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魔女と聖女は紙一重  作者: 未々山田


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1.アリアの不幸

 この世界では千年に1度、地上を管理する神の選挙が行われる。


 先代の神は引退を表明し、次の神は先代の双子の息子のどちらかに絞られた。そして、天使たち、天界の人々、そして地上の人間たちの投票の結果、次の神は双子の弟に決まった。しかし、双子の兄は選挙の結果に納得いかず反乱を起こした。双子の兄は弟率いる天界の軍に負け、己の精神と13の天使を連れて地上へと逃れ、そして天界と地上の道を閉ざした。そして、地上に堕ちた双子の兄は自身を神に選ばなかった人間たちに復讐を始めた。地に堕ちた双子の兄は愚かな神、愚神と呼ばれ、人類最大の脅威となった。


 世界は愚神の手によって生物から化け物に変わり果てた魔物、愚魔で溢れていた。


 愚神は世界の南側の大陸、スール大陸に逃げ堕ちたが、その影響は次第に大陸の北西にある大きな島、ウェブリ島にまで侵食し、いつしか愚魔はウェブリ島でも確認されるようになっていた。


 ウェブリ島の最も西に位置する国、フローネ王国では愚魔に対抗するため聖女を育てていた。


 聖女とは何か。フローネ王国では神から授かりし聖なる力を使える女性のことを指した。


 フローネ王国の少女たちは10歳になると国主催の健康診断に招かれる。そこで聖女の適性があると判断されたものは半ば強制的に聖女を育てる機関、聖女学院に入学させられる。


 かなり横暴なようにも見えるが聖女になることはフローネ王国では名誉なことであり、聖女と認定された少女の両親には多額の謝礼金が支払われるため、反対の声は全くなかった。


 しかし、それは謝礼金を受け取れる大人目線の話で当事者は違うこともある。


 国の端にある孤児院に、毛の先がクルクルと丸まる金色のくせ毛の髪を自身で自身を可愛いと自慢するアリアという少女がいた。アリアも10歳になり健康診断と評した聖女の適性診断を受けるはずであった。しかし、アリアが診断を受けることはなかった。


 孤児院のシスターから地図を受け取ったアリアは笑顔で孤児院を出て適当に時間を潰して何食わぬ顔をして帰ってきた。


 アリアは知っていた、聖女の仕事を。その結果、


「聖女って要するに超過酷な重労働よね」


 と幼いころから思うようになっていた。


 アリアのその考えはあながち間違いではなかった。


 聖女の主な仕事は国の防衛である。具体的には、国内にある5か所の聖なる陣の上に聖女たちが立ち、聖なる力を込め結界を張る、というものである。ひとつの陣には3人の聖女を必要とし、中央の陣には5人の聖女が配置される。聖なる力を出し続けることは決して楽ではない。無論、愚魔から国を守る結界のため昼夜問わず、一時たりとも解くことはできない。つまりは聖女たちの仕事とはシフトの融通がきかず、夜勤もあり、国を守ると言った重大な責任を負う、究極の肉体労働なのである。


 孤児院の近くに聖なる陣のひとつがあったため、アリアは幼いころからその事実に気が付いていた。


 だからアリアは聖女の適性診断をすっぽかしたのだ。


 適性診断を受けても、アリアが受からない可能性はあったが、アリアは自分が聖女に選ばれるという確信があった。


 アリアは幼い頃に南の大陸から寄付されたという、とある絵本を読んだ。そこには愚魔の攻撃を大跳躍で躱し、手から放たれた雷の魔法で愚魔を倒す絵が描かれていた。絵の中の魔法使いは両手の指を重ね、魔法を放っていた。無邪気な子供であるアリアはそれを真似した。


「サンダー」


 アリアの手から雷が放たれた。


 雷は孤児院の窓を破壊した。慌てて駆け付けたシスターたちに、何が起きたか問われたアリアはわからないと答えた。ただ、怒られると思ったからだ。しかし、魔法を放った爽快感を忘れることはできなかった。以来、アリアは密かに絵本から魔法を学び、見様見真似の魔法の練習を続けた。


 9歳になったころである。アリアは聖女がただ結界を張る存在ではないことを知った。


 孤児院に聖女のひとりがやって来た。その聖女はこの孤児院の出身者らしく、久しぶりにシスターに会いに来たという。聖女は子供たちにせがまれ、聖なる力を見せた。


 聖女は杖から水を放った。


 その瞬間、アリアは茫然とした。聖女が見せたそれはアリアが知る魔法と全く同じであった。


 アリアは知った魔法=聖なる力だと。この頃から既に聖女にはなりたくないと思っていたアリアは自分の力を隠し通すことを決めたのである。


 アリアの思惑通りアリアは聖女学院に招かれることなく4年の月日が流れた。


 孤児院にいれるのは15歳までだった。アリアは既に独立に向け、街のパン屋で働き始めていた。孤児院に帰ると4年ぶりにあの聖女が孤児院に来ていた。


 年を重ねるごとにアリアの聖女の力は強くなっていた。そして、アリアは気づいていなかった。見る者が見ればその事実にすぐに気づくということを。


「あなた……お名前は?」


「ア、アリアです」


 アリアは前回聖女が訪れた時、聖なる力が魔法と気づき、避けていた。そのため聖女がアリアのことを覚えていないのは当然であった。


「そう……アリアちゃんね。よろしくね」


 その聖女はそう言いながら、少し子供たちと遊んだ後、シスターに急用を思い出したと告げて帰っていった。


 アリアは嫌な予感がした。その予感は見事に的中する。


 次の日、聖女たちをまとめ、聖女女学院を運営する、簡単に言えば偉い人間が3人孤児院に訪れた。


「シスター、アリアという少女はいますか?」


 シスターはすぐにアリアを呼び出した。


 3人の前に立たされたその瞬間、アリアは全てを察し、終わったと思った。


 3人はアリアを見るなりざわつき、小声で会議を始めた。そして、結論が出るとその中のひとりがシスターになにかを告げた。


 その瞬間シスターは泣き出しアリアに抱き着いた。


「おめでとう、アリア。あなた、あの聖女学院に入学できるのよ」


 ――何がおめでとうだ。


 アリアは心底思った。


 こうして4年遅れでアリアは聖女学院の入学が決まった。


 

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