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怪盗ミルフィーユ  作者: 津嶋朋靖


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第六章 森の主(その二)

船がどうしても見つからない。計画を練り直すために合流したショコラとタルト。

その二人の前に不気味な男の子が……

こいつがマナ?

            *帰らずの森*


『船がどこにも見つからない。取りあえず合流して計画を練り直す』

 二度目に送られてきたメールを見て、タルトは顔をしかめた。

「あら? あれは、ショコラちゃんじゃないの?」

 前に目を向けると、見覚えのあるバイクの側に赤い繋ぎ服の少女がいた。

「いつの間に追い越されたのかしら?」

 キャサリンは、ショコラの側にバギーを止めた。


             *ショコラ


「タルト!!」

 あたしはバキーから降りたタルトに抱き付き、耳元に口を寄せて経緯を小声で話した。「親父が?」

「船を探すと言って、一人で森に入っていったのよ」

「なんてこった。よし、僕らも行こう」タルトは振り返った。「キャサリンさん、案内をお願いしま……キャサリンさん……」

 振り返るとキャサリンさんは地面にうずくまっていた。

「どうしたんです?」

 あたし達は彼女に歩み寄る。

「……だめ……」彼女は呟くように言うと、突然立ち上がって叫んだ。「だめ! 二人とも、あの森に入ってはだめよ!! 入ったら、もう二度と出てこれなくなるわ」

 え? どういう事?

「どういうつもりだい? キャサリン。せっかく来たお客さんに失礼だよ」

 その声は、あたし達の背後から唐突に掛けられた。

 振り返るといつの間に現れたのか、奇妙な服装をした十才ぐらいの男の子が立っている。男の子は天使の様に愛らしい顔に、悪魔のような嘲笑を浮かべていた。

 それにしてもこの男の子、何かに似ている……そうだ!

 背中の羽こそ無いけど天使の像にそっくり。

 と言う事は、この子がマナ!?

「ひ!」キャサリンさんは、恐怖の表情を浮かべ後退る。「もう、いやよ! こんな事。なんで……なんでこんな事を、しなければいけないの! なんで、この子達をわたしと同じ目に会わせなければいけないのよ」

 そうか! この人は想念霊じゃなく、元々人間なんだ。

 ただ、この森の食べ物を食べ続けたために体の一部が疑似物質と入れ替わってしまい、もうマナには逆らえないんだ。

「今更、何を言ってるのかな? 君がこの森から出て行きたいというから、僕はその条件として、この二人を連れて来るように言ったんだよ。もう、ここまで連れてきてしまった以上、君の役目は終わったんだ。綺麗事を言うならもっと前に言うべきだったね。それとも何かい? 土壇場で言うだけ無駄な台詞を言って、本当は自分はいい奴なんだと、この二人に思われたいのかい?」

「そ……そんな、わたしは、そんなつもりじゃ……」

 一つだけ分かった事がある。このガキ、かなりヤな奴だ。

 これが普通のガキなら、あたしは問答無用でひっぱたいて、性根を叩き直してやるところなんだけど……

「ところで、君達」男の子……ガキはあたし達の方を振り向いた。「僕としては、君達にあれを探し出されたりすると非常に迷惑なんだ。といってもやめてくれそうにはないし、となると君達に死んでもらうしかないようだね」

「勝手な事抜かすな!! このガキ! だいたい、おまえ誰なんだ!?」

 タルトが一歩前に踏み出した。

「そうだね。僕の事は、そこのディパックの中で震えているアヌンナキが良く知っていると思うけど……」

 え? 見るといつの間にかモルは、あたしのディパックに潜り込んでいた。

 なっさけねえ。

「僕の名は『マナ』。その昔〈エル・ドラド〉では、神様扱いされていたものさ」

「そうか。ワープトンネルを管理していた精神生命体だな。一つ聞くがアヌンナキを滅ぼしたのはお前か?」

「それは違う。〈ト・ポロ〉にちょっかいを掛けたのは僕だが、アヌンナキを滅ぼしたのは僕じゃない。確かに僕はアヌンナキを恨んでいたけど、アヌンナキはいつでも僕を封印できるんだから、そんな事はできないのさ。もっとも〈ト・ポロ〉の事件の後、すぐにやったのが僕だとばれて封印されちゃったけど。封印が解けた時には、アヌンナキはすでに滅びていた。だから、アヌンナキがどうして滅びたのか僕も知らないんだ」

「で、お前の目的はなんだ? 元の人間に戻る事じゃないのか?」

「確かに僕の中で、そういう下らない願望を持つ意識体もいるが、僕の望みは神に成る事。そのためには、下らない願望を持っている意識体を切り捨てたいけど、それができないから、神に成る事を望む人間を集めて僕の中に取り込んでいるのさ。そうやって仲間を増やしていけば、そのうち奴等は取るに足らない存在になる」

「ようするに、数の暴力で反対派を押さえ込もうというのね」

「うまい事言うね。そんなとこさ。ところでキャサリン。君には失望したよ。君も僕と同じ望みを持ってくれると思ったのに、結局君は小物だったね。もう、君なんかいらない。 どこへでも行くがいいさ」

 ひどい! 今のキャサリンさんは、ここから離れたら死んでしまうと言うのに……

「何が小物よ! 何が神に成りたいよ! あなたの言ってる事は、神に対する冒涜だわ!! あんたなんか神じゃない! 悪魔よ!!」

「やれやれ、神も悪魔も似たようなもんだと思うけどな。君達どう思う?」

「あいにく、僕らは仏教徒でね。そういう論争に関わると、坊さんに怒られちゃうんだ」

「あっそう。まあどっちにしろ、君達をこのままにしておく分けにはいかないけどね」

「それはお互い様だ!」

 タルトは何かを投げ付けた。

 マナはそれを片手で受け止める。

「何のつも……う!」

 マナの顔が突然苦痛に歪んだ。

 みるみるうち体の色が失われ、真っ白になる。次の瞬間、マナは白い灰となって消えた。その後に、黒光りする石ころが残る。

「何をしたの?」

「ヒヒイロカネのかけらをぶつけてみた。こいつはバイオン粒子を吸着する性質があるって聞いたんでね」

 言いながら、タルトは石ころを拾った。

「なるほどね。それなりの準備はしてきたって分けか」

 突然マナの声が鳴り響いた。どこから喋っているんだろう?

「だけど、今君が消し去ったのは僕の一部に過ぎないんだよ」

「分かっているよ。今のはほんの挨拶さ」

 そうか! この森自体がマナなんだ。

 だとすると、あたし達が勝つには、この森すべてを消し去らなければならない。

 そんな大量のヒヒイロカネなんて今のあたし達にはない。

「そうか。じゃあ僕の方も挨拶をさせてもらおう」

 突然、森の木々が溶けだした。

 ドロドロの液体は一ヵ所集まり、何かの形を取り始める。

 やがて身長二十メートルはありそうな巨人が現れた。

 その姿はさっきの男の子そっくり。

「さて、挨拶として踏みつぶしてあげるよ」

「待ちなさい。君の相手は私です」

 声と同時に森の中から、金色の竜が飛び出した。

 その頭に人が乗っている。

「教授!!」「父さん!!」

「き……きさまは……」

 巨人が竜の方を振り返る。

「思い上がってはいけないね。この森は君の体であると同時に、私の体でもあるのだよ。もっとも、今まで私という統率者がいなかったために、君が好き勝手やっていたがね。さあ、君達。私がこいつを押さえている間にCFCの船を探すんだ」

「はい!」「はい!」

 あたし達は森の中に駆け込んだ。

 しかし、すぐに立ち止まって呆然となる。

 どうやって探せっちゅうんじゃ!! このただっ広い森で。

「しょうがない。ここは」

 タルトは水晶振り子を取り出し、ベレー帽に手を掛けた。

「よせ! タルト」

 モルが叫んだ時にはもう遅い。

 タルトは地面にうずくまっていた。

「頭が痛い」

 ベレーをかぶせ直した後も、しばらくタルトは頭を押さえていた。

「いわんこっちゃない。ここでは今、強力なプシトロンパルスが飛び交っているんだ。エスパーの敏感な脳じゃ、すぐにやられてしまう。ショコラもヘルメットを取るな」

 しかし、ダウジングが駄目だとなると……

「キャサリンさん! あなたこの森に住んでいたんでしょ。宇宙船を見なかった?」

「見た事は見たけど、ここでは思った事がすべて実現するから、それが本物かどうかは……」だめか……「そうだわ!! あなた達の装備に、小型レーダーがあったわね」

 そう言って、キャサリンさんはバギーの方へ走り出した。

 あたし達も、その後を追う。

「小型レーダーでどうするんです? 電波だって、森の木々に遮られてしまうんですよ」

「この森の木々が、普通の物質ならね」

「疑似物質だって、レーダーに映るのよ」

「いや、ショコラ。レーダーに映るものもあると言った方が正解だ。タルポイド現象の実例で、目には映ったけど、レーダーには映らなかったという事例がよくある。というより、レーダーに映る方が少ないんだよ」

 あたし達はバギーにたどり着き、レーダーを作動させた。キャサリンさんの言う通り、森の木々はレーダーにまったく反応しない。

「わたしが森に入るよりも前に、政府の調査団が森に入ったのよ。その人達と森の中で会って聞いたの。この森の物質は、可視光線は反射するけど極超短波(マイクロウェーブ)は素通りさせるのよ。だから普通の物質があれば、レーダーで分かるはずだわ」

 程なくしてレーダーは、森の中心部にある巨大な物体を捕らえた。

 見つけたのか?いや、船にしては大きすぎる。

「違う。これは岩山だ」

 タルトはさらにレーダーを動かしたが、他にはそれらしいものは無かった。

「岩山の向こうかもしれない。キャサリンさん。反対側に回り込んで下さい」

 キャサリンさんはバギーを走らせた。

「ねえ。岩山の中ってのは考えられない?」

「なるほど……マナの奴が岩山に穴を掘って隠したのかもしれないし……。キャサリンさん。調査団の人は岩山を調べなかったのですか?」

「超音波レーダーで調べていたわ。中心部に小さな空洞が、いくつかあったって言うけど……」

「じゃあ、岩山の中に……」

「でも、空洞はせいぜい千立方メートル以下の、小部屋ほどの大きさしか無かったというわ。あなた達の探している物って、そんなところに収まるの?」

 う……無理か。でも、船まるごとは無理にしてもコンテナを持ち込むくらいなら……

「それに、その空洞につながるような、穴はないそうよ」

「埋めたんじゃないの」

「いえ。一度、掘った穴を埋め戻しても、レーダーで分かるらしいわ」

「タルト。そうなの?」

「ああ。キャサリンさんの言う通りだ。というより、オーパーツハンターをやってるショコラが、それを知らないという方が、問題だと思うが」

 う……言われてみれば、そんな気が……

 あたし達は森を半周した。

 しかし、レーダーには何も映らない。

「地道に探すしかないな」

 あたし達はバギーを捨て、再び森に駆け込む。

「まだ、こんな所に居たのか」

 げ! 一番聞きたくない声が、頭上から掛けられた。

 見上げると巨大な手が落ちてくる。

 あたしは咄嗟に、左手に付けてるブレスレッドのスイッチを入れ、力場障壁を張った。直径五メートルの見えない壁があたし達を包む。 直後に、それを巨大な手が掴んだ。

 手はシールドを押しつぶそうとする。

 ブレスレットが熱くなってきた。

 ヤバい! 過負荷になってるんだ。

 だめ! これ以上はシールドが保たない。

 突然、周囲が爆炎に包まれた。

 同時にシールドに掛かっていた圧力が消える。

 上空を見上げると、レイピア王女の飛行船が浮かんでいた。

 なんで?

「何者だ?」

 巨人は問い掛けた。

「私はエル・ドラドの王女レイピア」

「エル・ドラドの王女が何の用だ?」

「決まっている。イタズラ精霊を封じ込めに来た」

「ふん! やれるものなら、やってみろ! 今の僕は昔の様にはいかないぞ」

 巨人は飛行船に襲いかかる。飛行船の下部からバルカン砲が火を吹いた。弾丸を浴びた巨人は瞬く間に消えていく。

 どうやら、これもバイオンを吸収する、何らかのEMを弾頭に使っているのだろう。

 竜が飛行船に近付いた。

 いけない! このままじゃ攻撃されちゃう。

 だが、そうはならなかった。

「レイピア君。元気だったかね?」

 竜の上から、教授がフレンドリーに声を掛けた。

 どういう事?

「先生。ご無沙汰しておりました」

「ヤッホー! 先生、うちも元気やでえ!!」

 聞き覚えのある脳天気な声が、森の上空を響き渡る。

「おお! 竹ノ内君、君はいつも元気だね」

「元気が取り柄」

 それってアホってことじゃないの?

「とりあえず、うちらは従姉妹逹と合流しますよって」

「うむ。頑張りたまえ」

 ジェットパックを背負った人影が数体、飛行船を離れた。

「ああ!!」唐突に、タルトが素頓狂な声をあげる。「思い出した! レイピア王女って、どっかで会ったような気がすると思っていたら、あの人、親父の教え子の一人だ」

「え? そうなの。でも、ミルとは時期が違っていたんじゃ……」

「とんでもない! あの二人が、仲良く家へレポート提出に来たのを、僕は何度も目撃している。明らかに友達だ。あの二人」

「じゃあ、あたし達、かつがれてたのぉ!?」

 ジェットパックを背負ったミルが地面に降りたった。

「やっほー! ショコラにタルト。元気にしとったかあ!」

 ミルの脳天気な声が、今ほどあたしの脳細胞を逆撫でした事はなかった。

「ミルゥゥー」

「な……なんや……二人とも怖い顔して………あ!」

ミルはササッとレイピア王女の後に隠れた。

「うちは、レイちゃんの人質なんや。はよ。助けに来てんか」

 わざとらしい。

「ばれてるよ。竹ノ内」

 レイピア王女は冷たく言い放つ。

「やっぱし。ははは!」

「『ははは!』じゃないわよ!!」

「説明して下さい!」

 あたし達はミルに詰め寄った。

「いや……二人を騙した事は、悪いと思っとる。だから……堪忍や」

 ミルは突然、土下座して謝った。

「わー! ミルさん!! やめて下さい。そこまでしなくていいです。僕はミルさんさえ無事だったらそれで……」

 タルトは慌ててミルを引き起こした。

「ほな、許してくれるか?」

「許します! 許しますから。頭上げて下さい」

「ほな、頭上げたるから、あっちも説得してんか」

 と言って、あたしの方を指差す。

てめえでやれよ!

「なあ、ショコラ」

 タルトもタルトよ。

 いくら惚れてる女だからって、言いなりにならないでよね。

「いや! 絶対許さない。頭下げたって、土下座したって、五体投地礼したって許せない」

「許さなくてもいい。ただ、怒るのは、あれを何とかしてからにしようよ」

 顔を上げたあたしの目に『あれ』が映る。

 何体もの巨人がのしのしと歩く姿が。

 竜が火を吹き、飛行船がEM弾頭を発射して巨人を倒していくが、倒す側から再び巨人が復活する。切りがない。

「ミル。このままじゃジリ貧だよ」

「心配ないて。もうすぐモンブランが秘密兵器を持ってきてくれる」

 ミルがそう言った直後、ドーン! という音が響き、やがて火の玉が現れた。大気圏突入カプセルだ!

 やがて、十分に減速したところでカプセルはパラシュートを開いた。地表に降りると同時にカプセルはカパッと二つに割れ、中から妙な物体が現れる。

 不格好な対空砲のような物体……いや、対空砲というよりも、ただ鉄パイプを並べただけの装置みたいだけど……

「なんのつもりだ!? そんな不細工な大砲で、僕をどうにかできると思っているのか?」

 巨人が叫んだ。

「あいにくと、大砲ではないんや。先生!! 退避して下さい」

「待つんだ。竹ノ内君」

 竜が降下してきた。

「キャサリン君! 死にたくなければ一緒に来るんだ」

 呆気に取られるキャサリンを竜に乗せると、教授は飛び立った。 しばらくして。

『竹ノ内君。もういいぞ。やってくれ』携帯で教授が言ってきた。

「おおっし! モンブラン! クラウド・バスター作動や!!」

 クラウド・バスターだって!?

『ラジャー!』

 携帯から返事が来た直後、突然、巨人達が苦しみ始めた。体中が色を失ったと思うと白い灰となって消えてしまう。

 巨人だけじゃない。森の木々も急速に消えていき中心部の岩山がむき出しになった。

 岩山だけは、普通の物質でできているから変化がないんだ。

「な……なんだこれは?」

 くぐもったマナの声が響いた。かなり苦しそうだ。

 すでに森の八割近くが消えてしまい、もはや巨人を作る力はないみたいね。

「きさま! いったい何をした!?」

「これはな、今から二百年前にウィルヘルム・ライヒが開発した対タルポイド兵器、クラウド・バスターや!!」

「何が、対タルポイド兵器よ。ライヒは元々気象制御のために作ったのよ」

 大威張りで言うミルの横から、レイピア王女がボソッと突っ込みを入れた。

「ええやないの。実際にライヒは、これでUFOやっつけたんやで」

クラウド・バスターって、この前ウィルヘルム・ライヒの資料を調べた時に見たっけ。確か鉄パイプとケーブルを組み合わせた簡単な装置で、大気中のオルゴンを吸収し水中へ逃がす装置だとか。

 ライヒは、これで雲を消したり出したりしたので『(クラウド) 破壊器(バスター)』と名付けた。

 そして、ある夜、当時のアメリカを騒がしていたタルポイド=UFOにこれを向けたところ、たちまちのうちにUFOは光を失ったというが……

「ば……ばかな。確かに二百年前にそいつにやられたが」

あ! こいつだったんだ。その時のUFO。

「こんな威力はなかっはずだ」

 そうか。二百年前に衰弱して帰ってきたのは、そういう事情があったんだ。

「二百年分の技術革新て奴や。鉄パイプにはEMをコーティングし、細部にはアヌンナキの技術を取り入れてある。吸引力は当時の二万倍や!! 恐れ入ったか!」

「なに、威張っているのよ。あれは先生が設計したものを、〈エル・ドラド〉の科学省で製造したのよ」

「冷たいなあ、レイちゃん。うちら親友やないか」

「悪友よ」

「なに言うてまんねん。学生時代はレポート提出のために一緒にドロ……」

「遠慮することないわ! あなたと私の仲じゃないの」

 なんか、この二人、ヨコシマな秘密を共有しているわね。

「なめるなよ! 人間ども。確かに装置は強化されているが、ここには地球ほど大量の水はない。中央水路の水など、ものの数十分で飽和状態にしてくれる」

「その前に、ワープ機関を停止させてジ・エンドやな」

「こんな短時間で、見付けられるものか」

「アホやな、もうとっくに見付かっとるわ」

え?

「なんのために大袈裟な演技をして、タルトとショコラを先に行かせたと思う? この二人の心を読んで、こっちにタルポイド対策がないと判断したあんたは、油断してこの二人を野放しにしとったやろう。その間に二人が捜しだしたはずや」

 おい! ちょっとまて……

「ほう。で、どこにあったんだい?」

 マナが皮肉を込めて言った事に、ミルは気が付いてない。

「それはな……どこにあるんや? ショコラ」

「知らない」

 あたしは冷たく言い放った。

「……へ……あんたら、まだ見つけてへんのか?」

「うん」

「と、いうか基礎衛星の中には、そんな物なかったんですよ」

「あんたら………………………」

 ミルはしばらく硬直した後、無言であたしとタルトにジェットパックを差し出した。

 あたし達が装着したのを確認すると、マナの方を向き直り。

「マナはん。うちら急用ができましたんで、また今度お邪魔させていただきます。ほな、さいなら」

「またんかぁい!!」

 わずかに残っていた森が変化し、巨大な蔦となって、空中に飛び立ったあたし達に襲いかかる。

 だめだ、飛行船に近付けない。しかたなく、あたし達はクラウド・バスターの吸引口まで退避した。

 ここまでは、蔦も近付けないが、中央水路の水が飽和状態になればここも危ない。

 せめて、もっとたくさん水があれば……

 近くの衛星〈カリスト〉〈ガニメド〉〈エウロパ〉にはたくさんあるのに……岩山の中にあるイオの水を利用できないかな?

 だめよね。

 そんなものじゃ、それこそ焼け石に……水……?

 あたしは、ジッと岩山を見つめた。

 あれって、火山性の岩よね……もしかして……

 あたしは携帯を操作し〈ネフェリット〉のコンピューターにメールで指示を与えた。

「みんな。三分後に〈ネフェリット〉から援護射撃が来るわ。その隙に逃げるのよ」

「それしかないな」

 三分後。あたし達が飛び立った直後に、天空から光の槍が降ってきた。狙いは……

「やめロオォォォ!」

 マナは絶叫すると、ありったけの蔦を伸ばしターゲットをかばう。

 やっぱり、そうか!

 あたしはミル達からはぐれ、一路岩山を目指した。

 背後から制止の声が聞こえるが、構っていられない。

 今、躊躇したらマナに気付かれる。

「どこ行くの? ショコラ」

 ディパックの中から、モルが問い掛ける。

「分かったのよ。CFC船の在処が。あの岩山よ」

「だって、あの岩山には穴を掘った跡は無かったんだろう」

「そうよ。岩山に穴を掘って、船を埋めたんじゃないわ。船は、最初から岩山の中にあったのよ」

 そう、あたし達は根本的な勘違いをしていた。

 五十年前、CFC船は基礎衛星に漂着したと考えていたが、本当はそこではなかった。船は五十年前にあって現在はないもの、衛星〈イオ〉に不時着したのだ。

 衛星〈イオ〉は火山で有名な星。

 おそらく船は、すぐに溶岩に飲み込まれてしまったのだろう。

「あの岩山の中心部には、小さな空洞あると言ってたわ。それって、きっと船のキャビンよ。溶岩に飲み込まれたのなら、船体自体は岩と密着してしまうから、レーダーでは分からないはずだわ」

 そして、月日が経ち、軌道リング建設のために〈イオ〉は砕かれた。

 岩塊の一つの中に船がある事に誰も気付かないまま、軌道リングに張り付けられたのだ。それがあの岩山だ。

「あたしも、確信はできなかったわ。だから、〈ネフェリット〉に、あの岩山を攻撃させたの。そしたら、マナは岩山をかばったわ。あそこにマナにとって大事な物がある証拠よ」

 岩山まで、あと二百メートル。

 マナはあたしに気が付いていない。

 スイッチを押す。

 反応無し。早すぎたか。

 さらに、二百メートル進んでスイッチを押す。

 何も起きない。

 あたしの早とちりだったのか?

 不安が込み上げてきた。

「そこで、何をしているうぅぅ!」

 ヤバい! マナに気付かれた。

 無数の蔦が、あたしの方に伸びてくる。

 あたしは、ジェットパックを全開にした。

 しかし蔦の伸びるスピードの方が速い。

 早くも親指ほどの蔦があたしの足首に触れてきた。

 一か八かスイッチオン。

 三度目の正直!?

 変化無し。

 岩山の中央で、ついに追いつかれた。

 両手両足を蔦に絡め取られる。

 気持ち悪い。

 再びスイッチオン。

「ぐぎゃアァァァ!!」

 マナが咆哮を上げた。

 振り向くと蔦がボロボロと崩れ、白い灰となっていく。

 やった! 大成功!!

「ミル。ワープ機関は停止したわ。クラウド・バスターを止めて。このままじゃ教授達が近付けない」


                   *


 森は完全に消失し、砂漠に戻った。

 そこかしこにスライム状の疑似物質が残っているが、それも後数日で消え去るだろう。そんな中に、未だに蠢いている物があった。それは少年の姿をしている。

「どこへいくの?」

 岩山の影で少年は呼び止められた。

 振り返ると、〈天使の像〉を持ったレイピアが立っている。

「僕を封印に来たか?」王女は黙って頷いた。「サッサとやれよ。もう僕には、なんの力も無い。この姿を保つのがやっとだ」

「竹ノ内魅瑠がCFC船を発掘したわ。中にあったサルベージ機材も無事よ」

「……」

「もうすぐ、あなたは人間に戻れるわ」

「……やめてくれ……そんな、余計な事は、やめてくれぇ!」

「なぜ? そんなに神になりたいの?」

「おまえに何が分かる! ワープ実験で肉体を失い、生とも死ともつかない状態で漂っていた僕の気持ちが、おまえなんかに分かるものか!! 神に成りたかった分けじゃない。成るしかなかったんだ。人に戻った後に、待ち受ける悲しみに耐えるぐらいなら」

 台詞の後半は涙声になっていた。

「助けるなら、もっと早くしてくれれば良かったんだ! 今更、こんな時代で生き返ってどうする!? 両親も、兄弟も友達も、みんな死に絶えたこんな時代に生き返って、どうやって生きていけと言うのだ? それに、サルベージしたって、みんなが助かる分けじゃない。特に僕の時代に肉体を失った者逹は、ほとんどマナと同化してしまったために、サルベージしたとたんに死んでしまうんだ。生き返る事ができるのは、マナの中核にいた僕と、ここ数百年の間にマナに取りこまれた者だけ。あいつらを犠牲にして、僕だけ生き返れって言うのか? レイピア王女。お願いだからサルベージはやめてくれ。そうしたら、また昔の様にワープトンネルの管理をやってやるよ」

 レイピアは、黙って首を横に振った。

「なぜ?」

「あなたに取り込まれた人達の中には、帰りを待つ肉親を持つ者がいるのよ」

「だったら、そいつらだけサルベージすりゃいいだろう!!」

「それができない事は、あなたが一番良く知ってるんじゃなくて。サルベージするときはすべて一緒になってしまう。だからこそ、あなたは〈ト・ポロ〉を襲ったのでしょ?」

「なんで……なんで、あんたがこんな事に関わる? あんたには関係の無い事だろう」

「私も、肉親の帰りを待つ一人よ」

「え?」

「私は地球人との混血なの。私の母は四十五年前から、私の祖父大谷邦夫の帰りを待っている」

「そうか。あんたあいつの孫だったのか」

レイピアは頷いた。

「分かった。やれよサルベージ。どうせ僕には止められないんだ。だけど、一つだけ願いを聞いてくれ」

「なあに?」

「サルベージされて出てきた人間の中に、僕と同じ姿の奴がいたら、殺してほしい」

 パシッ!

 乾いた音が鳴り響いた。少年の頬にレイピアの手形が残っている。

「死んでもいい命なんて、この世にないのよ」

「なんだよ!? いいじゃないか!! 大谷の奴はあんたが待っているからいいけど、僕の帰りを待ってる奴なんて、いやしないんだ!! どうせ僕を待っている奴なんて……?」

 泣きじゃくる少年を、レイピアは抱き締めた。

「私が待ってて上げる。だから……帰ってきなさい……それまでは、この中で……」

 少年の姿は〈天使の像〉に吸い込まれて消えた。

ついにマナの封じ込めに成功。


次でエピローグです。

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