19.やばい。城下に伏兵が。
「ね?メイリーン。ちょっと来て」
急に繋いだ手を引っ張られたかと思うとシエルは足早にかけていく。
人混みを抜けた頃にシエルの足は一旦とまり、その場にあった店に入る。
やけに周りを気にしながらキョロキョロとしてる。
「何か気になるものがあったのですか?」
「ん?うん。そうなの。この店の………………」
「……何この店」
「石ですね!」
「石……」
シエルはまじまじと石を見る。薄ピンクや白、茶色
などの様々な石が磨きあげられている。
「北の鉱山でよくとれるのですよ?持ってると運気が上がるんだとかなんだとか!例えば白なら幸運とか!」
「プレゼントとして、『貴方に幸運を』なんて言いながら渡したりするのです。小さいものは紐を通してアクセサリーにしたり……」
「あぁ石のことね……石って……そうかもしれないけども……。そういうことなら僕の幸運は黄色だなぁ……」
「黄色の石……つまりお金……」
「なるほど。シエル様の幸運はお金…………大事ですもんね」
「え、ちょっとまっ……」
「経済のことですもんね」
「国をどうするかに関わりますもんね」
うんうん。流石シエル様。やっぱり第一王子だなぁ
「け、経済?」
「シエル様は国の経済の事考えててすごいですね!私はお父様やお姉様に任せっきりでして……」
「あ、うん。違うけど。そう捉えてくれるなら、まぁなんでもいいや。僕だったら金が幸運とか言う人がいたら普通にまずは驚くけどね。正直すぎるだろって」
「ってちがうよ。どちらにせよ金じゃないから」
「私もこの石でできた黄色と青のブレスレットを、お姉様とお揃いで持っているんですよ。お姉様がある時、姉妹の印よ!とかいいながらくれました!戦じょ……じゃなくて……公務?の時は必ずつけたりしてます。お姉様はまぁつけてるの見たことないですけどね!」
「お揃い……同じ色でお揃いなんて可愛らしいね」
「そうなのです!だから私はそれをとても大事にしてまして」
なんて、石の店で品物もかわず盛り上がっていると突然
「うぉおおぉぉー。誰か挑戦者はいないかぁー!」
近くの広間で大男が拳を上げて叫んでいた。
この国では挑戦者同士の戦いを賭けたりすることがよくある。内容は武器での争いはご法度なので、肉体での殴りあいや、腕相撲、魚釣り勝負、はたまた大食いなど様々である。今日も行っているのだろう。
「あんちゃんにかなうやつなんていねぇさ」
「あぁあんちゃんが英雄王なんじゃないんかね」
わいわいと人だかりが賑わっている
「武術大会……みたいだね。あの人スッゴく強そうだね。僕なんか一発であの世行きかもしれないね。……………ふふっ…気になる?」
「え?いや、なんだろうなって……」
やばい。見てた?私見ちゃってた?だってほらあぁいうのって血が騒ぐというか、私を呼んでるんではないか、とか。その、つまり
行きたくなる。
というか、よく参加してるのだ。相手から一本とる試合はとても楽しい。相手をよく見ること、咄嗟の判断、こちらの戦術。そういうものがどのくらい通じるのかがよく分かる。
目下私の目標は腕相撲大会の優勝だ。ごついおっさんどもに勝ってみたい。あれ、戦略とかないから、腕力の勝負だから。
そんなこんなでまず握力から鍛えている。意味あるのかわからんけども。でも鏡餅潰せた時はちょっと嬉しかったかな。
「見に行こう」
シエルは繋いだ手をひっぱりながら、さっと歩いて広場の中心の方に向かう。戸惑っていると、僕が見たいんだと天使の微笑みを向けられる。
シエル様がみたいなら……。
私じゃなくてシエル様がみたいなら……。
仕方あるまい!!
先程の男に細マッチョの男が挑んでいたところであった。大男は細マッチョの攻撃を受け止め、細マッチョは大男の攻撃をかわす。
お互いに良い勝負だ。
あぁーーー。わくわくする!どっちが勝つんだろ。あの細マッチョ意外と重そうなパンチを放つなぁ!大男は意外と動けるなぁ……!
「………………ふっ」
「………く……楽し…うに……見…ら」
「ね!シエル様はどっちが勝つと思います?私はいい勝負なのかなぁって!」
シエルの方をパッと振り向くと驚いた様子の彼と目があう。
「えっ。あぁえっと。あー」
まるで今から見るといった様子である。
「…………」
「小柄な方かなぁ」
「へ?」
「そこまで!一本!」
「うぉぉぉぉぉぉ細い男がかったぞ!」
「あんちゃんに勝つなんてやるなぁ」
あわてて試合に目を戻すと嬉しそうな細マッチョと悔しそうな大男が握手してる
「なんで……わかったんですか?」
「パッと見た感じ、大男が左側の反応が弱かったから、見にくいのかなって思っただけ」
え?うそ。ほんとに!?
そんな事わかるの?
慌てて男をみると、ちょうど今笑いながら相手と左目について話しているとこだった。見にくいと話しているのだろう。
「特別な事じゃないよ。ほんとにパッとみて思っただけなんだ。人の観察は城でよくやってる事だし、そんなに驚いた顔されると……すごくそそら」
「お嬢ちゃん。今日は武道大会でないのかい?」
「!!!!!????」
「ひげ、じぃ!」
突然声をかけられ、そちらを向くと、そこにはよく武術大会に顔をだしているひげ面のおじいさんがいた。メイリーンの城下の知り合いで、若い頃は警備隊だったそうな。武術大会で最初の方に挑み、これまた最初の方で負ける。負けた後は最後まで大会をみて、優秀な人材をマークして警備隊にスカウトするのが楽しいという、物好きなじいさんである。おかげで顔がものすごく広い。
メイリーンもよく参加しているため、顔を覚えているし、男に化けて警備隊に入らんかね、と何回も誘われている。
ってひげじぃの紹介している場合じゃない。うぉぉぉぉぉぉなんて事言ってくれんのよ。シエル様今の聞こえてた?聞こえてたよね?
「いや、今日は出ないよ!いつもでてないでしょ!ね?ね!!?」
「はて、何をゆーておるんじゃ?」
「ん?お前さん。このお嬢ちゃんのつれか?」
「こんにちは。僕はこのこの恋人です」
「そうかね。お嬢ちゃんもそんな年かね」
ふむふむと、納得したかと思えばひげじぃの目がキラリと光る。
ボソボソとした声でシエルに聞こえないように話す
「さては、お嬢ちゃん、彼にいつも大会でている事言ってないんじゃな?よしよし、そんな乙女心もかわいいのう。わしのつてを頼ってあやつが隣におる時は皆、お嬢ちゃん武術大会の誘いをしないように伝えてあげてもええぞ」
「ほんと!?」
そんな旨い話が!
「但し、これは貸しじゃ」
あるわけなかった!ですよねー!
「わしがてを貸して欲しいときはお嬢ちゃんの力を存分に借りるぞ。それとも、今ここで、お嬢ちゃんを武術大会に誘ったり、こないだの見事な蹴りで一本取った話を彼にした方がいいのかのぅ?」
あ、これ貸しじゃないなぁ。全然貸しじゃない。単なる脅しだったなぁ。
メイリーンはイエスと頷くしかなかった。
あぁ男装で警備隊に、いれられたらどうしよう。姉にばれたら雷雨3時間じゃたりないなぁ……。
契約成立した後、ひげじぃは今度はシエルに聞こえるように話す
「そうじゃった。わしの勘違いだった。いつも出てるのは君のお友達だったのう。年寄り故どちらが出てるのかわからんくなってしまった。すまないのぅ。今日はお友達おらんのじゃのう。残念じゃ。じゃあなお嬢ちゃん」
そう、ウィンクしながら去っていく。全然かわいくないじじぃだ。メイリーン今ならそう思える。
しかし、ひげじぃが作ったチャンス、乗っかっておくべき!(ピンチ作ったのもひげじぃだが!)
メイリーンは慌ててシエルにフォローをいれる。
「そうなんですよ。私じゃなくて、ユスタがでてるんですよ!」
そこまでゆって辺りを見回す。ユスタがいない。シエルの従者もいない。
あれ?いつからいなかった?ここに来るとき?いや、石屋の時にはいなかったような……。
「ばれちゃったかぁ」
イタズラが成功したような表情をしながらシエルは話す
「さっきまいちゃった!」
「まい…………え?」
じゃあ今は二人っきりという事だろうか……??
こ、これは、覚悟せねば
何かあった時に、私がシエル様を守らねばならんな。
キリッと顔を調えたメイリーンをみて、なんか思考が怪しいなぁと思うシエルがいた。