49.やばい。そのルビおかしくない?
今夜のために新調したドレスはいつもより華やかでそれでいて美しかった。
真紅を基調に黒や青がまだらに入りラメが膝より下から宇宙を広げるように入っている。
マーメイドドレスは美人にこそ似合う。
国家予算が彼女のために使われてるとしても、文句の一声ほどでないほどに今宵の彼女は美しい。
それに加えて持ち前の美貌、儚げで美しい顔立ち、きめ細かな肌、丁寧に手入れされた髪は長く伸びてようとも一本たりとも乱れることはない。それに続くスラリと伸びる手足、優雅な所作、あげればきりはないが彼女を褒め称える声は止むことはないだろう。
10人人がいれば15人が振り向く。5人はわざわざどこからか見に来るだろう。100点満点なのに100点じゃ物足りない。人が彼女に点数をつけるすらおこがましい。そのくらいの神々しさであった。
※もちろんアイリーナの話である。
対するメイリーンのドレスはもちろんいつも通り。Aラインのレースがかかった可愛らしいドレスである。
もちろんユスタが丹精込めてメイリーンを美しくしているのだが、隣に月があればやはりそちらを見てしまうのが人の道理。
「私達造形はほぼ一緒なのにね。胸に大差はあるけど。本来はAとかベルとかプリンセスだけじゃなくて、マーメイドもエンパイアもスレンダーも似合うはずなのにね。不思議ね」
しみじみとした顔で姉が言う。
「は?え?知らない単語でてきたんだけど」
「嘘でしょ?あんた私のドレスの型なんだと思ってる?」
その顔はなんとも信じられないという顔だ。
ユスタやミエルダすらも顔を見合わせている。
「え?縦長だなって」
っていうか型とかあるんだ。という言葉は余計かと思いメイリーンは一応飲み込んだ。ただ意味はなかった。
「こいつ終わってる」
「あれ?ねぇお姉様?そのルビおかしくない?」
その後ドレスの違いについて図と共に永遠語られた後、メイリーン達は誕生日パーティーに向かった。エンパイアって単語だけ覚えた。ドレスは忘れてたけど単語だけ覚えた。だってなんかかっこいい響きしてるもんね。
さて、月の女神様兼星の創始者兼宝石の君兼僕のヴィーナス兼あとなんだっけ…?いろんな呼び名がある彼女は今宵も忙しい。引いては押し寄せ引いては押し寄せ。波かよってくらい新たな人が姉のもとにやってくる。そもそもこんなに呼ぶ人がいたのかってくらい今日は多い。姉の誕生日の威力よ。年に2回もあるというのに。
アイリーナとは対照にメイリーンはいつも通り壁の花だ。いつも通りというほどパーティに参加した記憶もないのだけど、大抵自分は広間の済の方でオレンジジュースを飲んでいる。何杯飲んでもうまい。
広間の中心には月の女神様…etcという大輪の花が咲いているのでパーティとしてそれで良しなのだろう。もちろん自分にも挨拶に来てくれる方々がいらっしゃるのだが、顔も覚えられないし家も覚えられないし、恐ろしいことに自分の部下もいるしでメイリーンは冷汗がとまらなかったりした。
知らなかったけどアホとあんぽんたん達は貴族だったんだな。騎士もして社交界には顔を出して…彼らも大変だ。今度遠征に出たらなんか労ってあげようか。
「妹殿下は姉殿下に似ていらっしゃるな」
「でもやっぱり姉殿下だよなぁ。くぅ〜俺たちも姉殿下ともっと話してみたいよなぁ」
あー。やっぱなしだな。次の遠征もキリキリ働いてもらおう。
「それにしても、お姉様って誰に似たんだろ。お父様だった認められないなぁ。」
かつての父があれほどモテていたのなら認められない。
仕事を当たり前かのように投げてくるわ、めんどくさいことはやらないわの父がモテていたとか考えたくもない。
「んー。僕達の子は似ないといいね」
うっかり漏れた言葉を拾ってくれたのは、天使だった。じゃなかったシエル様だった。どっちも一緒か?じゃあどっちでもいいか。
先程は姉や父に挨拶をしていたが、いつの間にか彼は隣に来ていた。
シエル様いつの間に隣にいたんだろ。距離の詰め方がうまくなってる気がする。
天使オーラの抑え?いや?気配の消し方がうまくなったのか?
うんうん。鍛錬を続けていらっしゃって偉いぞ!
と、言うこともできず。無難に言葉を返していく。
「そうですね。シエル様との子供はうんと可愛らしいく神様もびっくりするぐらい愛らしい天使が生まれるに決まってますが、それが災いしてお姉様みたいに腹黒にならないのとを祈るしかないですね!」
可愛いが度を過ぎて姉みたいになってしまう自分の子は些か見たくはない。
「え!シエル様どうしたんですか?そんなキョトンとして。なんというか烏?が銃口?を向けられたような表情ですね」
「烏が銃口を向けられるのか…それは…なんとも緊張感のある場面だね。豆鉄砲ならまだしもね。メイリーンが当たり前のように僕との未来をみてて感動した」
いつも背景となっている彼の後ろにいる従者もほろりと涙を流しているようにみえる。
「なんでですか?シエル様と私婚約してますし、将来もずっと一緒ですもんね?」
「わぁ。メイリーンがこんなこと言うなんてこれは何らかのフラグなの?僕このフラグイヤな予感しかしないんだけど」
上げて落とされることに慣れてきているのも悲しいなぁ。とシエルは独り言を尚も続けた。
「ところでシエル様なにか面白いお話聞けました?」
「僕はメイリーンに面白い話を聞きにきたんだ」
「ラナックが今度はお姉様のポーチを拾ってそのまま届けてない話ですか?だめですよ。次の交渉に使いますので」
どうして姉はよく物を落とすのか、どうしてラナックがよく拾うのか、どうしてそれを私が知っているのか
というところまで聞くと面白い話だと思うのでシエル様には興味をもって貰いたいところではあるが…
「ふふ。それも興味あるけど。ね。こんな風に警備配置した?この間メイリーンと僕とで配置した時はもう少し少なかった気がする。それに招待客も予定より多くない?」
「え?そうなんですか?」
先程招待客の多さがこれほどまでとは…流石姉の威力…と思っていたが、まさかほんとに人が多いとは思わなかった。招待客リスト見ても顔と一致しないのでそのあたりは姉に任せっきりにしてたので全然気づかなかった。
「わぁ。まさに鳩が豆鉄砲をくらったような表情だね。大丈夫だよ。僕が気づいてることは当然君の優秀なお姉さんも気づいてるから」
ふわりと笑う。ドキリともするし、安心もする。いつまでもこんな風にわらって欲しいとも思う。
「…シエル様…念の為父の近くに居て下さいませんか?」
我が姉の近くには警護というチャンスをつかってラナックがへばりついている。
ミエルダも侍女として近くにいるだろう。
「……仕方ないね…。本当はもっと僕も頼ってほしいけど…」
「いつも頼ってますよ?」
今も父をお願いしてるし、前にも雨の中部下を呼んでもらったこともある。青年の説得もシエル様のおかげだったし、頼ってばっかりだ。
メイリーンの発言など少しも響かなかったようで、残念そうに微笑みながらシエルはゆっくりと父の方に向かっていく。
しかし、どうしたもんか。警備は確かに多い。配置からして少なくとも3人は多い。招待客は全く覚えてないのでどれ程多いかはわからない。
多く見積もって全員で10人くらいだと思いたい。
いつも攻めることだけ考えていたし実際に行動してたのもあって、攻められるのって慣れないなぁ。
攻めるのって自分一人だし、誰かの安全を考えたことってほとんどないかも。
でもここには我が姉様がいらっしゃる。かすり傷1つつけようもんならあの一欠片で男を虜にするというスペシャルクッキーが一生食べれなくなってしまう。
それにシエル様がいる手前下手に動けない。
あの笑顔が、軽蔑に変わるなんて見たくない。
どうしたものだろうか。
メイリーンが考えあぐねていると
それは、一瞬だった。
爆発音とともに壁が壊れ。爆風が舞う。悲鳴とこの場を征する声が同時に空間を制圧する。
まるで烏が銃口を向けられたような。
そんな緊張感に一瞬で飲まれた。




