10.やばい。早々にお役ごめんなんだが
隣国といえども、王子と私はお互いに構えている城が結構遠く、3日くらいは移動にかかる。
それ故今回の王子の来訪は、わが城に短期滞在という形で来ている。
なので当然その期間の案内は婚約者である私の役目。
だったんだが。
昨日のディナーの後、やはり、雷が落ちた。雷雨である。しかも3時間。その内容は姉曰く。先程の王子への対応についてラナックから報告をきいた。儚げでも何もなく息荒く王子に迫るとは何事か。自ら手を繋ぐなど言語道断。なに考えてるんだ。
ともかくばれるからあんたはすっこんでなさい。
との事で
お役ごめん中。
王子のためにスケジュール開けてたし、ばれても困るため、戦場にもいけない。
やることとがない。
私の変わりに王子の相手をしている姉を窓からそっと見る。
絵になるなぁ。美男美女。
お互いの間に嘘もなくて。
……シエル様は婚約者お姉様じゃなくて、良かったのかな?
だってお姉様の方が気立ても良い。男を立てる話できるし。仕草一つとっても彼女の所作は美しい。お姉様と私は、ラナックの話からすれば月とすっぽんいや月とゴリラという感じだもんな。
このままでは……
あぁなんか心が重い。急になんだろう。本当に風邪でも引いたかな。
そうだ本でも読んで気分転換しよう。こういう時はやっぱりあの本だよなぁ……。
でも、お姉様には部屋からあまりでるなと言われてるんだっけ?
でもでも、このまま窓の外の二人を永遠見てるのもつまんないしなぁ
ちょっとだけなら……。
アイリーナ・センチュリーは大切でかわいい妹を守るために、胡散臭い王子を見極めんとする。
昨日のラナックからの報告には耳を疑いたかった。
メイリーンが儚げな雰囲気を出せないのは百も承知。彼女は戦場に身を置いている。鎧を被って儚げな雰囲気を出すわけでもないし必要性を感じない。だけど、私の妹という先入観、鎧を脱いだ状態での男性との免疫の低さからでる挙動、あえてキャラを被せておけばそれなりに信じてもらえると踏んでいる。
信じて、それでメイリーンと私と話した後、私に少しでもなびくようならと、本当に勝手だが、相手を選定しようとしている。
昔からこのようなことは何度もある。そして大抵アイリーナの方に男性は目を向ける。
だからこそなのだ。昨日の報告。
シエル・ルントレアはメイリーンの事をかなり気に入っている。それも彼女の本当の性格を知った上で。
という事であった。慌てて、探るべく、今日彼と談笑をしているのだが。
「メイリーンは魅力的でしょう?とても可愛らしのよ」
「えぇ。本当にとても愛らしいです。彼女の隣に立てる僕は幸せですね。戦争の英雄王も彼女もこの国は素晴らしいものばかりです」
よく、読めない。英雄王には確かに憧れている。私になびかないあたり、妹を大切にしそうではあるが、物凄く惚れ込んでいるという風にも見えない。出さないのか、自分でも自覚がないのか。
ダメね。仕切り直そうかしら。
そう思い場所を変える事を提案した。
そして
こん……のばか妹!
あんた部屋にいろっていったじゃない!!
本を見たいと彼が言うのだから来てみれば。
そこには自分と似た美しい顔立ちが一人。
真剣に「兵力差がありすぎる戦、10の戦術」なんて本を読んでいる。
バカなの!?バカなのよね!?ばかばか!
貴女ほんとに、何してるのよ!
「メイリーンは体調が悪いとき本を読みますのよ、そしたら頭が軽くなるとかで」
慌ててフォローをいれる。フォローにも全然なってないが。
「そっとしておきましょう」
とりあえず、その場を離れようとするが
「彼女の邪魔しませんから」
と、笑ってそっと彼女に近づく。
アイリーナ・センチュリーは聡い。だからわかってしまうのだ。
先程の話し合いでは、彼が英雄王を、彼女をどれくらい愛しているのかはよく読めなかった。
だが、彼女を捉えたときの瞳、笑顔
それらを見るに。
彼は確実に彼女に恋をしている。
アイリーナは邪魔する理由が見つからなかった。むしろ今ここで邪魔をするより今から彼の情報を探りだし、本当にメイリーンを任せてよいのか、というところを調べた方が効率がよさそうだ。
アイリーナはその場を後にした。