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「あれ、山丘くん?」
涼乃が体育館から出てくるところを待ち伏せした。
片付けもあるはずだから迷惑かなと思ったんだけど、本山に押し出されて否応なく来てしまった。
やっぱりやめておけばよかった。
遠目ではよく分からなかったけど、涼乃はしっかりメイクもしていて、頭の先から爪先までまるで本物の女優さんみたいだ。
僕なんかが近づいていいような女の子じゃない。彼女を遠くに感じた。
「……お疲れ様」
そう口にするのが精一杯だった。普段ならいくらでも彼女を称たたえる言葉が出てくるのに、今日はどこまでも圧倒されてしまって。
ありがとう、とはにかむ涼乃。
その僕たちの間に、小柄な女子が割って入った。
「うふふ、夏原さん、キレイでしょ? 私ね、ずーっと夏原さんにこの衣装着せてみたいと思ってたんだー!」
制服姿のその子は、冬の女王のマントを抱えて丸い目をキラキラさせている。小動物みたいな女の子だった。ウサギとか、リスみたいな。
「この衣装、この子のお姉さんのものなの」
涼乃がドレスの裾を持ち上げ、女の子は得意げに胸をはる。
「そう、うちのお姉ちゃんレイヤーだからね」
「れいやー……?」
「あ、分かりにくかったかな? コスプレイヤーのことだよ?」
ええと、アニメとか漫画のキャラになりきるやつだよな? なるほど、このクラスの衣装の質の高さはそのせいだったのか。
「お姉ちゃんに頼みこんで貸してもらったの! 夏原さんてスタイル抜群でしょ? この衣装を着て演技したら絶対バエると思って!!」
「ばえる……」
知らない世界の言葉が続々と飛び出してくるので、僕は英語の授業の時のようにただ復唱した。
「あ、ごめんねぇいきなりしゃべりまくって。私、桃谷っていうの。モモちゃんて呼んでね」
「え? あ、はい」
「君は山丘君だよね? 三組の委員長で、夏原さんのカレシ」
「え!? それは違いますけど!」
ぶんぶんと首を振るんだけど、モモちゃんは全くこちらの話を聞いていない。
「メイクも私がやったんだよ! ブルーのアイシャドウがこんなに似合うなんてすごいよねー! なかなかいないよ、こんなJC。めっちゃ推せるよね!?」
「う、うん……?」
「ふふ、山丘君も写真撮りたくなるでしょ? わかる、わかるよ、わかりみが深いよ! このドレス、本当は汚したくないからすぐ着替えてほしいんだけど、でもカレシならしようがない、やむを得ない、いたしかたない! 二人で記念に写真撮ってきていいよ!!」
「えぇ?」
早口でまくしたてられて固まった僕の背中を「ほらいってきなさい」とモモちゃんは強引に押し出した。




