大奮闘
その者はただ街が混乱に陥るのを黙ってみている。黒のローブで全身を隠しておりどこか怪しい雰囲気を出している。
街では魔物が暴れている。
それも一体ではない。何十何百という数の魔物が人々を襲っている。
その中には、昔この大陸を滅ぼす手前まで追い込んだ伝説の魔獣の姿もあった。
街は阿鼻叫喚の地獄と化している。
ただその者は見下ろすだけ。どれだけの悲鳴が聞えてこようとも一切の興味を示しはしなかった。
◆◇◆◇
さっきから地上の方が騒がしい。それに爆発音も聞こえた。何かがおこっている。しかし、俺は檻の中だ。
魔法もスキルも使えない、無力。だけど、これが本来の俺なんだ。元々、俺はこの世界に来る前は何の力もなかった。
それが、たまたまこの世界に呼ばれたことで力を得て調子に乗った結果がこれである。といっても、嵌められたのだが。
でも、皆が気になる。果たしてみんなは無事なのだろうか。ここから出ることさえできれば確認する事が出来るのに、なんて情けないんだろう。
俺はやっぱり……弱いな……
ダメだ!
弱気になっちゃいけない!
だけど、どうする!?
この状況を打破するには!!
俺が一人壁を殴り自分の情けなさに呆れていたら、看守のお兄さんが来て檻の鍵を開けてくれた。
なんで??
「看守のお兄さん?」
「ハァ……ハァ……大変だ……今、地上ではお前の言ったとおりになってる。それどころか伝説の魔獣以外の魔物も街に溢れかえっている」
「なっ、マジっすか!?」
「ああ……!」
くそっ!
予想よりも最悪な展開かよ!!
「急いで街へ行け……」
俺は看守のお兄さんに言われた通り行こうとしたが、看守のお兄さんの様子がおかしいことに気づく。
「看守のお兄さん。もしかして怪我してるんすか!?」
「へっ。ただの擦り傷だ……」
どう見てもやせ我慢だ。あんなに脂汗が出てる。きっと必死に痛みに耐えているのだろう。
それに呼吸を整えていると思って脇腹を抑えていたのではなく脇腹に怪我を負ってるに違いない。
「ちょっと見せて下さいっす!!」
「あっ、おい!」
看守のお兄さんの脇腹が酷いほど青く腫れ上がっていた。これは骨が折れている。俺も以前怪我をした時こうなったからわかる。
これは脇腹をモロに攻撃されたのだろう。
「看守のお兄さん、これ!?」
「馬鹿野郎! 俺なんか放っておいて行け!」
「そんなこと出来ないっすよ!」
「アホんだら! お前が今行かなきゃ誰が行くんだよ!」
「けど、この怪我は!」
「いいか! よく聞け!! 俺が今こうしてここにいるのはな。お前ならなんとかしてくれると思ってるからだ!!」
「なっ……だって看守のお兄さん。俺とあんたは会って数日程っすよ!! なんでそんな俺を信じれるんすか!?」
「俺の勘だ!!!」
「勘……」
「そうだ。何でかはわからねぇ!! けど、お前なら出来ると思ったんだよ!!」
「……」
「だから……行け……」
「だああああ! 俺を信じてくれた人を置いて行けるかよ!!!」
「お、おい!!」
俺は看守のお兄さんを担ぎ身体強化を施し全力で街へと向かう。急いで看守のお兄さんを回復魔術師の元へと連れて行く為に、俺は街を駆け抜ける。
「くそっ! どこだ!?」
街を見る限りそこら中に怪我人や死体が転がっている。そして、数え切れないほどの魔物の死体もそこにはあった。
建物も崩れており瓦礫の山となっている。俺は、その中を看守のお兄さんを担いで走り抜ける。
くそっ!!
なんでこんなことが出来るんだよ!!
初めてだった。前の世界ではこんな光景を見ることなど無かったからだ。あったとしてもそれはテレビの向こうだけだ。実際に目の当たりにしてみると直視出来るような物ではない。
俺はなんとか回復魔術師を見つけた。その中には清水の姿が見える
「清水!!」
「へっ? や、山本君!」
「頼む!! 看守のお兄さんを治してくれ!! 俺はすぐに魔物を倒しに行く!!」
「わ、わかった!」
清水に看守のお兄さんを預けて魔物を倒しに街を駆け回る。
頼む!!
みんな無事で居てくれ!!!
◆◇◆◇
「ハァ……ハァ……」
「クルト……」
クルトはリジーを連れて逃げているが魔物の数が多すぎる。それに守ってくれるはずの騎士達も苦戦している。このままでは、いずれやられてしまう。
なんとしてでもリジーを守ると決意するクルト。剣を握り締める力が一層増した。
逃げ回っているクルトとリジーに魔物が襲い掛かる。なんとか剣で防ぐ事が出来たが今の攻撃で剣にヒビが入る。
恐らく次に襲われたら持たないだろう。覚悟を決めるクルトはリジーに顔を向ける。リジーもクルトの覚悟が伝わり、心配そうに名前を呼ぶ。
「クルト……」
「……リジー。いざとなったら僕が囮になる。だから君だけでも逃げてくれ」
「そんなこと出来ない!!」
「お願いだ! 僕は君を失いたくない!!」
「私だってクルトを失いたくない!」
リジーと口論している隙を突いて魔物が再び襲いかかって来る。クルトは、魔物の攻撃を剣で防ぐ。しかし、剣が完全に折れてしまい戦うことすら出来なくなった。
剣を失い、防ぐ術を無くしたクルトとリジーを取り囲む魔物。せめて、リジーだけでも守ると誓ったクルトが前に出ようとした瞬間、ショウは現れた。
「カッコ良すぎだぜ。クルト!!!」
背後から声がしたと思ったら、目の前にいる魔物達が弾丸により撃ち抜かれ絶命していた。
クルトが振り返るとそこには彼がいた。
クルトにとってショウは最初に会った時はどこか頼りなさそうな印象だった。だけど、今は違う。
こんなにも頼りがいのある人間にショウはなっていた。やはり、ショウはクルトにとって掛け替えのない恩人で、生涯の友と呼ぶに相応しき男だと心底思った。
「ショウ!!」
「ショウさん!」
「悪いがずっとは守れない。だからこれを持ってろ! 必ず役に立つ!」
そう言ってショウが渡したのは盾だった。
「これは?」
「それがあれば全ての攻撃を防ぐ。神級を撃たれてもビクともしないさ!」
「なっ! そんな物を受け取れないよ!!」
「アホ! リジーさんを守るんだろ?」
「それはそうだけど! でも、これは君が持っていた方がいいに決まってる!!」
「心配してくれるのか?」
「当たり前だろう! 君は友達じゃないか!!」
「……尚更受け取れ」
「なっ! だから君が!」
「リジーさんを守れよ!」
「お、おい! 待て!!」
ショウはクルトに盾を無理矢理押し付け何処かへと走り去って行く。
「クルト……」
「リジー……僕が守るよ君を」
「うん!」
「我が友から貰った、この盾で必ず君を!」
この危機を乗り越えたら、いつかきっとショウに恩返しをしようとクルトは心に刻んだ。
「お母さん!マルコ!」
今、マリー達は魔物に襲われている。マリーがなんとか魔法で撃退してはいるが、いつまで魔力が保つかわからない。
セリカはルドガーには強いが魔法はあまり得意ではない。マリーもセリカの血を濃く受け継いでるらしくあまり得意ではない。
しかし、ルドガーの血も受け継いでいるのでセリカよりは強い。そして、子供の中ではセラが最も強いが今は関係ないであろう。
もし、ここでマリーが倒れてしまえば後ろの二人は無事では済まない。
最悪のビジョンが頭をよぎり、マリーはさらに魔力を振り絞る。絶対にマルコと母には手を出させないと意気込む。
「はああああ!!!」
マリーが展開している結界に魔物たちは押し寄せる。次々と攻撃を仕掛ける魔物たちにマリーは焦る。
そして、ついに最悪の時が訪れてしまう。マリーの魔力が尽きてしまったのだ。魔物はこの時を待っていたかのように津波のように押しかけてくる。
「お母さん!」
「大丈夫よ。マルコ!」
「ごめん……お母さん……魔力が……!」
「マリー……」
マリー達はお互い抱きしめ合って最後の時を迎えようとしている。悲壮感漂う中、一人の男が雄叫びを上げながら乱入してくる。
「うらあああああああああ!!!!」
マリー達の耳に懐かしい声が聞こえる。振り向いた先にはショウが大量の魔物と対峙している。
「ショウウウウウッ!!!」
マリーはいつの間にか叫んでいた。目の前ではショウが魔物の大群を相手にしている。見る見る内に魔物は減って行き、そして最後には一匹残らず全滅した。
「無事っすか!? セリカさん! マリーさん! マルコ!!」
「ええ。ショウくんのおかげで無事よ」
「ショウ兄いいいいいいいいい!」
「よかった……ショウ……」
マリーは嬉しさと先程の恐怖心からの解放で涙を流しながらショウの胸に飛び込む。
「うおっ! マリーさん。あの……その……えっと!!」
童貞であるショウには刺激が強すぎて、動揺している。そんなショウを見たマリーは微笑ましくなってしまう。
「大丈夫よ。ショウ。安心したら涙が出てきただけ」
「あっ、そうなんすか。よかったぁ~」
本当、ショウを見てると安心するとマリーが安堵する。
「俺学園に向かいます!きっとあそこが全ての原因っす!!」
「わかったわ。ショウくん」
ショウは学園に向かうらしい。今、学園の方からおぞましい気配をマリー達も感じていたのだ。
「それとこれっす! これが皆を守ってくれるっす!」
「ショウ。これは?」
「イージスの盾っす! これはあらゆる攻撃から守ってくれます!!」
「それならショウが持ってた方が……」
「いや、これはマリーさん達に預けておくっす!」
「預ける?」
「はいっす! 俺行ってきます! 返してくださいね!」
ショウはそう言うと颯爽とこの場を去っていく。その後姿を見ながら、マリーはショウの無事を祈る。もう一度、買い物に付き合って貰う為に。
一方、その頃ショウはマリー達と別れた後、頭を抱えている。
「ううぅ。我ながらキモイ……何が返してくださいね、だ。穴があったら入りたい」
自分のキャラじゃないと落ち込んでいた。
改訂済み




