混戦
ショウが学園へと向かい始めた頃、ローラはたった一人で魔物を相手にしていた。騎士であるローラは己の役目を果たそうと奮闘している。
「アクセル!!」
だが、ローラにとって今の状況は厳しすぎる。周囲を囲むほどの魔物を相手にするのは厳しいものがある。先程からスキルを駆使しているが魔力の消費が激しすぎる。
「アクセル2!!」
ローラのスキル【アクセル】は段階的に速度増していく。だけど、その分魔力の消費量も変わってくる。現在、ローラが使用出来るのは5が最高だ。だが5を使えば、ほぼ全ての魔力を消費してしまう。
なんとか今は魔力を節約しなければいけない状況でローラは持ち堪えている。しかし、魔物の数が異常に多いのでどこまで持つか怪しい。
「はああああっ!!!」
ローラは気合の入った声を上げながら、魔物の大群に突っ込んで、一気に魔物を倒して行く。
「ぐ……」
そして魔物もただではやられまいと反撃をした。流石に全部を防ぐことは出来ない。小さい傷がどんどん増えていく。
「まだまだぁ!!!」
再び魔物の大群の中に突っ込み魔物を倒して行く。しかし、思わぬ反撃を貰いダメージを受けてしまう。
「しまっ!? がっ!」
疲労した所を狙われ魔物の攻撃が直撃してしまった。立ち上がろうとしたらフラついてしまう。どうやら先程の攻撃が思った以上に足に来ている。
レイピアを杖代わりに立っていたローラに魔物が襲いかかる。
(ここまでか……)
ローラは目を閉じて覚悟を決める。
「オラァああああああああ!!!!」
目を閉じていたらショウの声が聞こえた。ローラが目を開けると魔物の大群は一匹残らず全滅していた。
「ショウ!!」
「うぃっす!」
「捕まってたんじゃ!?」
「色々あるわけよ。それより大丈夫か?」
「ええ。大した怪我はないわ……」
「嘘つけ! 足震えてんぞ」
「こ、これは武者震いよ!」
「さっきまでレイピアを杖代わりに立ってたじゃないか!!」
「う、うるさい!」
「んなっ!! 人が心配してやってんのに!」
「えっ」
「えっ?」
「あっ、いや、その」
「あ???」
「そ、それよりどうしてここに!」
「おっ。そうだった。学園に行かなきゃ」
「学園って? もしかして魔獣を倒しに行くの?」
「ああ。早く行かないと!」
「大丈夫なの!?」
「んー。わかんねぇや」
「はあ?? わかんない? ふざけてんの!?」
「いや、だって伝説の魔獣なんだもん!」
「もんじゃないわよ!! キショいのよ!」
「そんだけ元気なら大丈夫か!」
そう言うとショウはそのまま学園の方へと走り去っていった。見なくなったショウを思ってローラはポツリと呟いた。
「………どうか死なないで!」
市街地の方では騎士団が避難民を守りつつ、魔物と相対していた。
「なんとか持たせろ! ここを突破されるな!!」
ナイザーが守っている場所には大勢の住民達がいる。怪我をしている者を含め老若男女の住民達だ。
その中には勇者と呼ばれる異世界より来たりし少年少女もいる。勇者達にも戦って貰いたいのだが、いかんせん彼等全員恐怖し怯えている。
(勇者と言えどまだ子供か。戦力になると思っていたが仕方がない……)
心の中でナイザーは不満を零す。それでもナイザーは魔物を一匹でも多く倒す為に剣を振るい続ける。
「うわっ!」
「あがっ!!」
「があっっ!!」
次々と騎士達が倒れて行く。騎士が弱いのではなく、魔物の多さと守りながら戦うという不利な状況では騎士達も苦しいのだ。
「せやああ!!」
ナイザーが周囲の騎士達を鼓舞するかのように声を出しながら魔物を両断する。しかし、このままではここを突破されるのも時間の問題である。
ナイザーだけでは限界がある。一匹、また一匹と魔物を倒していくナイザーは焦りの表情を浮かべる。
(何かないのか。この状況を打破する何かは!)
「でやああ!!」
「大輝! 伏せろ! はっ!!」
「紅蓮華!!」
「みなさん、私の後ろに《拒絶の防壁》!!」
大輝が剣で魔物を両断して、楓は大輝を襲うとした魔物を弓矢で打ち抜く。そして、クリスが魔法で魔物を一掃して、留美がスキルで魔物から住民を守る。
ナイザーは安堵する。異世界より来たりし勇者の中で一番の実力者達が来てくれたことに。
「団長! 俺たちも戦います!」
「よし! 陣形を整えるぞ!!」
ナイザーが勇者達に指示を出す。だが、そう上手く行くことはなかった。魔物の数がさらに増えたのだ。
「なっ!!」
いくら何でもこの数は勇者達を含めても防ぎきれない。
「うわああ!!」
判断が一瞬遅れた上にナイザーが守っていた場所とは反対の方向から悲鳴が上がる。振り向いたナイザーの目には倒れている騎士と魔物に襲われている住民の姿が映る。
「きゃああああ!!!」
「うわああ! こっちに来るなぁ!」
「ひいいいい!」
逃げ惑う住民達に群がる魔物。ナイザーが助けに向かおうとするが、間に合わない。それでも、見殺しには出来ないとナイザーが駆け出そうとした時、一人の人影が飛び出してくる。
「ずあああああああああ!!!」
住民達に襲い掛かろうとしていた魔物達が魔法により一気に消し飛ばされる。これ程の威力の魔法を撃つ者がいたとは思いもしなかったと驚くナイザー。
その場に目を向けたら勇者達と同じ黒髪の少年が立っている。そこには、何故かドヤ顔で立っているショウがいた。
「ふぅ……ナイザー団長!」
ショウがナイザーに駆け寄る。周囲の魔物も先程のショウが放った魔法で一掃されたので、ナイザーも安心して話が出来る。
「君はどうしてここに?」
「そんなことよりルドガーさんは?」
「ルドガーなら学園にいる。まさか君も学園に行くのか?」
「はい。ナイザー団長は?」
「私はここを守らなければいけない。すまないな……」
「大丈夫です! それじゃ俺は行きます!」
「ショウさん!!」
住民達の中からセラがショウに歩み寄る。セラの無事を確認したショウは喜びの声を上げる。
「よかった。セラさん無事だったんすね!!」
「はい! それより学園に行くんですよね。お願いです! 父さんを頼みます! それと私の大切な友達も!」
「わかったっす。それじゃ!!」
ショウは急ぎ学園へと去っていった。去り行くショウの背中を見詰めながらナイザーは自身の願いを呟く。
「我が娘と友を頼む。異世界の勇者よ……」
ショウが学園に辿り着き見た光景は、たった一人で血を流しながら戦っているルドガーの後ろ姿であった。
周りには倒れた冒険者もいる。その中にはリズ達もいた。ショウは先に負傷者の救出を優先してリズ達に駆け寄る。
「リズさん! キアラさん! ソフィさん!」
「ショ、ショウ!!」
「ショウさん!」
「ショウちゃん!」
「まだ動けますか?」
「なんとかね……」
「それなら俺はルドガーさんの所に行きます! 倒れている冒険者をお願いします!」
「わかりました」
ショウリズ達の無事を確認する。まだ動く体力のある三人に他の負傷者を任せてルドガーの元へと全速力で走る。
「ルドガーさん!!」
「小僧か!?」
「はい! ルドガーさんも一旦下がって下さい!! 街の方に行って傷を治して来て下さい!!」
「なっ! 一人は無理だ小僧!! 私でさえこの有様だぞ!」
「GURRRRRAAAAA!!!」
二人が口論しているところに魔獣が攻撃を仕掛ける。
「くっ!!」
避けることは出来たが、出鱈目な威力に顔を顰めるショウ。魔獣の攻撃が当たった学園の方にチラリと目を向けると、そこには瓦礫の山が出来ていた。
「ルドガーさん!! これ以上血を流したら!」
「ぐぅ……」
「ルドガーさん! セラさんに言われたんすよ!! お父さんを頼むって!! お願いっす!! 一旦退いて下さい!」
「セラがそう言ったのか!?」
「そうっすよ!!」
「……小僧!! 少しの間任せれるか!?」
「任せて下さいっす!!!」
「ふっ……頼もしくなったな!」
ルドガーは鼻で笑った後、下がっていった。一人残ったショウは魔獣と対峙する。
「GAAAAAAAAAAAA!!!」
「グングニールゥゥゥ!!!!」
後方へと下がっていくルドガーに攻撃しようとしていた魔獣に向かってショウはグングニールを投げ付ける。
グングニールは弾かれたが攻撃を逸らすことには成功する。
その間にルドガーは退却しており、冒険者達もリズ達により避難していた。これでショウ一人である。
ショウは懐かしさに思い馳せる。過去にダンジョンで一人戦った、あの時を思い出して。
「さぁ来い。伝説の魔獣よ!」
「GYYYYYAAAAAAAAA!!!」
空気が震える。圧倒的な強さ。絶対強者の威圧。どれをとってもショウが勝てるものはない。されど、退く事をしないショウは強気の笑みを見せる。
改訂済み




