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第六章 森の主(その一)

長いのでまた分割します。

アイデスの町で車を借りようとしているタルトに怪しい女が近づいてきます。

それは見たショコラはヤキモチを焼いて……

           *アイデスの町*

「だから、よせと言ってるんだ!」

 夜の静寂が不意に破られ、キャサリンは飲みかけのグラスを置いた。

 ……何かしら?

 ホテルの二階にある深夜営業のバーには、キャサリンの他に客はいない。今の大声は外から聞こえたものだった。

 声には聞き覚えがある。年老いたフロント係の声だ。

 興味を覚えたキャサリンは勘定を済ませると、バーの外へ出た。

 吹き抜けから一階を見下ろす。

「分からないかなあ」

 一人の若者……というより少年が、フロント係と押し問答していた。

「僕はただ、車を借りたいと言ってるだけなんだ。ちゃんと免許だって持ってるし」

「その車でどこへ行くんじゃ!? どうせ、あの森へ行く気じゃろ!! あの森では、何人も行方不明になっとる。それが、分かってて君のような若者を行かせるわけにはいかん!」

「だからあ、僕はその調査に行くんだよ」

「お前のような若造に、何ができる!!」

「失礼だな! こう見えても僕はオーパーツハンターだよ」

「オーパーツハンターだろうと、トレージャーハンターだろうと、あの森へ行って無事に帰った者はいない」

「あら? 無事に帰った者ならいるわよ。ここに」

 キャサリンは唐突に会話に割り込んだ。フロント係はギョっとしてキャサリンを見つめる。少年も何事かと振り返った。

 しばらく、キョトンとした目でキャサリンを見つめて口を開く。

「お姉さん、あの森に行った事あるの?」

「ええ。今はあそこで暮らしているの。いいところよ」

 フロント係が間に割って入った。

「君! この女の話なんかに、耳を貸してはいかん」

「失礼なフロントね。私達は客よ。まったく、田舎ホテルは接客態度がなってないわね」

「お姉さん、それ言い過ぎ、言い過ぎ」

 慌てて、少年はフォローした。

「言い過ぎじゃないわ。だいたい、君はあの森がどんなところか、知ってて入るんでしょ。もちろん対策も考えての上で、車を借りたいのでしょう」

「ええ、そりゃあ……まあ」

「だそうだから、貸して上げなさいよ」

「だまれ! 人が親切で止めてやっていると言うのに」

「親切ですって!? 何も知らない人間が、あそこに行くのを止めるのなら、確かに親切だけど、何もかも承知の上で行く人間を止めるのは、いらぬお節介というものよ」

「なんだと!!」

「君。こんな分からず屋と話したってしょうがないわ。明日は私の車で連れて行って上げる。ここの車なんか借りる必要ないわ」

「でも、僕の他にもう一人いるんですけど。それに荷物もいっぱいあるし」

「大丈夫よ。お姉さんの車おっきいから」

「はあ……しかし………」

「もちろん、お代は要らないわ」

「ぜひ、乗せて下さい」

 商談は成立した。

「おい止すんだ。その女の誘いにのっちゃいかん。その女どっかおかしんだ」

 フロント係の声を背に浴びながら、二人はその場を立ち去った。

「なんか、失礼な事言ってますよ」

「ほっときなさい。ところで君。翻訳機を使っているけど、英語は喋れないの?」

「ええ。日本語しか喋れなくて」

「私はキャサリン・クライトン。あなたは?」

 急にキャサリンが日本語を話し出したので、少年は少し戸惑った。

「あ……僕は宮下瑤斗です。よろしく」

 キャサリンは、そのままタルトを二階のバーに促した。

「あの、僕は未成年だから酒は……」

 こんな事を言っているが、タルトは十五の頃から親の目を盗んでは、酒を飲んでいたのである。〈ネフェリット〉に乗り込んでからも、ショコラやミルの見ていない所でモンブランとしょっちゅう酒を酌み交していた。

 実際、かなりの酒豪である。

「十八才なら、少しくらい、いいでしょ」

「そ……そうですね。少しくらいなら」

「駄目です! 絶対!!」

 背後から突然掛かった少女の声に、タルトはまともにうろたえた。

 こめかみに汗を浮かべながら彼はそうっとふりかえる。


            *〈ショコラ〉


 まったく、もう! タルトってば!!

 部屋にいないと思ったら、こんなところで、金髪美人とデレデレして……

「や……やあ。ショコラ」

「『やあ。ショコラ』じゃないわよ!! なにやってるのよ!! こんなところで!?」

「なにって」タルトは少し考えた。「明日使う車の調達」

「酒場で?」

「レンタカー借りようと思ったら、このお姉さんが無料で乗せてくれると言うから……」

 タルトは隣に座っている金髪女を示す。

 女はあたしの方を見て言った。

「誰なの? この可愛いお嬢ちゃんは」

お……お嬢ちゃん!! そりゃあ、あたしは背が低いし童顔だからよくそう言われるけど、この女に言われるとなんかムカつく。

「タルト君の妹かしら?」

「妹じゃありません!」

あたしは間髪を入れずに否定すると、タルトと女の間に強引に割り込んだ。

「彼女です」

そう言って、あたしはタルトの右腕にガシッとしがみつく。

「おい。ショコラ……」

「キスしたくせに」

「いや、あれは……」

「ミルにチクる」

「………ショコラ。何か誤解してない」

「タルトが、あたしの目を盗んで、ナンパをしていたと解釈している」

「だから、そうじゃなくって、僕はこの人と明日の打ち合わせをしようと思っただけで」

「あら? 私は、それに託つけて、逆ナンするつもりだったんだけど……」

 女は悪びれる様子もなくそう言った。

「ジョークよ。ジョーク」

女は左手で口をおさえ、右手をひらひらさせて言った。

「そんな、怖い目で見ないでよ」

 いや、見てやる。徹底的に睨んでやる。

「あの……お客さん」

ウエートレスさんがおずおずとあたし達に声を掛けてくるまで、あたしは睨み続けていた。

「御注文は何になさいます?」

「私はバーボンを」

「僕は水わ……」

「あたし達は水です!!」

 タルトが水割りと言いかけたの、あたしは無理やり制して言った。

「ガニメドの水、カリストの水、エウロパの水、イオの水とございますが」

 なんでそんなに種類があるのよ!? 水なんて、みんなH2Oじゃないの?

「それじゃイオの水を」

「かしこまりました」

 ウエートレスさんは、店の奥にひっ込んだ。

「ねえ、なんでイオの水なんてあるの? 衛星〈イオ〉は、とっくの昔に壊れたんじゃ?」

「いや……僕に聞かれても、なんか珍しいから、つい注文してしまっただけで……」

「それはね」金髪女が説明を始めた。「衛星〈イオ〉のかけらを砕いて、この軌道リングの土壌を作ったわけだけど、砕かないで大きな岩のまま軌道リングに貼り付けた物もあるわけ。そんな岩山の中には、太古の水を内部に閉じ込めているものもあるのよ。それを抽出したのがイオの水ってわけ」

「そうなの? でも、ガリレオ衛星の天然水って不純物が一杯で、蒸留しないと飲めないはずじゃなかったっけ?」

「あら? 天然水じゃないわよ。単に蒸留水に、原産地名を付けただけだから」

 それって、詐欺って言わんか? まあ、天然水とは誰も言ってないから嘘ではないけど……

「あの、ところでキャサリンさん」キャサリンていうんだ、この人。「あの森の事話してもらえませんか?」

「え? あの森って?」

「キャサリンさんって、あの森に詳しいそうなんだ」

「なんだ。ナンパしてた分けじゃないのか」

「お前、ずっとそう思っていたのか!?」

「うん」

「あの、話をしていいかしら?」

 キャサリンさんは、少々いらただしげに言った。

「あ! どうぞ、どうそ」

「その前に確認しておきたいんだけど、二人共絶対に明日、あの森へ行くのね?」

「ええ」「もちろん」

「実はね、あの森の事はみだりに人には話せないの。だから、話を聞いた以上は必ず、森へは来て欲しいの。それと、これから私が話す事は決して他言無用よ。森へ行かない人には絶対、話しては駄目。この約束、守れるかしら?」

 なんか、どっかの童話みたいな話ね。

「守れます」

「守ります」

「いいわ。ただし、この約束を破ったら、あなた達に呪いが掛かるわよ」

 の……呪い? なんて時代錯誤な脅し。

「あれは、一ケ月前の事かしら。生活に疲れた私はある人に誘われて。この森へ来たわ。最初は普通の森と変わりないように見えたけど、奥へ入ってみるとそこが楽園だって分かったの。森の中はとても綺麗で、落ち葉も下草もなかった」

 誰かが常に手入れしているのかな?

「毒虫や蛇や蜘蛛なんて気持ち悪い動物はいなかったけど、可愛い小鳥や小動物、ひょうきんな熊がいたわ」

「ちょっと! 熊なんかいたら、危ないんじゃないの!?」

「とんでもない。あそこの熊はとっても親切よ。それに、あの森の動物達はみんな人の言葉が分かるの」

 この女、大丈夫かしら? ひょっとして紙一重の人なのでは……

「森の中心には、町があるの。小綺麗な家がいっぱい建っていて、宮殿みたいな家もあったわ」

「そこに、人は住んでいるんですか?」

「ええ。大勢いたわ。みんなこの森に入って行方不明になったって人達よ」

「なんで、この森の人達は帰って来れないんですか?」

「帰って来ようと思えば帰れるわ。ただし、森の主の許可を得ないで、森を出たら、もう二度と森に入れてもらえないの。許可を得て出てくる人もいるけど、この森の秘密を喋る分けにはいかないので、結局行方不明のままなのよね」

「でも、その人達ってどうやって生活しているの?特に食料とか?」

「そんな心配はまったくないわ。あの森では欲しいと思ったものは、何でも手に入るの。服でも、家でも、食べ物でも。ただ、欲しいものを思い描くだけで、目の前に現れるの。例えば『おなか空いた。パンが欲しい』と思えば、目の前にパッとパンが現れるとかね」

 あれ? この話って、どっかで聞いたような……そうだ!

 想念実体化(タルポイド)現象だ!!


            *〈ショコラ〉


「やっぱり、ショコラもそう思うか」

 キャサリンさんと分かれた後、ホテルの部屋へ戻ってから、あたしは自分の感想をタルトに話してみた。

「昔あったワープ実験でも、想念実体化(タルポイド)現象が起きたんでしょ。ということは、やっぱりあの下にCFCの船があるのね」

「たぶん。でも、今の僕らの問題はどうやってミルさんを取り返すかだ。CFCの船の事はこの際、二の次でいい」

「でもさ、レイピア王女はなんだって、あの場所を指定してきたの」

「分からん。あるいは王女もCFCの船に、興味を持ったのかもしれない。レイピア王女の仕事は、CFCに奪われた宝を取り返すことだからね。取引のついでに調査しておく気じゃないのか」

「別々にやった方がいいと思うけど……」

「あるいは、僕らに捜させる気かもね」

「そうか。あたし達に捜させる方が、ミルを拷問に掛けて場所を吐かせるよりも……」

 あ! しまった! タルトの顔が引きつりまくっている。

「ご……拷問……」

 ぼそりとつぶやく。

「だ……大丈夫よタルト。相手は別に凶悪犯罪者じゃないんだから……」

「……拷問……」だめだ、こりゃ。もう、あたしの声なんか聞こえてないや。「ぼ……僕のせいだ。僕のせいで……ミルさんが……」

「タルト……落ち着いて。別にあれはタルトのせいじゃないし……」

「でも、こうしてる間にもミルさんが、あんな事されたり、こんな事されたり……」

「タルト……興奮してない?」

 あたしはジト目でタルトを見つめた。

「え!?」ハッと我に返るタルト。「い……いや……そんな事はないよ」

「ス・ケ・ベ」

「違う! 断じて違う!!」

 タルトは真っ赤になって否定した。

「喧しいな! 寝られないじゃないか」

 不意にテーブルの上のバスケットが開いてモルが顔を出した。

 彼が〈天使の像〉と一緒にカプセルで中央水路に落ちてきたのは、二時間前の事。カプセルの蓋を開けてみたら、着水時の衝撃なのか見事に気絶していた。

 とりあえず船の中にあったバスケットに入れて、ここまで連れて来たのだが、その間全然目を覚まさないので心配していたのだけど……

「あれ? ここはどこ?」

 モルは不思議そうに周りを見回した。

「モル。大丈夫?どこも痛くない?」

「お前、覚えているか?カプセルで軌道リングに降りて来た事」

 モルはしばらく考えてから答えた。

「ああ! そうだった! 急ごしらえの慣性中和機構が上手く動かなくて、着水の衝撃で気絶したんだ」

「慣性中和機構!? あんな小さなカプセルに、そんな物を……」

 慣性中和機構は宇宙船の慣性を人工重力を使って打ち消す装置の事で、現在では大抵の大型宇宙船に装備されている。

 だが、人工重力発生機はとっても大きくて、小形の宇宙船はもちろん、カプセルなんかに装備できるはずがない。

「そりゃあ君達の使っている重力発生機じゃ効率が悪くて無理だけど、アヌンナキの使っていたものなら、カプセルに装備するくらいわけないさ」

「でも、材料なんかはどうしたの?」

「〈ネフェリット〉の研究室にあったガラクタで作った」

 そういえば、研究室に置いてある古代船の機械部品て、ほとんど用途不明だったっけ。

「ところで、ここどこ?」

「ホテルだよ」

 タルトが答えた。

「ホテル!?」モルはあたし達を交互に見てから言う。「君達。そういう仲になったの?」

「違う!!」「違う!!」

 あたし達は真っ赤になって否定した。誤解の無いように行っておくが、もちろんあたし達は部屋を別々に取っている。

「なんだ違うのか」

「だいたいどこから、そういう発想が出るんだ?」

「だって、ショコラは君の事……ムグ!」

 あたしは慌ててモルの口を塞いだ。

 ヤバイ、ヤバイ。

 こいつはあたしの記憶を全部写し取っていたんだ。

「そ……それより、明日の打ち合わせしない? せっかくモルも目覚めたし」

「そうだね」

 そう言ってタルトはパソコンを立ち上げた。

 ディスプレーに木星を中心に三つのリングが回っている様子が表示される。スープラマンデーンの三次元CAD図面だ。

「赤道上空を回っているのが、僕達のいる赤道リング。それと交差しているように回っているのが、来年オープン予定の第一極軌道リングと第二極軌道リング。これらを総称してスープラマンデーンという」

 タルトはパソコンを操作し、小さな点しか映っていない部分をウインドウで囲んで拡大した。拡大しても点しか映っていない。

 それをさらに囲んで拡大する。五・六回繰り返すと点はやがて、両端に膨らみのある長方形の物体になった。

「これは建設中の第三極軌道リングの基礎衛星。これと同じ物を同一軌道上に多数浮かべて、繋ぎ合わせて軌道リングを作るわけだ」

「これって、どのくらいの大きさなの?」

「長さは五百キロ。幅は百メートル。両端にある球体は直径二百メートル。これと同じ物が、僕らのいる軌道リングの下に埋まっている」

 タルトは画面を全図に戻すと、今度は赤道リングの一部を拡大した。

「CADには森は表示されていないが、これはあの森の真下なんだ」

 さっきの基礎衛星と同じ物が、軌道リングに組み込まれていた。

 両端の球体には、太いパイプがはめ込まれている。直方体の部分にも、等間隔で小さなパイプがはめ込まれていた。

 この中を液体金属が循環することによって生じる遠心力が人工大地を支えている。

「この中の、どこかにCFCの船があるのね。でも、いくら基礎衛星が大きくたって、船を隠す場所なんてあるの?」

「ああ。基礎衛星は可能な限りローコストで作られている。余計な物は一切ない。中は空洞だらけだ」

「でも、コンピューターぐらい付いてるでしょ」

「姿勢制御のためのコンピューターはあるが、侵入者を感知するシステムなんてない。おそらく、船はパイプを繋ぐための穴から侵入して、内部の空洞に隠されたんだろう。ただし、空洞だらけといっても内部には仕切りがあって、船を隠せる場所は限られてくる。森の近くで、パイプに隣接する船を隠せるくらいの大きさの区画を検索すると……」

 三つの区画が赤く染まった。

「この三カ所のどこかに、船はある」

「でもさ、タルト。船の事は二の次じゃなかったの?」

「ああ。もちろんミルさんを助ける事が先決だ。でも、おそらく船を無視して森には近付けないと思う」

「どうして?」

「説明しよう」タルトの代わりにモルが答えた。「タルトの考えは正しいよ。君らの話だと森の中でタルポイド現象が起きているそうだね。という事は〈ト・ポロ〉から外された、ワープ機関がCFC船の中で半稼働状態になっていると考えられるんだ」

「それは分かるんだけど、それって、そんなに危険な事なの?」

「危険も何も現にそのために、ワープ実験の度に大惨事が起きているんじゃないか」

「その通り。アヌンナキがワープ機関を使えなかったのも、それが原因さ。まあ、確かにタルポイド現象なんて一見大した事ないように思えるけど、考えてみてほしい。君達は百五十年前に、コンピューターの音声認識ソフトを開発しているが、思考認識ソフトはいまだに開発されていないのはなんでだい?」

「それは違う。思考認識ソフトはとっくに開発されているけど、それを使いこなせる人がいないだけだ」

「その原因は?」

「人の雑多な思考を、コンピューターが読み取ってしまうため」

「そう。そしてタルポイド現象も人の雑多な思考を実体化させてしまう。例えば、隣を歩いている人に一瞬殺意を覚えたとしよう。ハッと気が付いた時にはもう遅い。隣の人の心臓に深々とナイフが刺さっていたりする。まあ、それは分かりやすい例で恐ろしいのは人の潜在意識だよ。人の潜在意識に潜む恐怖が実体化したりしたら、手が付けられない。アヌンナキが実験をやった時には、無数の怪物が現れて、有人惑星が一つ壊滅したなんて事があったし、恒星間空間で実験をやった時なんか、実験場に超新星やブラックホールが出現するなんて事もざらだった」

「そ……それは凄まじい」

「でもさ、それじゃあ、キャサリンさんの言ってた事はどうなるわけ? あの森の中は、楽園だって言ってたじゃない」

「その事だけどさ」タルトは少し勿体をつけた。「あの話は罠だ」

「どういう事?」

「なんで親父は、こんな回りくどい事をしてCFC船を捜していたと思う?」

「さあ?」

「親父は以前に、他の手掛かりからもCFC船を捜していた。だが、どれも失敗している」「それで?」

「誰かが親父を妨害していた。そう考えられないだろうか?」

「そう言われてみれば……」

「親父が、僕らとの接触を必要最小限に止めていたのは、その妨害者に僕らの動きを悟られないためだったのかもしれない。だけど、何者かは分からないが、その妨害者は、僕らの動きに気が付いた。そこで、僕らの動きを探ろうとしている」

「じゃあキャサリンさんが……」

「おそらく……」

「でもねえ、考えすぎじゃないかな」

「さっき、僕は彼女と軽く自己紹介をし合った。だけど、僕は自分の歳は言わなかった。なのに、あの人は僕が十八だと知っていた。いかにも偶然を装って、僕と出会ったような顔をしていたが、彼女は最初から僕が……宮下邦夫の息子が来るのを待っていたんだ」

「何のために?」

「CFC船に積んであるワープ機関を、探し出されて困る奴って誰だと思う?」

「ううん……あんなものが見つかって、誰が困るんだろう?」

「横取りしたいのならともかく、探し出されて困る人間はいないはずだ。人間は……モル。おまえさっきから黙ってるけど、本当は知っているんじゃないのか?」

「まあね。君こそ、その口ぶりだと、心当たりがあるんじゃないの? 相手は人間じゃないって」

 人間じゃないって……?

「ちょっと! 二人だけで分かったような事言ってないで、あたしにも説明してよ!!」

「ショコラ。覚えているか? キャサリンが言ってた『森の主』」

「うん。でも、それって嘘臭くない?」

「ああ。だけど、あの森には確かに主がいる。過去のワープ実験でタルポイドが起きた時は、それこそ無秩序に疑似物質が出現消滅を繰り返したらしい。それに対して、あの森は安定している。常に同じ樹木が存在しているし、新たな物質出現も起きてる様子がない。 つまり、あの森にはタルポイドを自在に制御する存在がいるんだ」

「それが、森の主? でも、タルポイドを制御するなんてことができるの?」

「平安時代の陰陽師安倍晴明は、タルポイドで生み出した鬼を使役していた。また、二十世紀ロングアイランドでのワープ実験の時には、ダンカン・キャメロンという超能力者がタルポイドを制御している。だけど、最終的にはキャメロンは失敗した。一人の人間の情報処理能力を、遥かに上回る量の想念を、キャメロン一人で制御しようとした結果だ」

「そう言えば、ミルが言ってたわね。アヌンナキは精神生命体を作って、タルポイドを制御してたって。モル、それって本当なの?」

「半分は正しいけど、半分は間違っているね。誰がそんな記述を残したのか知らないけど、精神生命体を作ったというのは嘘だ。あれは度重なるワープ実験失敗の結果、たまたま現れた存在であって、意図して作ったんじゃない。ただし、その精神生命体……僕達は、あれを『マナ』と呼んでいたけど……にタルポイドを制御させていたというのは本当だよ。と言っても、たった一体しかいないマナで複数の船のワープ機関の面倒を見るなんてできないから、地球と〈エル・ドラド〉の間に作ったワープトンネルの制御をさせていた」

「マナ!? それって、やっぱり〈エル・ドラド〉のマナ神なの?」

「それは分からないよ。僕が遭難したのは、その伝説が生まれるよりも前なんだよ」

「そっか。じゃあ、そのマナってどうして現れたの?」

「マナの正体は、ワープ実験の犠牲者達だよ。非物質化したまま元に戻れなくなった犠牲者達が、異空間で融合していき、やがて一つの存在になってしまった。それが『マナ』さ。アヌンナキは、マナと取引してワープトンネルの制御をさせていたんだ。その代償はマナを元の体に戻す事」

「そんな事できるの?」

「〈ト・ポロ〉には、異空間に消えた人達をサルベージする機材も積んであったんだよ。船と一緒に買ってきたんだ」

「ひょっとして、アヌンナキ文明消失の原因って、〈ト・ポロ〉の事故で約束が果たされなかったマナが、怒って暴れたせいじゃないのか?」

「う!」

 モルが硬直した。

「よしなよタルト。モルをイヂめるのは」

「いや、別にイヂめている分けじゃ……」

「そ……そんな筈ないよ。例えマナが怒ったとしても、マナを封じ込めるための準備はちゃんとしてあったんだから。文明消失はきっと他に原因があるんだよ。うん」

「それはいいとして、『森の主』もマナみたいな精神生命体だとすると、それがどうして、ワープ機関を探し出されて困る分け?」

「簡単な事さ。そういう存在にとって、半稼働状態のワープ機関は格好のエネルギー源だからね。見つかって止められたら、森の主は物質世界に干渉できなくなる」

「だけどさあ、森の主はこの世界に干渉してなにがおもしろいんだろう?」

「そんなの分からないよ。精神生命体のメンタリティなんてさ」

「ところで、明日はどうする? 森に行くとしてもタルポイドに対する対策はあるの?」

「ああ。二人ともこれを被って」

 モルはバスケットから白いメッシュ状の帽子を出した。

「なにこれ?」

 あたしとタルトは水泳帽のような帽子を、被りながら聞いた。

「この帽子には、僕が留学先で買って来たプシトロン吸収剤が含まれてる。これを頭に被っていれば、君達の頭から出ているプシトロンパルスの九九パーセントは吸収できるはずだ」

「留学先って? それじゃあ、それはモルの救命カプセルに入っていたの?」

「ああ。この帽子のために半分は使ってしまった。くれぐれも、大切にしてよ。もう、同じ物は手に入らないんだから。それとこれを」

モルは小さな黒い箱を取り出した。金属製の箱には小さなボタンが一つだけ付いている。「ワープ機関の緊急停止装置。機関が暴走した時に、いつでも止められるように、こうゆうのも用意されていた。一応、壊れていないか〈ネフィリット〉でチェックしたけど、問題はなかった」

「しかし、こんな物かぶっていたら、怪しまれないか?」

「ああ、だから上から別の帽子を被っていて」


                    *


「おはようございます」

 約束の時間、午前八時になってホテルの駐車場に現れたタルトは、ベレー帽を取らないで挨拶した。

「ショコラちゃんはどうしたの?」

 キャサリンは、やや不機嫌そうな声で問い掛ける。

「まだ寝てます。なあに、後からあれで追いかけてきますよ」

 タルトはそう言って、駐車場の隅に止めてある単車を指差した。

「単車があるのに、なぜ車を借りようとしたの?」

「荷物が多いんですよ。それに二人乗りは危ないし」

「そう。本当に来るんでしょうね?あの話を聞いた以上来てもらわないと困るわ」

「すみません。本当は起きてるんだけど。あいつ、拗ねてるんですよ。お姉さんの車に乗るの嫌がって。『あたしは一人で行く』って言い張ってるんです」

「バカね。日が昇ってから、砂漠を単車で行くのは大変よ。朝早くに出発すべきだったわね」


         *帰らずの森*〈ショコラ〉


「実は、そうしてたんだけど」

 あたしはつぶやきながら、携帯映話のスイッチを切った。

 タルトの携帯映話を通じて今の会話を聞いていたのだ。

 視線を前に戻すとそこに森がある。一見すると普通の広葉樹林だ。

 これが、荒涼とした砂漠のど真ん中にあるのでなければ、なんの不思議もなかったろう。バイクを走らせ近付いてみると、森と砂漠の境界はナイフで切り取られたように明確に分けられているのが分かる。まるで、見えない壁に分けられているようだ。

 境界の外には下草一本生えていないのに、内側は青碧とした木々が生い茂っている。

「ねえ、あれじゃないかな?」

 フロントボックスの中からモルがそう言ってきたのは、バイクが森の周囲を四分の一周した時だった。モルが指差した方向に顔を向けると、コンクリート製の小屋が目に入る。

 間違えない。軌道リングの点検口だ。ここから、基礎衛星の中に入れる。

 スロットルを開きバイクのスピードを上げた。

 小屋との距離がみるみる縮まる。小屋の前でバイクを停止させ、ヘルメットを外した。さらにメッシュ帽も脱ごうとすると。

「だめだよ。それを取っちゃ」

「どうして?」

「昨日も言ったけど、それにはプシトロン吸収剤がコーティングしてあるんだ。今ここでそれを取ったら、君から発したプシトロンパルスで森の主に感づかれる」

「しょうがないな」

 あたしはヘルメットを被り直した。

「それは脱いでいいんだよ」

「いいの!! これで」

 だって、メッシュの帽子だけだとみっともないんだもん。こんな事なら、タルトみたいにベレー帽も用意しておけば良かったわ。

 あたしは二重の扉を開いた。

 バイクごと小屋の中に入ると自動的に明かりが灯る。バイクを降りて、あたしはエレベーターの入り口に歩み寄った。

 開閉スイッチを押そうとした時、不意にエレベーターの扉が開く。

 エレベーターの中にいたのは……

「心配ありません。私です」

「教授!?」

「さあ、急いで! 息子が時間を稼いでいる間に、CFCの船を探し出すんです」

「はい」

 なんだか分からないが、あたしはモルを抱き抱え、エレベーターに乗り込んだ。扉が締まりエレベーターは下降を始める。

「久し振りですね。お嬢さん。もっとも、私はずっと近くにいたのですが……」

「あの」あたしはおずおずと質問した「できれば説明して欲しいんですけど……」

「何から聞きたいですか?」

「全部……取りあえず、今まで何をしていたのか? 教授は生きているのかを……」

「さっきも言った通り、私はずっと近くにいました。ただ、エネルギーが足りなくて、今まで姿を表せなかったのですよ」

「なんですか? そのエネルギーって」

「今の私の体は普通の物質に見えますが、実はこれはバイオン粒子の集まった疑似物質でできているのですよ。疑似物質が普通の物質と相互作用を持つには、ある種のエネルギーが必要なのです。昔の人はそのエネルギーを精気と呼んでました。ウィルヘルム・ライヒはオルゴンと呼んでいましたがね。この周辺はオルゴンが豊富にあるので、私も姿を現わせたのです」

「教授は幽霊なんですか?」

「難しい質問ですね。ある意味では、私は幽霊かもしれない。だが、どちらかと言うと私は幽霊というより、妖怪に近いでしょう。人の想念が実体化したものを、妖怪と定義するならばですが……」

 丁度その時、エレベーターは下に着いた。

 ここから、基礎衛星まで長い通路が続いている。

 あたしは道すがら質問を続けた。

「最初の経緯から、説明した方がいいですね。そう、あれは四十五年前のことです……」

 この当時、オフィーリアの船、つまり〈ト・ポロ〉の資料を元にワープ実験が行われようとしていた。場所は太陽系外縁部エッジワース・カイパーベルト内にある小さな基地、カイパー5。誰もがこの実験は成功すると考えていた。

 まあ、失敗すると分かってやる人はいないけど、今回は〈ト・ポロ〉というお手本があるので、これまでの理論の欠点はすべて克服されたとみんな考えた分けだ。ただ、この時、一人の宇宙考古学者がCFCから押収した資料を分析した結果、この実験には重大な見落としがある事が分かった。

 その学者、大谷邦夫はさっそくその事を伝えようとしたのだが、時すでに遅く、実験は始まっており、カイパー5とのすべての通信手段が途絶していたのである。

 彼が実験場に駆け付けてみると、基地内では疑似物質が出現消滅を繰り返すなどのタルポイド現象が多発し、大混乱になっていた。

 だが、問題はそれだけじゃなかった。基地内にいる人間はみんな精神に異常をきたしていたのだ。ワープ機関から発生する、膨大な量のプシトロンパルスを浴びたためだった。

 大谷自信は、アヌンナキの文献を元に開発したシールドで守られていたので、プシトロンパルスの影響はなかった。

 そして、彼は騒動の原因であるワープ機関を止めるため単身実験船の中に入っていった。

「彼は、見事にワープ機関を停止させました。しかし、この時に彼は異空間に飲み込まれて、非物質化してしまったのです。ワープ機関が正常に作動していれば、離れた場所で再物質化したのですが、それが停止してしまったために、もう元に戻れなくなり、彼は精神だけの存在となったのです。そして、元に戻りたいという彼の願望が、彼自身の分身を生み出した。それが、私だったのです」

 話を聞いている間に、あたし達は基礎衛星にたどり着いた。

 船を隠しておける区画はB4ブロック、B5ブロック、A4ブロックの三つ。その内の最初の一つ、B4ブロックはもぬけの殻だった。

「外れですね。次へ向かいましょう」

 あたし達は、B5ブロックへ向かった。

「ところで教授。〈ネメシス〉から帰る途中で、あたしの夢に教授が現れたんですけど、あれはただの夢だったのですか?それとも」

「もちろん、ただの夢ではありません。ネフェリウムを探してもらうために、私が話しかけたのです。どうやら、見つかったようですね」

教授はモルに視線を向けた。

「最初は愚息か竹ノ内君に話しかけるつもりでした。しかし、二人とはうまくシンクロできず、お嬢さんにだけ私の声が届いたのですよ。ところが、竹ノ内君はお嬢さんを船から降ろす相談をしていたので、しかたなく冷凍睡眠装置に介入して、それを妨害したのです」

「あ! そうだったんだ」

「僕からも聞きたいんだけど」

 今まで、あたしの腕でじっとしていたモルが言った。

「なぜ、僕をショコラに探させたの?」

「まず第一に、遭難者がいると分かったら、救助の手を差し延べるのが、知的生命体の義務です。第二に、〈ト・ポロ〉のワープ機関を停止させ、異空間にいる私のオリジナル達をサルベージできるのはあなただけです」

「まあ、確かにね」

「あの、教授。今、オリジナル達って言ったけど、サルベージするのは教授だけじゃないんですか?」

「ええ。四十五年前の事故で三十人は巻き込まれましたし、ロングアイランドでは千人ぐらいいますし、〈エルドリッジ〉事件の犠牲者や、その余波に巻き込まれたアベンジャー雷撃機のパイロットを始め、バミューダ海域で消えた人達も助けを待っています」

 ああ! そういえば、あの事件って〈エルドリッジ〉事件の直後じゃないの!!

「もっとも、その九割以上は、奴に吸収され救出不能になっているが」

「奴って?」

「そうそう、肝心な事を話していなかった。アヌンナキのモル君。愚息が随分と失礼な事言ったようですが、許してもらえませんか」

「いや、別に気にしてないよ」

「君は心の片隅で〈ト・ポロ〉遭難の原因は、自分にあるんじゃないか思っているようですが、それはまるっきり違います。それどころか、同乗していた貴族のせいでもない」

「どういう事?」

「あれは、マナの仕業です」

「ええ!? そんなバカな!! 確かにマナならワープアウトの位置を狂わす事はできるかもしれないけど……あの船には、マナを助けるための機材が積んであったんだよ」

「だから、狙われたのですよ。君はマナという存在を誤解しているようですね。まあ、無理もありません。私だって異空間であれと接触しなければ、分からなかったでしょう。あれを明確な思考のできる精神生命体と思ったのが、そもそもの間違えです。一見、単独の存在のように見えますが、実はこれは群体生物のようなものなのです。元々は多くの意識が混じりあったものですからね」

「それと、これとどう関係があるの? あいつは元の戻りたかったんだろう」

「あれを構成している意識体の半分以上は、それを望んでいたのでしょう。しかし、少なくとも三割の意識体は、それを望んでいなかった。彼らはこう考えたのです。『なぜ元の取るに足らない存在に戻る必要がある。このまま強大な力を持った存在として、永遠に生き続ければいいじゃないか』と。マナはどっちを取るかで大きく迷ったのです。その結果マナの中で意識か二つに分裂しました。人間で言うなら多重人格といったところですね。つまりマナの悪い人格が出ている時に〈ト・ポロ〉は襲われたのです」

「ちょっと待って下さい。もしかして、森の主ってマナみたいな存在じゃなくて……」

「マナそのものです」

「でも、あれは昔、封印されたはずじゃ……」

「ええ、数千年前に封印されました。しかし、その後、地球と〈エル・トラド〉とを繋ぐワープトンネルを開くために、何度か封印を解いているのです。そして、地球で十六世紀ごろに、マナを取り逃がしてしまったのです」

「じゃあそのまま……」

「いえ、その後、数百年間マナは何処かに身を潜めていましたが、二百年前にひょっこり〈エル・トラド〉に戻ってきたところを捕獲して封印しました。なぜかその時、マナはひどく衰弱していた様です。それからしばらくは封印されたままだったのですが、五十年前、CFCが〈エル・ドラド〉を攻撃した時に、マナを封じている神殿を破壊してしまったのです」

あいつらは~ろくな事しねえなあ~

「アヌンナキの作ったマナ捕獲器も、その時に破壊されたと思われていたのですが、最近になって無事だったのが分かりました。すでに手に入れてあります」

「そんな物があるなら、今すぐに封印してやれば……」

「それは駄目です。今のマナの封印しても、すぐに捕獲器を食い破って出てくるでしょう。まずはワープ機関を停止させて、奴のエネルギーを断たねばなりません」

 B5ブロックの入り口に着いたのは、その時だった。

「どうやら、ここも違うみたいですね」

「なんで、分かるんです? まだ、中にも入っていないのに」

「さっきよりも、オルゴンが弱くなっている。ワープ機関から離れている証拠です」

 それでも一応中を確認して見た。

 もしかするとマナがあたし達の接近に気が付いて、装置を停止させたのかもしれないので。

 中は真っ暗闇だった。照明が壊れているらしい。

 あたしは背中に背負ったディパックから照明弾を取り出した。

 三発続け様に打ち出す。

 広大な空洞が真昼のように照らしだされた。突然の光に驚いたネズミやコウモリ達が驚いて逃げ出したが、船らしき物はない。

「どうやら、A4ブロックが正解ですね。さて、急ぎましょう。愚息がここへ着くまで後三十分です。それまでに、ワープ機関を停止させればマナは力を失い、私達の勝ちです」

 あたし達はA4ブロックへ向かった。

「教授。大丈夫ですか? オルゴンが弱くなったら、実体化できないのでは……」

「大丈夫ですよ。弱いと言っても、地上と比較してと言う事です。私の実体化に必要なオルゴンは十分あります。それに」

教授はふところから水晶球のような物を出した。

「この宝珠は数種類のEMを化合して作った物で、オルゴンを蓄えておく事ができます。フルチャージしておけば、これ一つで数年は保ちます。これのおかげで私も普通の人間の様に暮らし、子供まで作れたのです」

「じゃあ、なんで実体化できなくなったのです」

「これをチャージするには、オルゴンが自然に集積するスポットに持って行けばいいのですが、ここ十数年の間に五連星世界内のオルゴンスポットが枯渇し始めたのです。どうやら、ワープ機関を手に入れて急激に力を付けたマナの仕業ですね」

 それにしても、この宝珠。どっかで見たような……あ!!

「これ! キャサリンが持ってた物と同じ!?」

「そう。あの女も私と同じような存在です。マナが差し向けたに違いありません」

「でも、どうしてあたし達の事を『マナ』が知ってしまったの?」

「ゴーダですよ。『マナ』はあの男に見張りの想念霊を付けていたのですが、私が一年前に封印しておいたのです。ところが、この前、あなた達がゴーダの死体を太陽葬に付したために封印が解けてしまい、想念霊に報告されてしまったのですよ。事情を知った『マナ』は、アイデスの町に多くの想念霊を放ってあなた方を待ち構えていたのでしょう。そして、昨夜、酒場であの女に近付いたために、愚息もあなたも思考を読まれています」

 しまった! そうだったのか!!


               *


 ポピ! ポピ! ポピ!

 不意にタルトの携帯が鳴ったのは、バギーが道を外れ砂漠に入った時だった。

「なんだろう?」

 携帯を見ると、ショコラからメールが入っている。

『敵は心を読む。絶対に帽子取るな』

 ギョッっとして運転席の方を見た。

 怪訝な顔でキャサリンがこっちを見ている。

「どうしたの? タルト君」

「メ……メールです。ショコラが今出発したって。少し速度、落としてもらえませんか」

「いいわ。ところで、タルト君。車の中なんだから、帽子取らない」

「え!?」タルトは慌てて、帽子を押さえる。「だ……だめ!」(気付かれたか?この帽子の下に、プシトロンパルス遮断帽あるって)元々タルポイド対策用に用意したのだが、思考を読まれるという事までは考えてなかった。

「そんな物かぶってたら暑いわよ」

「ぢ……実は……僕は若ハゲなんです」

 真っ赤になって言う。かなりの演技派だ。

「まあ! かわいそう。ねえ、タルト君。あなたもあの森で暮らさない? そうしてら若ハゲなんて治っちゃうわよ」

「でも……僕は調査に来ただけだから」

「じゃあ、せめて一週間ほど滞在してみない? 歓迎するわよ」


         *A4ブロック*ショコラ


「そんなバカな」

 A4ブロックには何もなかった。

「オルゴンがかなり濃くなっている。この近くにあるのは確かだ」

 教授が言った。

 あたしは、ディパックからコントローラーを取り出す。昨夜、モルにもらったワープ機関の緊急停止装置。二百メートル以内にワープ機関があれば、これで止まるはず。

「どうです?」

「オルゴン濃度は変わらん。装置が止まった様子がない」

「モル。プシトロンパルスの方向から、分からないかしら?」

「無理だ。パルスの探知器は用意してない」

「こうなったら、タルトと合流してダウジングで……」

「それも、駄目だ。パルス遮断帽をかぶってる限り超能力は使えない。帽子をかぶっている間はタルトのダウジングも、ショコラのサイコメトリーも使えないんだ」

 うわわ!! 八方塞がり。


さて、船はどこに隠されているのか?


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