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二人でびしょ濡れになりながら参道を駆け降りて、途中の社殿の一つにたどりついた。
すでに多くの観光客が雨宿りをしていたけど本山たちの姿は見当たらなかった。僕たち二人は、社殿の隅ののき下、人が少ないところに潜り込んだ。雫を払い落として、ハンカチで頭を拭くと、次に気になるのは持ち物のことだった。
「うわぁ、ずぶ濡れ。スマホ大丈夫だったかなぁ?」
「げ、これはめちゃくちゃだ」
僕はカバンの中から『修学旅行のしおり』をつまんで取り出した。カバンの一番外側にあったせいで、表紙の小野小町のイラストが滲んでいる。ぼやーっと顔が曖昧にひろがって、十二単も原型をとどめていない。絶世の美女が不細工な物の怪と化していた。
僕たちはその惨状に顔を合わせて笑った。
「ひどいっ、小野小町に謝った方がいいよ、優磨」
「でも“水も滴るいい女”って言うじゃん」
ひとしきり笑った後、沈黙が流れた。降る雨のトンテンという音が、リズミカルに耳を撫でる。社殿の壁に身を預けて、降り頻る雨をただ眺めた。
涼乃はこだわりなく僕と隣り合ってくれて、それを僕はまるで当然みたいに受け止めて喜んでる。それじゃいけない。
だって、ずっと涼乃を避けていたのは僕なんだ。
僕は意を決して話しかけた。
「涼乃、さっきは僕のこと待っててくれてありがとう。本山たちは先に行っちゃったのに。あと、僕言わなきゃいけないことが……」
「それは違うよ、優磨。本山君は気を利かせて先に行ってくれたの」
涼乃は真剣な眼差しで僕を見た。
「私、ずっと優磨と話したいことがあったの」
心が音をたてて強張った。
ずっと彼女を避けていた僕に、彼女が伝えたいことは、たった一つのように思われた。
――別れてください。
そう言われるんだ。
もう僕みたいな人間、彼女には必要ないんだから。
泣きたくなった。
きっと、涼乃は本山と付き合うんだろう。もうそうなることが決まっていて、それであいつはあえて僕と涼乃を二人きりにしたんだろう。
涼乃が本山を選ぶのは当然だ。あいつは僕なんかよりずっといい奴だから。僕がイライラしていても、受け止めてそばにいてくれるくらい。
苦しい。全身が引きちぎられそうなほど苦しい。
こんなに君のことが好きなのに。
嫉妬でどうにかなってしまいそうなくらい。
死の恐怖を乗り越えちゃうくらい。
でも、涼乃に本山を選ばせたのは僕だ。
覚悟を決めて涼乃に向き直った。
涼乃から逃げたのは僕だ。僕はその責任をとらなきゃいけない。
世界と僕たちの間に、雨のカーテンが降りている。現実から切り離されたような二人だけの世界で、僕たちは互いに唇をきつく引き結んだ。
世界を切り裂くような沈黙の後、涼乃は両手の指を胸の前で結んで、祈るように口を開けた。
「山丘優磨君――大好きです。また私と付き合ってくれませんか?」




