終章
全てを終えて愛船〈ネフェリット〉に戻ってきたミルフィーユ達。
しかし、ショコラの心に何かが引っかかる。
あれ?
天使の象がバイザでなかったという事は……
ショコラにとって悪夢のようなラストに
*エピローグ*
「ふう! しんど!!」リビングに入るなりミルはだらしなくチェスターフィールドに寝転んだ。「やっぱ、自分の船が一番落ち着くわ」
サルベージ作業が終わって、あたし達が〈ネフリェット〉に戻ったのは、あれから十日後の事だった。
結局、異空間から、生きて助け出せた人は二百五十人だけ。
異空間にいた時間が長い程、生還率は低くなるみたいだ。
四十五年前の実験で消えた人達は教授のオリジナルも含めて、全員生還できたのに、二十世紀に消えた人達の九割以上は死体となって出てきた。
仕方がないとはいえ、あたしは結構それで落ち込んだ。
その後で、肉親との再会を喜ぶ人を見たときは、ちょっと救われた気分になったけど。バミューダ海域で消えたアベンジャー雷撃機と、小笠原デビルシーで消えたイ号400型潜水艦が、ほとんど同時にサルベージされた時は、ちょっとした騒ぎになった。
あの時は、イ号400から飛び立った晴嵐戦闘機と、アベンジャーが危うく空中戦をやりそうになったのを止めるのに一苦労した。
アヌンナキの時代に異空間に消えた人達で戻れたのは、地球人の男の子一人と、五人のアヌンナキだけ。
モルは仲間ができて喜んでいたけど……
男の子の方は、レイピア王女に引き取られて第二太陽系に行ってしまった。
なんだかあの子、マナに似ていたけど、あたしの気のせいかな?
「ところでミル」
この十日間、忙しくてできなかった話を、あたしは今この場で始めた。
「いつから気が付いていたの?」
「なにが?」
「〈天使の像〉が〈パイザ〉ではなく、マナの捕獲器だったって」
「捕獲器という事はレイちゃんに会うまで知らんかったが、〈パイザ〉じゃないのはタキオンパルスが出た時に分かったんや。〈パイザ〉ならそんなもん出さんはずや。レイちゃんが〈天使の像〉を狙っていたのは、本来の仕事やのうて、うちと同じく教授に依頼されていたんや。鬼頭が海賊だって、教えてやったら悔しがってたで。それなら、手の込んだ事せずに、とっとと逮捕して没収したれば良かったって。駐車場でショコラ達を襲撃した後で教授から、うちらの正体を聞かされたレイちゃんは、親善訪問で太陽系を訪れたついでに、普段は報道機関に出さない自分の顔を大々的にニュースに流したんや。ショコラとタルトが、それを見たらきっとうちが接触してくると思ってな」
「それで、いつ接触したの?」
「〈ヘリオポリス〉を出発する前にメールを送って、軌道リングに来てもろた。軌道リングでは船を借りに行った時に会ったんや。それで、互いに教授から依頼されていた事が分かって、共同でやる事になった。ただ、マナに近付くと心を読まれるという事が分かってな、そこで一芝居打って、何も知らないショコラとタルトを先に行かせて、マナにガセネタを掴ませる事にしたんや。堪忍な」
「別にいいのよ。あたしは、もうあんな事は気にしてないし。あたしが気にしているのは、ミルが代わりの〈パイザ〉をどうやって手に入れるつもりか、という事よ。言っておくけど、あたしとしては、発掘するか、金出して買うか、借りるかそれ以外の方法は認めないからね」
「ショコラ。そんな方法で、本当に手に入ると思っとるんか?」
「そういう問題じゃなくて、それ以外の方法は人間としてやっちゃいけないのよ!」
「ええやないの。もう、とっくに何度もやっとるやんか」
「だめ!」
「まどろっこしい事しとったら、うちらバア様になってまうで」
「だめったら! だめ!!」
「それにな、約束ではアイテムが全部そろったらという事になっとる。〈天使の像〉が違っていたという事は、この条件は満たされてへんのや」
「だめったら! だめったら!! ダメエェェ!!」
あたしの絶叫も虚しく、怪盗ミルフィーユの復活宣言が発表されたのは、それから一週間後の事だった。
長いお話に付き合って頂きまして本当にありがとうございました。
「怪盗ミルフィーユ」のお話はこれにて終了でございます。
結局、ミルを怪盗をやめることなく今もオーパーツを盗みまくっております。
それでは、また。