りしていた。
「えっ? ……えぇっ?」
――僕たち、付き合ってたよね?
去年の文化祭の日、ドレス姿の涼乃に告白したのだ。涼乃はあんなに嬉しそうにそれを受け入れてくれていたのに。
「僕たち、恋人同士じゃなかったの……?」
素っ頓狂な声を出す僕に、涼乃はびくりとも揺るがない真っ直ぐな視線を向けていた。
「そのつもりだったけど。でも文化祭の日、私が無理やり山丘君に“好き”って言わせちゃったから。私のわがままで恋人になってもらって……」
涼乃はそっと眉根を寄せた。
「クリスマスのデートの後から、優磨は私のこと避けてたでしょ?」
「それは……」
僕が言葉を詰まらせると、涼乃はそれを肯定だと受け取ったみたいだった。
「……優磨は、本当は私のこと好きじゃなかったんだよね? それなのに君は優しいから、私のために恋人になってくれたんだ」
「ちがっ」
身を乗り出して反論しようとしたけど、涼乃はそれを遮った。
「考えてみれば、優磨が私のこと好きになる理由なんて一つもないもの。私ばっかり優磨に助けてもらって、支えてもらって。何一つ返せるものなんてなかった」
だから、と涼乃は居住まいを整えた。
「優磨に、女の子としてちゃんと好きになってもらえるように、四月から頑張ったの」
――表情を明るく。口調は優しく。女子にも男子にも親切にして。
「そうやって、これまでより少しでもまともな人間になれたら、やり直すチャンスがもらえるかなと思って」
――中学三年生になって、涼乃は変わったと思ってた。それは全部僕のためだったのか。
胸がいっぱいで、苦しい。
僕なんかのために、君は必死になってくれてたんだ。
涼乃の勘違いを否定しなきゃいけない。でも、言葉が喉をつかえて出てこない。
「ちゃんとやり直したかったんだ。今度はちゃんと私から“好き”って言って、それで優磨に考えてほしかったの」
胸の前でしっかりと指を結んだまま、涼乃は僕の瞳を真っ直ぐ見つめた。
「山丘優磨君、もう一度言わせてください――あなたが好きです。今、私のことを好きじゃなくてもいいから……」
それ以上を言わせるわけにはいかなかった。
「違う……涼乃……っ」
悔しくて、恥ずかしくて、情けなくて。僕はその場でしゃがみ込んだ。涼乃の顔が見れない。頭を抱えたまま、小さく丸まった。
どうして僕は彼女の気持ちを考えてあげなかったんだろう。
一度きりのデートの後に離れていく。そんなひどいことをして、それでどれだけ彼女が傷つくか、どうして考えられなかったんだろう。
――勇気を出そう。
僕は顔を上げた。視線の先で、僕の大好きな運命の女の子が不安げな表情を浮かべている。
――涼乃は、僕のために変わらなきゃって思ってくれたんだ。
両足に力を入れる。ぐっと踏ん張って立ち上がった。
――僕も覚悟を決めるんだ。
「涼乃、大事な話があるんだ。全部話すと長くなるから、東京に戻ったら僕に一日君の時間をください」




