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アホで不憫な彼は異世界で彼女を作る為に奔走する  作者: 名無しの権兵衛
第三章

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誘拐

 ララは今連れ去られている。しかも、頭に袋を被されているから、どこに連れて行かれているかも分からない。



 ただ分かるのは誰かに担がれている事だけ。



 何故こうなったかというとララが部屋で過ごしていたら窓が開いたと思ったら、突然人が部屋に侵入してきたのだ。咄嗟に叫ぼうとしたが、口を塞がれて頭に袋を被されてしまった。



 手際が早く一瞬の事だった。だが、運良くチルがララの部屋に訪れたのだ。今日はショウに会いに行こうと思っていたから、ララはチルを呼んでいたのだ。



 チルが入ってきたら、すぐにララは侵入者に担がれて連れて行かれた。チルもララを助ける為に追い掛けた。今もチルはララを担いで逃げる誘拐犯の後ろを走っている。



「くっ、待て!! ララ様をどうするつもりだ!!」



 チルが必死で追い掛けているが、ララを担いでいる誘拐犯の方が速い。ララを担いでいながらチルから逃げるなんて相当な足の速さである。



 チルも必死に喰らいついているみたいだが、誘拐犯の仲間が現れたのか声を荒げる。



「貴様ら奴の仲間か!!!」


「……」


「あくまで答えぬつもりか! ならば押し通る!」



 チルは誘拐犯の仲間を押し退けて、ララを追いかけようとしたが阻まれる。



「邪魔をするなぁ!!!」



 金属音が響く。チルが剣で誘拐犯の仲間と応戦している。しかし、ララの耳からその金属音もだんだんと遠ざかって行く。



 声も出せないララには何も出来ない。



(チル!! チル!!! 助けて!!)



 ただ心の中で必死に助けを求める事しかララにはできなかった。



「ララ様ぁ!!!」


「……」


「おのれ!そこをどけぇ!」



 チルは声を荒げて威嚇するように誘拐犯の仲間だと思われる男達に言い放つ。だが先程から男達の様子がおかしい。チルの言葉にひとつも反応しない。



 それに終始無言で、ただチルの邪魔をして武器で襲ってくるだけ。それに加えて目に生気が感じられない。もしかして操られているのでは無いかとチルは疑問を抱く。



 疑問に思うが一刻も早く、この男達を倒してララを追い掛けねばならないとチルはショウに貰った剣を抜いた。



「フラガラッハ!」



 チルの剣は長年愛用していて生涯使い続けると思ったのだがショウによって砕かれてしまった。もちろん怒りはしたがそれよりショウの実力にチルは驚いた。



 剣を新しくしようとしたのだがショウが剣を壊してしまったお詫びにと、フラガラッハをチルにプレゼントしたのだ。



 チルも騎士であり剣の使い手であるのではフラガラッハが大層な名剣だとわかった。わかったと言うより感じ取ったのだ。



 最初は断ったがララにも受け取るように言われたので有難くチルは受け取ることにした。



「さあ行くぞ! 下郎共!!」


「……」



 敵は短剣、長剣使い。長剣使いの方が斬りかかってくる。それを受け流し、体勢が崩れた所を狙おうとしたが短剣使いに邪魔をされる。



 どちらか一人を倒さねば厄介な相手である。



 今度は短剣使いが連続で斬りかかって来る。剣で応戦するが向こうの方が手数が多い。チルは掠り傷を負ってしまう。



「少しはやるようだな」



 相変わらずの無口である。今度は長剣使いが斬りかかって来たと思ったら、ただの囮で短剣使いがチルを刺そうと迫ってくる。



 チルはなんとか身体を捻って躱す。どうやら連携はうまいようだ。ならばこちらも本気で相手をしようとチルは剣を構え直す。



 長剣使いへと、一気に踏み込み斬り伏せようと上段から剣を振り下ろすが受け止められる。チルが鍔迫り合いをしている時に短剣使いが隙だらけの背中へと突っ込んで来るが、チルは背面蹴りで短剣使い吹き飛ばす。



 邪魔をされる心配がなくなったのでチルは剣に込める力をさらに増す。チルが力を込めたことによってフラガラッハが相手の剣を斬り裂いた。相手を斬らないように剣を止める。


 恐ろしい斬れ味だ。あのまま剣を振り下ろしていたら相手ごと斬り裂いていた所だ。チルは感謝の気持ちと共に畏怖の念を抱いた。これだけの剣を他人に譲れるショウに。



 ララが誘拐されたと報告を聞いたガストンとゼオンとショウは城を飛び出した。



 三人で別々に行動した方が効率がいいと言う事で、現在三人は別々に行動している。



 街の裏路地をガストンは走り回っていたらチルを見つける。



「おい、チル! ララは?」


「ガストン様!! ララ様は今誘拐犯に捕まっております!!」


「誘拐犯がどっちに行ったかわかるか!?」


「はい! ララ様の匂いを今追ってます!」


「よし、急ぐぞ!!」



 チルとガストンは誘拐犯が向かった方角へと急ぐ。最悪の事態にならないことを祈りながら。



 裏路地を抜けて出た所は古びた教会があった。こんな所に教会があったことはチルもガストンも知らなかった。



 ガストンとチルは教会へと入る。中にいたのはララと思われる少女を肩に抱えた男が待ち構えていた。



「観念しな。てめぇはもう終わりだ」


「……」


「ガストン様気を付けてください。奴は正気ではありません」


「どういうこった?」


「誘拐犯の仲間と思われる男達と戦ったのですが正気ではありませんでした。もしかしたら奴も」


「なるほど……」


「もしかしたら操られているという可能性も」


「可能性大だな」



 ララを誘拐する目的は分からないが黒幕は別にいるようだとガストンは確信する。しかし、今はララを救うことが先決だ。



「チル手を出すなよ。俺が戦う」


「しかし……」


「操られてるんなら少しはやるかもしれねえだろ? 楽しめそうだぜ!」



 チルはガストンを見てため息をつく。失礼な態度であるが、今は緊急時だというのにガストンの性格なので仕方がない。



 男はララをそっと床に置くと同時にガストンへと突っ込んだ。



 どうやらスピードは中々のようだ。今日は武器を持っていないのでガストンは素手で戦う。



 向こうはナイフ二本で攻撃をしてくる。中々の使い手らしく先程から反撃を行える隙がない。



 それにナイフだけではなく体術も優れているのだろう。ナイフと蹴りの連撃は凄まじいものだ。



「へへっ! 中々やんじゃねえか!」



 蹴りを受け止めそのまま投げ飛ばす。投げられた男は空中で体勢を立て直しナイフを投げつける。避けるまでもないガストンはナイフを掴む。



 壁まで吹き飛んでいた男は壁を蹴りつけてガストン目掛けてと飛ぶ。男は懐からナイフを取り出す。ガストンが、また掴もうとしたら男はさらにナイフを取り出し斬りかかって来た。



「くっ!」



 ガストンは横に飛んでナイフ避ける。険しい顔をしたが、ガストンは内心楽しんでいた。意外に戦える敵に。



「ガストン様!!」


「心配すんな! これくらい余裕だ!」



 チルが心配してガストンへと駆け寄るが、それを止める。



 これ以上時間は掛けるのはよろしくない。きっと、今もララは怖くて堪らないのだろうから。



 ガストンは身体強化を施し一気に男の懐へと飛び込む。男は驚きナイフを取り出そうとするが遅い。



「はっ!!!」



 拳を叩き込む。鳩尾に直撃した敵はそのまま倒れる。



 チルがララの元へと駆け寄る。どうやら怪我も無いようで安心した。



 誘拐事件はこうして幕を閉じたが、誘拐犯と誘拐犯の仲間に問いただしたが何も覚えてないということだった。他に黒幕がいるようだ。

改訂済み

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