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二人で写真を撮ってこいと言われても、こんなに人目をひくドレス姿の涼乃と校内を歩き回るわけにもいかない。
僕たちは体育館のわきを通ってこそこそと裏庭に移動した。体育祭の時に涼乃が一人でお弁当をひろげていた、みんなから忘れられた場所だ。
あの頃、青々と天に葉を差し出していた木々は、ほんのりと橙に色づきはじめていた。
「びっくりした。あの子――モモちゃんて面白い子だね」
「うん、すごく変わってる。なんか私のことずっと遠巻きに見てたんだって。どんな衣装が似合うかとか、メイクしてみたいとか、髪をいじらせてほしいとか考えながら」
なるほど。宝石の原石を見つけて、つい磨いてみたくなった、そんな感じなのかな。涼乃の美貌は女の子にも魅力的に映るのか。
「よかったね、クラスに話す相手ができて」
うん、と涼乃は素直に頬をゆるめた。
「文化祭、楽しかったよ。役者だったからぼっちにもならずにすんだし」
「そっか」
「山丘君がくれたお守りのおかげかな。これを鞄につけてると勇気が湧いてきて、クラスの人たちになるべく話しかけようって思えたから」
「すごい、ご利益のあるメロンパンだ」
くすくすと密やかな笑いが途絶えると、僕たちの間にころんと沈黙がころがった。
二人でいるのが気まずいと思ったのは初めてだった。
「……山丘くん、私のカレシだと思われてたみたいだね」
「そうだね。ごめんね、こんなブサイクが」
何言ってんのと涼乃は笑ったけど、冗談じゃなくて百パーセントの本心だった。
「……涼乃はキレイだから、将来は女優さんになるといいかもね」
「あーはいはい。山丘君て、私をおだてるのが得意だよね」
だから、冗談じゃないんだ。
体育館にいた誰もが、幕が上がって君が現れた時に歓声をあげたんだよ。
君はやっぱり“その他大勢”じゃない。
僕にとってだけ特別なわけじゃない。
それが悔しくて、胸が苦しい。
「将来か……」
涼乃は色づいた葉を散らす欅に背をあずけた。まつ毛を伏せた横顔に、僕の胸が鼓動をはやめる。紅をひいた唇がつややかで、見ちゃいけないものを見てしまった気分になった。
「ねぇ山丘君、この文化祭が終わったら、そろそろ受験勉強を始めなきゃいけないね」
「先生たちはそう言ってるよね。“はやく受験生になれ”って」
「まだ中学校の折り返し地点なのにね」
そう、まだこの学校に入学してから一年半しかたってない。涼乃と出会って、たった十八ヶ月。そのわずかの年月で、君は完全に僕の心を支配してしまった。
「ねぇ、山丘君は、進路はどうするの? 君はきっと偏差値の高い学校に行くのよね?」
空気がぴりりと肌を刺す。そんなことを訊かれたのは初めてだった。
「うーん……涼乃はやっぱりスポーツ推薦?」
「推薦が取れるかは分からないけど……私は剣道を高いレベルで続けられるところに行くつもり」
「そうだよね」
涼乃が竹刀を置くはずはない。彼女は将来を嘱望された選手で、それに剣道は親と彼女を結ぶか細いけれど唯一の糸なんだ。
「じゃあ涼乃は世田谷女子とか渋谷女学園とかを受験するってこと?」
涼乃がギョッと僕を見た。
「はぁ? なんでそんなこと知ってるの?」
「ほら、僕ってストーカーだから。剣道の強い学校を調べてみたんだよね」
そうしたら見事に女子校ばっかりだった。
僕は高校受験をする目的をどうしても見出せなかった。すぐに死ぬはずだから、というのが先に立ってしまうから。
僕の使命は涼乃を守ることだけだ。だったら、涼乃と同じ高校に進学できないかなと、そんなことを考えていた。それ以外に考えられなかった、とも言える。
なんとか無事に中学二年生になった涼乃だけど、いつ死の影にのまれてしまうかわからないから。油断できないから。
すぐそばにいて守りたかった。
でも。
「女子校じゃあ、僕はさすがに追いかけられないんだよなぁ」
ため息とともに吐き出すと、なぜか涼乃の顔が赤い。




